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第28巻「闇の竜の戦い」

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第66章 最終決戦・2

186.最終決戦・2-1

 一方、ペガサスに乗ったオリバンとセシルとユギルは、飛んで押し寄せてくる闇の怪物を、四大魔法使いと共に食い止めていました。

 ユギルが最も効果のある敵や場所を示してくれるので、たった六人でも敵を押しとどめていますが、いくら倒してもすぐまた次が出てくるので、いつまでたっても戦闘が終わりません。

「フルートたちはどうした!? セイロスにたどり着いたか!?」

 オリバンがどなるように尋ねました。リーン、と涼やかな音が重なって、聖なる剣がまた怪物を消滅させます。

 ユギルが全体の状況を見ながら、行く手にも視線を向けました。セイロスがいるあたりは濃い霧がたちこめていますが、占者の目はそんなものにはさえぎられません。

「勇者殿たちは敵の最後の障壁を抜けました。勇者殿はセイロスと一騎討ちを始められました」

「ついにか」

 とセシルが言いました。フルートたちが戦う様子を見守りたいと思いますが、ここからではまだ距離があるし霧もかかっているので、様子はまったくわかりません。

 すると、ユギルが振り向きました。

「上でございます、セシル様!」

 彼女は、はっと手を上に向けました。今まさに飛びかかろうとしていた怪物に命じます。

「おまえの敵はあっちだ! 戦って倒せ!」

 と後方から追いついてきた怪物を示します。

 頭上の怪物はセシルの命令どおり、後方に飛んで味方に飛びかかりました。ギャァギャァ、けたたましい声を上げながら戦い、もつれながら地上へ落ちて行きます。

 ふぅ、とセシルが息をついたところへ、白の魔法使いが飛びながら並んできました。またやってきた怪物を一気になぎ払って言います。

「殿下、妃殿下、ユギル殿も、どうぞ先へお進みください。勇者殿たちの近くへ。この場は私たちが抑えます」

「そうしたいが、それは無理だろう」

 とオリバンが答えました。空を飛んで押し寄せてくる怪物は大変な数です。ここにいる全員で払っても払っても、すぐまた押し寄せてきます。しかも、青の魔法使いがキースたちのほうへ行っているので、四大魔法使いは白、深緑、赤の三人しかいません。オリバンたちが抜けたら、怪物は防衛線を突破してフルートたちのところへ向かってしまうのです。

 

 そんな話をしている間にも、深緑の魔法使いの攻撃をすり抜けた怪物が、ユギルに襲いかかっていきました。ユギルが短剣を構えて迎え討とうとします。

 すると、ユギルを乗せたペガサスがくるりと後ろを向き、後脚の一蹴りで怪物を吹き飛ばしました。ペガサスの蹄(ひづめ)には魔力があるのか、怪物が粉々になって消えていきます。

 ペガサスがユギルに言いました。

「闇の竜の近くまで行きたいというのであれば、行ってやるぞ。我々は闇と戦う天の馬だ。闇の竜と直接対決することだって厭わない」

 それはできないのでございます、とユギルは答えようとして、ふと口をつぐみました。遠いまなざしになってから言います。

「さようでございますね……。もうじきここにも援軍が到着するようでございます。そうすれば、わたくしたちももう少し前進できましょう」

「援軍?」

 とオリバンが聞き返したとき、後方でたてつづけに爆発が起きました。迫っていた怪物が集団で吹き飛んで落ちていきます。

 何事!? と身構えたオリバンやセシルに、深緑の魔法使いが目を光らせて言いました。

「ユギル殿が言われた援軍が到着したようですの。わしらの部下ですじゃ」

 空や地上に姿を現したのはロムドの魔法軍団でした。しかも、ハルマスに駐屯していた魔法使いだけでなく、王都ディーラにいるはずの魔法使いたちまでいます。魔法軍団がほぼ勢揃いしているのですから、攻撃は壮烈でした。いたるところに魔法攻撃を繰り広げて怪物を吹き飛ばしていきます。

「魔法軍団がそっくり駆けつけてきたぞ?」

「都の守備隊も来ているではないか!! 誰がそんな命令をした!?」

 赤の魔法使いや白の魔法使いが、驚いたり憤慨したりしていると、深緑の魔法使いが部下たちからの報告を聞いて言いました。

「怒るな、白。陛下のご命令じゃ。どうやら怪物は王都のあたりからもすっかりいなくなったらしい。占神の進言もあって、陛下が魔法軍団を派遣してくださったんじゃ」

 ロムド王と占神の判断となれば、女神官もそれ以上腹をたてることはできませんでした。魔法軍団は怪物相手に激しく戦って、怪物の集団を退けていきます──。

 

「よし」

 とオリバンは言いました。セシルやユギルと、フルートたちのところへ向かおうとします。

 ところがそこへ、二人の魔法使いが集団を抜けて飛んできました。薄緑がかった黄色い長衣の老婆と、鮮やかな黄色い長衣の太った男──浅黄(あさぎ)の魔法使いと檸檬(れもん)の魔法使いでした。ユギルに追いついて言います。

「待ってくださいな、一番占者様」

「エスタ国の鍛冶屋の長から伝言です」

「ピラン殿の?」

 とユギルだけでなく、オリバンやセシルも振り向きました。

「占者様が持ってらっしゃる遠見の石を出してほしいんだそうですよ」

 と老婆がユギルに言いました。檸檬の魔法使いのほうは、追いすがってきた怪物を魔法で撃退します。

 遠見の石、と言われてユギルはあわてて懐(ふところ)をまさぐりました。遠く離れたロムド城との間を、映像と声でつなぐ石ですが、敵の妨害で使いものにならなくなって、しまいっぱなしになっていました。一瞬、砦に置き忘れてきたのでは、と心配しましたが、石はちゃんと懐にありました。かちりと押してから宙に放つと、白い球のような姿で浮かびます。

「だが、これはもう使えなくなったんだろう?」

 とセシルが言ったとたん、球から甲高い老人の声が響いてきました。

「石が使えんだと!? そんなことを言ったのは、どこの誰だ!?」

「ピラン殿!」

 とオリバンたちは驚きました。以前はやりとりできなかったのに、いつのまにか復活していたのです。

 すると、石の向こうでピランが胸を張る気配がしました。

「ジタン山脈からノームたちがドワーフたちと一緒に駆けつけてきたんだ。協力したいと言って馬車に乗ってな。彼らに地面に潜って調べてもらって、妨害に負けないようにおしゃべり石の数を五倍に増やしたんだ。そのおかげでこうして声がまた届くようになったぞ。石の数を五倍にするとだな、そこを伝わる声の強さはそれのさらに五倍になって、元の声の──」

 説明に熱が入ってきたピランの話を、別の老人の声がさえぎりました。

「ユギル、聞こえるな?」

「聞こえております、陛下」

 とユギルは石の向こうのロムド王へ答えました。遠見の石の片割れは、ロムド城にあるのです。

「聞いてのとおりだ。遠見の石をピラン殿たちがまた使えるようにしてくださった。そちらの様子もこちらから見えるようになっている。そなたはこのまま遠見の石を伴って、戦いの様子を我々に知らせるのだ」

「御意」

 とユギルは言って遠見の石を見上げました。石は彼の右肩の上に浮いていて、彼の動きに合わせてついてきます。彼が見ている景色と同じような映像を、王たちもロムド城で見ているはずでした。

「父上たちもディーラから応援しているのだな。では行こう。最終決戦でフルートたちが闇に勝利する様子を、父上たちにお見せするのだ」

 とオリバンが言ったので、セシルは思わずほほえみました。オリバンは勇者の一行が闇に負けることなど、これっぽっちも想像していないのです。

「もう用事はすんだな? では行くぞ」

 とペガサスは言って駆け出しました。行く手に見えているデビルドラゴンへ向かっていきます。

 浅黄の魔法使いと檸檬の魔法使いは空中でそれを見送り、すぐに振り向きました。後方からまた闇の怪物が押し寄せていたのです。老婆が魔法でなぎ払って言います。

「なにぼさっと突っ立ってるんだい、檸檬!? あたしみたいな年寄りばかりに働かせるんじゃないよ!」

「婆さんがせっかちすぎるんだよ。頼むから俺と協力してくれよ」

 と太っちょはぶつぶつ言って、また老婆が繰り出した魔法に自分の魔法を重ねました。一帯の怪物が残らずなぎ払われて落ちていきます。

 その間にペガサスたちはデビルドラゴンへ、その背中のセイロスと戦っているフルートたちの元へ、駆けていきました──。

2023年2月28日
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