「セイロスはデビルドラゴンの背中にいる! 回り込むぞ!」
レオンがビーラーと先頭を飛びながら言いました。
間近まで来れば、デビルドラゴンは見上げるように巨大です。一行は小山ほどもある体に沿って上昇し、広場のような黒い翼の上を飛び越えて背中へ向かいます。
「あんまり近すぎない!? 直撃されたら全滅よ!?」
とレオンの後ろからペルラが言いました。彼女とシィは白銀の戦人形に抱かれて飛んでいます。
「大丈夫だ! 神竜が抑えてくれている!」
と三番手のフルートが言うと、その下からポチも言いました。
「ワン、すぐそばをとんでいるから、デビルドラゴンはあまり強力な攻撃を出せないんですよ! 自分まで傷つけてしまうから!」
そこへ行く手から攻撃が飛んできました。黒い闇の弾が軌道を曲げて向かってきますが、レオンの障壁にぶつかって砕けました。黒と白銀の火花が散って、内側の一同を大きく揺すぶります。
花鳥の翼の先から花がこぼれ出したので、メールは鳥の首をたたきました。
「しっかりしな! この程度で音を上げるほど柔(やわ)じゃないだろ。あんたたちは天空の国の聖なる花なんだからさ」
花鳥はたちまち形を取り戻しました。青い翼でまた風を切って飛んでいきます。
「見えたわ──!」
「見えたぞ、セイロスの野郎だ!」
花鳥の上のポポロとルルに乗ったゼンが同時に声を上げました。接近したために見えなくなっていたセイロスの姿が、丘のようなデビルドラゴンの背中を超えた先にまた見えてきたのです。黒光りする鎧兜を身につけ、黒い剣を握ってこちらを見据えています。その足元はデビルドラゴンの背中にぴったり貼りついています。
と、セイロスからまた攻撃が飛んできました。レオンの障壁に激突して火花を散らします。
すると、障壁から、ピシッと鋭い音が聞こえてきました。ガラスにひびが入るような音に、全員どきりとします。
「やだ、力負けしてるの!?」
とルルに言われて、レオンはむっとした顔になりました。
「この程度で破られるもんか」
と呪文を唱えると、障壁が白銀に光り出しました。障壁の厚みが増して、闇の攻撃を遠い場所で防ぐようになります。
フルートは右手の剣を引き寄せて両手で握りました。
「ぼくはセイロスと一騎討ちする。援護してくれ」
「援護射撃してやる。その間に接近しろ」
とゼンが弓に光の矢をつがえます。
レオンはペルラに言いました。
「ぼくは障壁に魔力全部を注入してるから攻撃はできない。君は攻撃魔法が使えるか?」
「できるわ。湖がすぐ近くにあるから」
とペルラは言って、招くように腕を動かしました。
「イー・ラーイ・ライラー……!」
それは竜巻を呼ぶ呪文とは少し違っていました。湖に渦巻きが立ち上る代わりに、湖面から淡く光るものが湧き上って、飛ぶような勢いでこちらへやってきます。空ではオリバンたちが闇の怪物と激しく戦っていましたが、その間を素通りし、絡み合って戦うデビルドラゴンと神竜の横を流れて追いついてきます。
とたんに一行はひんやりした空気に包まれました。流れてきたのは霧の塊だったのです。
いったいこれでどうやって──という顔をするレオンに、ペルラは、にこっと笑ってみせました。
「海の民はね、水の魔法を使うのよ。こんなふうにね!」
ペルラが鋭く手を振ると、その指先から淡い水色に光るものが飛び出していきました。レオンの障壁をすり抜けてセイロスへ飛んでいきます。セイロスが迎撃すると破裂して白い煙になったので、レオンは驚きました。
「水煙──? 空気中の水を集めて攻撃しているのか!?」
ペルラは得意そうにまた笑いました。
「そうよ。兄上や父上たちはこれで剣を作って戦うんだけど、あたしにはそこまでは無理だから投げナイフをね。小さいけれど、少しは役に立つでしょう?」
すると、ゼンがずいと横に出てきました。
「上出来だぜ、ペルラ。そのまま続けろ。水煙が煙幕になるからな」
水のナイフが破裂したときに、セイロスが一瞬眉をひそめたのが見えたのです。広がった水煙に視界を奪われかけたのに違いありません。
「よし、総攻撃だ! みんな全力でいけ!」
フルートの声に仲間たちは集中しました。
ペルラは周囲の水をナイフに変えてはセイロスに投げつけ、ゼンは光の矢を連射します。セイロスが魔弾で迎撃するので、ナイフも矢もセイロスには届きませんが、破裂するナイフが水煙になるので、やがてあたりは濃い霧に包まれていきました。セイロスもフルートたちも互いの姿が見えなくなってしまいます。
「ワン、でもぼくたち犬には居場所がわかるんですよ。匂いで」
とポチが言いました。ルルやビーラーも霧の中でも迷うことなく突進していきます。戦人形はビーラーに従っていくし、花鳥もポチたちに続いているので、はぐれずに進んでいきます。
霧を抜けたとき、そこにセイロスがいました。黒いうろこにおおわれた竜の背に立って、黒い剣を構えています。その全身から禍々しいものが立ち上っていました。ペルラが撃ち出した水のナイフは聖なる魔力で生み出されているので、闇が反応しているのです。際限なく湧き上がってくる黒い煙のようです。
レオンが言いました。
「このまま体当たりするぞ!」
「んなろ! ちっとは当たりやがれ!」
とゼンがまた矢を放ちます。
すると、矢がセイロスの鎧の腕に突き立ちました。すぐに光って消えてしまいますが、黒い防具にほころびができました。穴はすぐにふさがっていきましたが、セイロスは憎々しそうにゼンをにらみつけました。ゼンめがけて魔弾を撃ち出します。
魔弾はペルラのナイフのように鋭い形をしていました。レオンや金の石の障壁を突き破って飛び込んできますが、ゼンは少しもあわてませんでした。へっ、と笑って受け止めようとします。
とたんにルルが急降下しました。一気に数メートルも落ちたので、どぁあ、とゼンが声を上げます。
「い、いきなりなにしやがんだよ、ルル──!?」
「なにじゃないわよ! あなたの防具、もう魔法を防げないんでしょう!? 命中したら死ぬわよ!」
とルルにどなり返されて、ゼンは目を白黒させました。そんな重大なことを、すっかり忘れてしまっていたのです。
その間も彼らは突進していました。レオンの障壁は前方で分厚い盾のようになっていますが、その盾でセイロスに体当たりしていきます。
バチバチバチ……バチ、バチ!!!
火花が周囲に飛び散りました。セイロス自身も周囲に闇の障壁を張っているのです。光と闇が激突して白銀と黒の稲妻がひらめく中、レオンの障壁が食い込むように進んでいきます。
バチバチ……バチン!!!!
ついに双方の障壁が消滅しました。ガラスの破片のように粉々になって燃え、爆風が湧きおこります。
「金の石!」
フルートは仲間たちを金の光で包みました。暴風が吹き過ぎていくと、すぐまた動き出します。
「行け、ポチ!」
「ワン!」
ポチは飛び出してセイロスへ突進していきました。
「気をつけろよ!」
とレオンは言うと、また障壁を張りました。金の光がフルートと一緒に離れていったからです。
「おらおら、どうだ!」
「攻撃したって無駄よ!」
とゼンとペルラは障壁の後ろから攻撃を続けました。魔弾がフルートとポチめがけて飛んでいきますが、光の矢や霧のナイフに当たって消えてしまうので、フルートたちにはほとんど届きません。届いたものは金の光が消滅させます
ついにフルートはセイロスの真正面にやってきました。両手に握った剣で切りつけます──。
がしん、と音を立てて、大剣がフルートの剣を受け止めました。セイロスの闇の剣です。二つの刃が結び合って動かなくなります。
剣と剣を合わせたまま、セイロスとフルートはにらみ合いました。
「貴様ごときが本当に私を倒せると思っているか、愚か者め」
とセイロスが嘲りました。ガチン! と音を立ててフルートの剣を跳ね返します。
ポチは宙返りをして下からまたセイロスに迫りました。セイロスが正面に魔弾を撃ち出していたからです。
攻撃をかわして、フルートはまたセイロスに切りつけました。隙を突くように右から剣をたたき込もうとしましたが、がしん、とまたセイロスに受け止められてしまいました。右手に巻いてあったペンダントはセイロスには届きません。
「倒せると信じているよ。この世界はおまえのものなんかじゃない!」
とフルートは言って剣を引き寄せました。敵の剣を受け流したのです。セイロスが体勢を崩します。
「せぇい!!」
フルートは気合いと共に剣をセイロスに振り下ろしました──。