「来る、勇者くんが来るぅぅ!」
デビルドラゴンとセイロスの内側で、ランジュールがまた騒いでいました。
「デーちゃんったら、手下の怪物を呼び寄せただけじゃダメなんだよぉ! 勇者くんたちには助けてくれるお友だちがいっぱいいるんだからさぁ! 怪物たちに命令してうまいこと戦わせないとぉ──!」
だから魔獣使いの自分を早く解放しろ、と言っているのですが、デビルドラゴンもセイロスもそんな彼を無視していました。
そもそも、そんな余裕もなかったのです。神竜はまだデビルドラゴンに絡みついたまま放そうとしません。デビルドラゴンのほうでも神竜に食いついたのですが、たくさんの竜たちに捨て身の攻撃をしかけられて、たまらずに牙を放してしまいました。たちまち神竜が反撃してきたので、デビルドラゴンも応戦して、またかみつき合いになっています。
セイロスはフルートを見据えていました。フルートは剣を握っていますが、その手首には金の石のペンダントが巻きつけられています。
「来るな」
とセイロスはつぶやいて、自分も黒い闇の大剣を握ります──。
「我ハ手ガ回ラヌ。自分ノ身ハ自分デ守レ」
とデビルドラゴンが言ったので、セイロスは冷ややかに笑いました。
「助けろと誰がおまえに言った。連中を倒すのは私だ。金の石の勇者は二千年前に失われたのだからな。今の世に存在している必要はない」
そのやりとりに、ランジュールがアーラに言いました。
「自分の中でこぉんなふうに喧嘩を続けてるんだから、もぉ嫌んなっちゃうよねぇ。そりゃ、この二人はどっちもものすごく強いけどさぁ。強すぎるから協力できないんだろぉねぇ」
シシ、と幽霊蜘蛛のアーラが答え、ランジュールは唸りました。
「うぅん、二人がばらばらだから、神竜と勇者くんたちと、それぞれに戦えるんだってぇ? それはそぉかぁ。ひとりだったら、あっちもこっちもってわけにはいかないもんねぇ」
話しながら、ランジュールはくすくす笑い出しました。
「ねぇ、アーラちゃん、これっていわゆるラスボス戦なんだよぉ。ホントの最終決戦ってヤツ。セイロスくんとデーちゃん対勇者くんたちの戦い。どっちが勝つだろぉねぇ? 見物(みもの)だよねぇ。うふふふ」
ランジュールの聞こえよがしの話も笑い声も、セイロスやデビルドラゴンに届いているはずでしたが、相変わらず反応はありません。
「ま、どぉせボクたちを外に出すつもりはないんだろぉからさ。このまま特等席で観戦させてもらおぅねぇ、アーラちゃん」
とランジュールは悠々と言いました。
彼らの視界には、セイロスに向かってまっしぐらに突っ込んでくるフルートたちの姿がありました──。