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第28巻「闇の竜の戦い」

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第65章 最終決戦・1

183.最終決戦・1-1

 フルートはデビルドラゴンの障壁を光炎の剣で切り裂きました。

 分厚いガラスのように取り囲んでいた障壁が、音を立てて砕けて行く手がひらけます。

 とたんに彼らは全身鳥肌立ちました。強烈な闇の気配が押し寄せてきたのです。目には見えませんが、濃い霧のように彼らを押し包んで絡みついてきます。レオンとフルートが聖なる障壁で守っているのに、それでも入り込んでくるのです。

 一行の突進の速度が鈍りました。恐怖が彼らの心を捕まえていきます──。

 すると、フルートが声を張り上げました。

「追い返せ、金の石!」

 たちまち胸の上でペンダントがまぶしく光り出しました。金の光が濃くなって、障壁の内側から闇を追い出します。

 ふぅっと一同は息を吐きました。

 戦人形に抱かれていたペルラが冷や汗を拭って言います。

「危なく逃げ出すところだったわ……。これだけ守りを固めても侵入してくるなんて、どれだけ強力なのよ」

「奴は闇そのものの権化だからな。人は必ず内側に闇を持っている。それが呼応するから、完全には防げないんだ」

 とレオンが言いました。それを聞いたルルが、びくりと身をすくませたことに、ゼンは気がつきます──。

 けれども、フルートはまったくひるみませんでした。

「大丈夫だ。金の石が守ってくれているから心配ない。行こう」

 その目は間近に迫ったセイロスだけを見据えています。

 レオンは苦笑しました。

「君を怖がらせて追い払うのは、デビルドラゴンでも至難のわざだろうな。だから聖守護石も簡単に奴の恐怖を撃退できるんだ」

「そりゃフルートだもん。当たり前さ」

 とメールが答え、仲間たちは、うんうん、とうなずきました。風の犬になったポチやルルまでがうなずいていましたが、肝心のフルートはまったく耳に入っていないようでした。セイロスまでの距離を測りながら言います。

「ぼくたちの狙いは奴だけだ。ここまで来たら作戦もない。とにかく奴に迫って、奴に金の石を押し当てる」

「あいつの顔を狙うんだったよね?」

 とメールが言うと、ゼンも言いました。

「セイロスの野郎はデビルドラゴンの背中に貼り付いて離れられねえからな。奴が動けねえようにすれば、こっちのもんだ」

「そんなに簡単にいく? セイロスに接近するってことは、デビルドラゴンに近づくってことなのよ?」

 とペルラが言いました。闇の竜はもう本当に彼らの目の前に迫っていたのです。視界の大部分はデビルドラゴンの黒い体で占められています。

「あっちは神竜と一騎討ち中だし、竜たちも攻撃している。ぼくたちがセイロスに接近できるようにしてくれているんだ」

 とフルートは言うと、強く輝いているペンダントを首から外して、自分の右の手首に巻きつけました。その手で光炎の剣を握り直します。剣で攻撃しながら、隙を見てセイロスに金の石を押し当てようというのです。

 

 すると、ビーラーが言いました。

「闇の怪物がこっちに来るぞ! すごい数だ!」

 空を飛ぶ怪物たちが集団になって押し寄せてくるのが見えたのです。あまり数が多いので、流れる黒雲のように見えます。

「ワン、地上からも来ますよ! デビルドラゴンが呼び寄せてるんだ!」

 とポチも地上から迫る集団を見つけました。肉坊主が半数ほどで、それ以外の闇の怪物も多く混じっています。

「地上のはともかく、空の怪物は追いつきそうだわ! どうしますか!?」

 とシィが言いました。彼女はシードッグに変身しても戦えないので、小犬の姿のままで戦人形に抱かれています。

 すると、神竜がキェェと声を上げました。デビルドラゴンを攻撃していた竜たちが向きを変えて闇の怪物へ飛び始めます。神竜が迎撃を命じたのです。

 ところが、デビルドラゴンが神竜の首に食いついて牙を突き立てました。神竜がたまらず悲鳴を上げたので、竜たちはいっせいに引き返していきました。自分たちの王を助けるため、またデビルドラゴンに襲いかかっていきます。

「怪物が追いついてくるわ!」

 とポポロが振り向いて言いました。迷うように自分で自分の手を握りしめています。

「俺が追い払ってやる。いくぞ、ルル」

 とゼンが弓を構えたので、ルルが言い返しました。

「あれだけの数をゼンひとりで!? 無理よ!」

 いくらゼンが弓の名手でも、矢は一度に一匹しか倒せないのです。

 フルートも後方の怪物と目の前のセイロスを見比べて迷っていました。セイロスに接近しても、すぐに金の石が使えるはずはありません。戦って隙を狙っている間に怪物が追いつくのは目に見えていたし、怪物との混戦になれば、セイロスと一騎討ちするのは難しくなってしまいます。どうしよう、と考えます──。

 

 ところが、空を飛んで迫る怪物の後方で爆発が起きました。巻き込まれた怪物が吹き飛ばされて落ちていきます。

 続けてまた爆発が起きて、さらに十数匹の怪物が墜落します。

 何事かと驚いているフルートたちに、声が聞こえてきました。

「こちらは私たちに任せて行け!」

 オリバンの声でした。後方から怪物に襲いかかる人々が見えます。そのうちの三人は翼がある白馬にまたがっています。

 ひゃっほう! と彼らは声を上げてしまいました。

「オリバンとセシルだ!」

「ユギルさんもいるよ!」

「四大魔法使いもいるわ……!」

「あれはペガサスじゃないか。天空の国から応援に来たのか」

 とレオンはますます驚きました。天の馬は誇り高くて、めったなことでは人を背に乗せないと知っていたからです。

 四大魔法使いが繰り出す魔法が、怪物を次々撃墜していました。気がついて引き返してきた怪物を、オリバンが聖なる剣で片端から切り捨てます。リーン、という剣の音が勇者の一行のところまで聞こえてくるようでした。

 ところが、オリバンの剣をかわした怪物が、その後ろにいたセシルに飛びかかっていきました。セシルは聖なる武器を持っていません。

「危ない──!」

 フルートたちが思わず叫ぶと、セシルが怪物を見据えました。手を突きつけて何かを言い、その手をさっと動かします。

 すると、セシルに襲いかかろうとしていた怪物は、セシルが示したほうへ動いて、そこにいた別の怪物に飛びつきました。空中で激しく取っ組み合って戦い、やがて二匹とも地上へ落ちていってしまいます。

「セシルったら、闇の怪物を操って同士討ちさせたんだわ」

 とルルが呆れたように言いました。セシルが強力な魔獣使いだったことを思い出したのです。

 セシルの後ろにはユギルがいて、怪物を指さしては何か言っていました。セシルがうなずいて、その怪物へまた手を突きつけます。

「ワン、ユギルさんが教えてくれているんだ」

 とポチは言いました。戦況を先読みして、最も効果があるところを攻撃するように指示しているのです。

「オリバンの言うとおりだ。後ろは任せよう」

 とフルートが前に向き直ったとたん、こちらを見ていたセイロスと目が合いました。血の色の瞳がフルートをにらみつけてきます。

 フルートも、ぐっと相手をにらみ返すと、光炎の剣を握り直しました。その手首には金の石のペンダントが巻きつけてあります。

「行くぞ! 決戦だ!」

 フルートは声を上げて、セイロスへ飛び始めました──。

2023年2月13日
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