「痛い! 痛い、痛い痛い! 痛ぁぁいぃ!!」
デビルドラゴンとセイロスの中で、ランジュールが騒ぎ続けていました。
竜王の命令で竜の群れが押し寄せ、闇の障壁を素通りして攻撃してくるのです。セイロスは自分に襲いかかる竜を撃退していましたが、デビルドラゴンは稲妻や炎で体を焼かれ、矢や槍になった竜のうろこに突き刺されていました。それがランジュールにまともに伝わっているのです。
「もぉもぉもぉ! デーちゃんもセイロスくんも、どうしてやられっぱなしでいるのさぁ!? あれだけ集団で来るんだから、まとめてどんどん焼き払っちゃなよぉ!」
「連中ハ竜ノ王ニ守ラレテイル。攻撃ハ容易デハナイ」
とデビルドラゴンが答えました。神竜が竜の群れに守備魔法をかけているので、闇の竜の魔力でも簡単には破れなかったのです。一度攻撃してから次の攻撃を行うまでに間が開いてしまいます。
「前回も連中には手こずらされたな」
とセイロスも苦々しくつぶやきました。二千年前の敗北の記憶が蘇ってきたのです。
「キミたちってほんっとにユラサイに弱いよねぇ!? こぉんなにユラサイが鬼門だったなんてさぁ! さっさとボクとアーラちゃんを外に出しな! ボクは超一流の魔獣使いだから、あの竜の群れを全部ボクのペットに変えてあげるからぁ──! あ、ついでに神竜サマもボクの言うことを聞くよぉにしよぉかしら? うふふ、それはすごくいいなぁ」
ランジュールは話の途中から機嫌を直していきましたが、相変わらずデビルドラゴンたちの中から自由にならなかったので、また怒り出しました。
「どぉしてボクたちを解放しないのさぁ!? 協力してあげるって言ってるのにぃ!」
「貴様は信用できん」
とセイロスは冷ややかに言いました。
「貴様ガ欲シテイルノハ、ふるーとトろむど皇太子ノ魂ダ。竜ノ群レヲ従エタラ、ソノママ姿ヲクラマシ、連中ガ我ラト戦ッテチカラガ弱ッタトコロヲ襲撃シテ、目的ノモノヲ手ニ入レヨウト考エテイルノダ」
とデビルドラゴンも言いました。全員が同じ体の中にいるのですから、考えていることも伝わっていたのです。
はぁぁ、とランジュールはわざとらしく溜息をつきました。
「混じりっけなしの闇ってのは、ほぉんと協力するのが超苦手だねぇ。嘘でもだまし合いでもいいから、形だけでも協力すればうまくいくのに、それがどぉしてもできないんだもん。そんなだから、持ってる力を充分発揮できないんだよぉ。ホントなら、もぉ敵を百回くらい焼き尽くして全滅できてたはずなのにさぁ。これ以上はいくら言っても無駄だね。ボクはもぉしぃらないっと」
ランジュールは皮肉たっぷりに言うと、それきり黙り込んでしまいました。敵の竜の攻撃は続いていますが、急にあたりが静かになります。
セイロスがデビルドラゴンへ言いました。
「連中が迫っている。竜の群れをよく見張れ。連中はそこに隠れているぞ」
「オマエコソ油断ヲスルナ。連中ハオマエノ顔面ヲ狙ッテクル。ソコガ我ラノ弱点ダ」
「そんなことは、おまえに教えられるまでもない」
そっけないやりとりでした。やはり協力とはほど遠いひとりと一頭です──。
そのとき、ランジュールの声がまた響き渡りました。
「いたぁ! すぐそこ! 群れの中に見えたよ! 勇者くんたちだぁ!」
迫ってくる竜の群れの隙間から、白いものがちらりと見えたのです。
デビルドラゴンとセイロスは同時にそちらへ攻撃を放ちました。闇の衝撃波と魔弾が竜の群れを吹き飛ばしていきます。
すると、その中から白く長いものが姿を現しました。風の犬のポチやルルではありません。もっと巨大な生き物──白いうろこにおおわれた神竜でした。迎え討とうとするデビルドラゴンの攻撃をかわして下に回り、腹部にかみついていきます──。
「いったぁぁぁいぃぃ!!!」
ランジュールがまた悲鳴を上げました。
セイロスは反撃しようとしましたが、デビルドラゴンの背に立っているので、体にさえぎられて神竜を攻撃することができませんでした。
デビルドラゴンが長い首をねじって神竜の体に食いつきます。
ところが、神竜は離れようとはしませんでした。デビルドラゴンの腹にいっそう深く牙を食い込ませて、ぐいぐい押していきます。
神竜とデビルドラゴン。どちらも巨大な竜ですが、神竜は体が大蛇のように長く、デビルドラゴンは太い体に大きな四枚翼のがっしりした体格をしていました。迫力はどちらも同じくらいですが、体そのものは神竜のほうが大きく質量もあります。結果、次第に押されていったのはデビルドラゴンのほうでした。幾度も神竜にかみつきますが、神竜は停まりません。
デビルドラゴンは頭を引くと、口から大きな炎を吐きました。神竜の長い体の半分ほどが火に包まれます。
けれども、たちまち黒雲が湧き、土砂降りの雨が炎を消しました。ユラサイの竜たちが神竜に追いついて飛んでいました。雲を呼んで雨を降らせるのは彼らの得意技です。
「至近距離から竜王の頭を吹き飛ばせ!」
とセイロスが命じました。彼自身はまだ神竜の反対側にいるので、直接攻撃することができません。
デビルドラゴンがまた神竜へ口を開けたとたん、そこへ一匹の竜が飛び込んでいきました。全身に稲妻をまとった黄色い竜でした。デビルドラゴンが口を閉じて食い切ってしまいますが、咽の中で爆発が起きました。デビルドラゴンが次の攻撃を吐けなくなります。
すると、神竜がデビルドラゴンに食いついたまま言いました。
「奴を押すのだ! 押して押して、奴を山に縫い止めよ!」
色とりどりの竜たちがそれに応じていっせいにデビルドラゴンに群がっていきました。神竜が食いついている腹に回り、頭でデビルドラゴンを押し始めます。
デビルドラゴンはみるみる空中を押されていきました。四枚翼を激しく羽ばたかせて抵抗しますが、神竜と何百匹もの竜の力にはかないません。ついにはデセラール山の山腹まで押しやられ、険しい崖に後ろ向きでたたきつけられました。
背中に立っていたセイロスも、デビルドラゴンの体と崖の間に挟まれます。
神竜はデビルドラゴンの腹から牙を抜きました。蛇のような体でデビルドラゴンに絡みつき、頭に食いつこうとします。デビルドラゴンも対抗して牙をむき、互いに相手の首にかみつきます。
どぉん!
セイロスは自分を挟んでいた崖を魔法で砕くと、デビルドラゴンの背に立ち直しました。目の前に絡まる神竜の太い胴へ手を向けます。
「貴様さえ倒せば、残りの竜など恐れるに足りん」
と神竜へ魔弾をたたき込もうとします。
ところが、そこへ空から竜の大群が襲ってきました。色とりどりの竜が巨大な一匹の竜のようになってセイロスに向かってきます。
セイロスは手を上げて竜の群れを攻撃しました。魔弾を食らった竜が吹き飛び、集団が空の中で崩れていきます。
「ふん」
セイロスはいまいましそうに鼻を鳴らして、改めて神竜を攻撃しようとしました。先に撃ち出した魔弾はまだ次々に爆発して、竜の群れを撃墜しています──。
すると、竜の群れの中から離れるように飛び出したものがありました。フルートを乗せたポチと、ゼンを乗せたルル、それにメールとポポロを乗せた花鳥です。
「で、出たぁぁぁぁ!!!!」
ランジュールの素っ頓狂な声が響く中、勇者の一行は唸りを上げてセイロスへ突進していきました──。