一方、フルートは飛びながら仲間たちに話していました。
「デビルドラゴンを攻撃して抑えるのは神竜たちに任せる。ぼくたちの狙いはセイロスだ。接近して金の石を奴に押し当てる──。それも鎧の上からじゃだめだ。奴の鎧は金の石や願い石の力を防いでしまうから、奴の体が出ている部分を狙わなくちゃいけないんだ」
「ワン、ということはセイロスの顔を狙うってことですね」
とポチが言いました。
セイロスは黒い水晶の鎧で全身を包み、竜の形の黒い兜をかぶっています。鎧の胸当てからは黒水晶の咽当てが顎まで伸びていますが、顔そのものはむき出しになっているのです。
「結局セイロスもそこが急所だってことなのね……」
とポポロが言いました。セイロスも、と言ったのは、フルートも同じ場所が唯一の弱点だからです。
「奴と取っ組み合えたら、あのいまいましい防具をむしり取ってやるんだがな」
とゼンが言うと、フルートは真剣な顔で首を振りました。
「たぶんそれは無理だ。あの防具にはデビルドラゴンが同化している。脱がせようとしてもできないはずだ」
「ってことは、やっぱり奴の顔を狙わなくちゃいけないんだ。超接近戦だね」
とメールが話に加わってきました。
「金の石を押し当てなくちゃいけないんだ。接近するしかないんだよ」
とフルートは苦笑します。
話すうちに彼らは竜の群れの中に入り込んでいました。色とりどりの竜が周囲を固めているので、デビルドラゴンやセイロスは見えなくなっていましたが、彼らはかまわず飛び続けました。竜たちは敵を攻撃するために突撃しているのですから、一緒に飛んでいけば必ず敵の元へたどり着くのです。
すると、ルルが話題を変えました。
「それにしても、ねえ、あいつらはポポロを狙ったわよね? それも一度ならず二度までも。どうしてなの? あいつらがフルートを狙ったり、私たち全員を殺そうとするならわかるんだけど、どうしてポポロだけを狙うのよ? わけがわからないわ」
ルルはゼンを乗せて最後尾に下がっていましたが、すぐ前を飛ぶ花鳥にぴったりつくようにして飛んでいました。花鳥にはメールと一緒にポポロが乗っています。いざというときには前に飛び出してでもポポロを守ろうと考えているのです。
「ユギルさんもポポロが狙われるって言ったんだろ? どうしてなのか教えてくれたのかい?」
とメールも尋ねると、ポチは首を振りました。
「ワン、ユギルさんは理由までは教えてくれませんでした」
「ユギルさんはぼくたちのために占って、その結果を伝えてくれたんだ。いつだって占いは理由までは知らせないからな」
とフルートも言います。
すると、話を聞いていたレオンが考えながら言いました。
「セイロスは世界の最果てから復活しても、一度もパルバンに行こうとはしなかった。パルバンはこの世界から切り離されて守られていたから、単に行く術(すべ)がなかっただけかもしれないが、ひょっとすると、そのことが招く結果に気がついていたのかもしれないな」
「そのことが招く結果ってなによ?」
とペルラが聞き返しました。
「エリーテ姫に与えた力を取り戻したら、自分自身が破滅するってことさ」
とレオンが言ったので、一同は目を見張りました。エリーテ姫が話題に上がったので、フルートが心配そうにポポロを振り返りますが、ポポロは、大丈夫、とうなずき返しました。いくら自分がエリーテ姫の生まれ変わりだと言われても、記憶がないのですから、他人の話を聞いているのと同じだったのです。
レオンは話し続けました。
「ずっと考えてはいたんだ。奴らが闇の竜の力を全部取り戻したらどうなるんだろう、って。確かに闇王のイベンセがポポロから力を奪っていったから、奴らはかなり力を取り戻したが、まだ完璧じゃない。これが完璧になったら闇の竜も完全になる。そうなったら、闇の竜は嬉々として世界中の破壊を始めるだろう。それが闇の持つ本性だし、闇のすべてだからな。闇は他者の存在をまったく顧みない。ただ破壊して破滅させるだけの存在だから、結果としてセイロス自身も闇の竜に破壊されていくんだよ──。今はセイロスと闇の竜がそれぞれに存在しているけれど、闇の竜が完璧になれば、きっとセイロスは呑み込まれてしまうだろう」
「それってつまり、セイロスはデビルドラゴンに吸収されて、セイロスじゃなくなるってことかい?」
とメールが聞き返しました。
「ワン、でも、セイロスがエリーテ姫に分け与えたのって、抑止の力でしたよね? それを取り戻したら、セイロスはデビルドラゴンを制御できるようになるんじゃないですか?」
とポチも尋ねます。
レオンは首を振りました。
「力は、それを持っていたものから離れたとたん役割を失う。セイロスからエリーテ姫に移ったとたん、抑止の力はただの魔力に変わったし、それがポポロに引き継がれても、やっぱり純粋な力のままだ。ものすごく強大だったけれどな。だから、その力がセイロスや闇の竜が戻っても、もう抑止力には変わらないんだ。単純に、失われていた闇の竜の力が完璧に戻るだけだ」
んんん……? と難しい話が苦手なゼンは頭をひねりました。メールやペルラも完全には理解できなくて、きょとんとしてしまいます。
けれども、フルートは指を口元に当てながら言いました。
「そうか。セイロスとしては、力は取り戻したかったけれど、完全には取り戻したくなかったのか。完全になれば自分もデビルドラゴンに変わって、自分が支配するはずの世界を破壊してしまうから──。セイロスはイベンセが奪っていったポポロの力で充分だったんだ」
「でも、それでどうしてポポロだけを狙うのよ!? これで充分だって言うなら、私たち全員を殺そうとするはずでしょう!?」
とルルがどなるように聞き返しました。大事なポポロが狙われているので腹を立てています。
「セイロスとデビルドラゴンは対立しているのかもしれないな」
とフルートは鋭く言い当てると、考えながら話し続けました。
「デビルドラゴンは今でもまだポポロに残っている力を狙っているはずだ。それがないと完璧に戻れないからな。だけど、セイロスはデビルドラゴンを完璧にしたくはない。だからポポロを集中的に狙っているのかもしれない──」
本当は、ポポロだけを殺そうとしているのはデビルドラゴンで、そこにはフルートの存在も絡んでいるのですが、さすがにそんなところまで推理することはできません。
「いずれにしても、ポポロはまた狙われるかもしれないってことだな。気をつけろよ、ポポロ」
とレオンに言われて、ポポロは、ええ、とうなずきました。緊張した顔で自分の星空の衣を握りしめます。
すると、戦人形の腕の中で前方を見ていたシィが声を上げました。
「今、ちらっとデビルドラゴンが見えました! もう目の前まで来てます!」
周囲を固めて飛ぶ竜たちの間から行く手が見えたのです。
全員はいっせいに戦闘態勢に入りました。フルートは光炎の剣を抜き、メールは花鳥を攻撃力が高い青い色に変え、ゼンは弓を外して光の矢をつがえます。ペルラはいつでも魔法が使えるように戦人形に抱いてもらいました。レオンは自分たちの前の障壁をさらに丈夫にします。
「ここから先は声を出すな。敵に気づかれないようにしながら、可能なところまで接近するぞ」
とフルートは言い、あとは無言になって仲間たちと飛んでいきました──。