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第28巻「闇の竜の戦い」

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第62章 無音

174.看破

 セイロスとデビルドラゴンが入れ替わりに気がつく直前。

 「赤さんがやられたぞ!」

 砦へ飛んだ衝撃波の行方を確かめていた青の魔法使い──いえ、ゼンが声を上げました。

 一緒に飛竜で飛んでいた仲間たちが、えっと驚きます。

「赤さんはポポロに化けてたはずだろ!? それなのに赤さんが狙われたのかい!?」

 と深緑の魔法使いに化けたメールが言いました。老人の姿と声なのに話し方がメールなので、いささか奇妙に聞こえますが、当人も仲間たちも気にする余裕はありません。

「赤さんの様子は!? 無事か!?」

 とフルートが尋ねました。こちらは白の魔法使いの姿ですが、女神官は普段から男ことばで話すので、あまり違和感はありません。

 赤の魔法使いに化けたポポロが、猫の瞳で振り向きました。

「たくさんの血が──あ、でも大丈夫。急所は外れてるわ。赤さんは無事よ」

「あれで無事なのか!? 赤さんは心臓を撃ち抜かれたんだぞ!?」

 納得しないゼンに、ポポロはさらに目をこらして言いました。

「赤さんはあたしに化けてたから、撃たれた場所は胸じゃなかったのよ……。頭をかすったけど、魔法で血を止めたみたい。命に別状はないわ」

「ワン、よかった」

 とフルートの前から声がしました。ポチも飛竜に乗っているのですが、透明の術をかけられているので、姿は見えません。

「よくないわ! あそこに本当にポポロがいたら即死だったのよ!? ポポロの命を狙ってくるなんて、どういうことよ!?」

 とルルがゼンの前で憤慨していました。こちらも姿消しの術がかけられているので、声が聞こえてくるだけです。

 フルートは女神官の顔に厳しい表情を浮かべました。

「ユギルさんが言っていたとおりだ──」

「ユギルさんの?」

「なんて言ってたのさ?」

 とゼンやメールが聞き返します。

「ポポロに命を守るように言っていたんだよ。ぼくよりも誰よりも、自分自身の身を守れって。まさかとは思っていたんだが、本当にポポロを狙ってくるなんて」

 すると、そのポポロが、あっ、とまた声を上げました。

「赤さんが元の姿に戻ってく! 白さんたちも──正体がばれたんだわ!」

 一同は顔を見合わせました。彼らはまだ四大魔法使いの姿ですが、向こうの正体がばれたとなれば、こちらがばれるのも時間の問題です。

 

 そのとき、フルートを乗せた飛竜の竜使いが振り向いて言いました。

「勇者殿、湖を渡りきりました!」

 飛竜部隊が渡れずの水になったリーリス湖を完全に越えて、陸地の上に出たのです。

 フルートは言いました。

「ポチ、ルル、変身しろ! 前に出るぞ!」

 シュン、と飛竜の上から風の音がして、二匹の風の犬が空中に現れました。背中にはそれぞれフルートとゼンを乗せています。

 メールは自分とポポロが乗った飛竜をぽんとたたきました。

「ありがと。もう鳥に戻っていいよ」

 とたんに飛竜は形が崩れて青と白の花が入り混じった巨大な鳥に変わります。

 ここに来て、敵はついに彼らの正体にも気づいたようでした。女神官は金の鎧兜のフルートに、武僧は青い胸当てをつけて弓矢を背負ったゼンに、老人はメールに、猫の目の小男はポポロに、と本来の姿に戻っていきます──。

 悠々と羽ばたく花鳥の背中で、メールが苦笑していました。

「結局さ、花鳥なら渡れずの水も飛び越えられたんだよね。あれは海の民と風の犬に乗った天空の民を邪魔するためのものだったんだから。もっと早く気がついていたらなぁ」

 ルルの背中ではゼンがちょっと得意顔になっていました。

「ここまでばれなかったんだから、俺の演技もなかなかだろう? 青さんならこうするはずだって考えながらやってたんだぜ」

「どうかしら? ばれなかったのは、私たちに術をかけてくれたのがラクさんだったからよ。ユラサイの術はセイロスにもデビルドラゴンにも見破れないんだもの」

 とルルが言ったので、なんだよ、とゼンはふくれます。

 フルートはポチと一緒に飛竜部隊を追い越しながら声を張り上げました。

「敵は目の前だ!! 一気に切り込め!!」

 飛竜部隊はすでに目前のデビルドラゴンに攻撃を始めていましたが、フルートの呼びかけにぐんと速度を上げました。全体が一丸となって突進していきます──。

 

 

 「勇者殿たちも元の姿に戻った。最終突撃の開始だ」

 ハルマスの砦の船着き場で、白の魔法使いが湖の向こうを見ながら言いました。

「向こうも敵に正体がばれた、ということじゃな。まあ当然じゃが」

 と深緑の魔法使いも言いました。変身が解けて復活してきた白いあごひげをしごきます。

 青の魔法使いはまだ渋い顔でした。

「いやはや、肝が冷えましたぞ。まさか赤ひとりが狙われるとは思っていませんでしたからな。もう大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。攻撃が正確すぎたからな。俺の頭の上をほんのちょっとかすめただけですんだ」

 と赤の魔法使いが答えました。ムヴア語で話しているのですが、仲間たちにはちゃんと通じます。

 そこへ砦のあちこちから魔法軍団の心話が押し寄せてきました。

「隊長!」

「隊長全員がこっちにおいでだったんですか!?」

「赤様、ご無事ですか!?」

「お怪我は!?」

「隊長、天空軍から先ほど連絡がありました! 宙船から脱出した河童は大怪我をしていますが、一命を取り留めたそうです!」

 そんな報告も飛び込んできます。

 白の魔法使いは隠してあった杖を空中から取り出しました。だん! と桟橋を突いて部下たちに呼びかけます。

「砦にはまだ敵の怪物が残っている! 全員で一気に駆逐するぞ! 終了したら勇者殿たちの援護だ!」

 おおおお!!!!

 魔法軍団がいっせいに歓声を上げました。実際に声を上げたので、砦で戦っていた兵士たちが、ぎょっとしたように魔法使いたちを振り向きます。

「いよいよですな」

 青の魔法使いが湖の向こうを見ながら言いました。飛竜部隊が集団になってデビルドラゴンへ向かっていく様子が見えています。

「ああ、いよいよ最終決戦じゃ」

 と深緑の魔法使いが応えました。鋭いその目は飛竜の先頭に飛び出して突き進んでいく勇者の一行を見つめています。

「さあ、俺たちもさっさと雑魚(ざこ)を片付けて勇者殿たちの応援だ!」

 と赤の魔法使いが言い、四人は砦の中央へと飛んでいきました──。

2023年1月4日
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