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第28巻「闇の竜の戦い」

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173.企み

 デビルドラゴンの衝撃波は槍のようにポポロの胸を突き刺しました。

 ポポロが声もなく倒れ、仲間たちが仰天して駆け寄ります──。

 

 驚いたのはセイロスも同様でした。頭上でまだ首を伸ばしているデビルドラゴンをどなりつけます。

「何故ポポロだけをやった!? 他の連中も殺せ!」

「イイヤ、コレデイイ。我ハぽぽろノ心臓ヲ撃チ抜イタ。聖守護石デモぽぽろハ復活サセラレナイ。ふるーとガコノ後ナニヲスルカ、見テイルガイイ」

「なに!?」

 セイロスは相手をにらみました。闇の竜が何を企んでいるのかつきとめようとしますが、竜は巧みに自分の考えを隠してしまいます。

 

 すると、どこからか、うふふふっ、という笑い声が聞こえてきました。

 女のような笑い方をしていますが、若い男の声です──。

 セイロスは大きく眉をひそめました。

「その声はランジュールだな? どこにいる。貴様は我々に吸収されて消えたはずだぞ」

「うふふ、そぉそぉ。ボクもアーラちゃんも君たちに食べられちゃったからさぁ。もう外にはいないよぉ。ボクは君たちの内側から話しかけてるんだよねぇ」

 とランジュールが声だけで答えてきました。その声はセイロスとデビルドラゴンの頭の中だけに聞こえています。

「我ラノ中デマダ生キテイタノカ。ドウヤッタ、幽霊?」

 とデビルドラゴンも尋ねます。

「うふん。キミたちがボクたちをすり潰して、他の連中の魂と一緒くたに吸収しよぉとしたからさぁ、アーラちゃんに糸の繭(まゆ)を作ってもらって、その中に隠れたんだよぉ。今もそこから話しかけてるんだけどさぁ──キミたちってほぉんと面白いねぇ。ひとりの中で対立して喧嘩ばっかりしててさぁ。そのうえ、二人してだまし合いしてるんだもんねぇ。キミたちがこんなコトばかりしてるなんて、中に来るまでわかんなかったなぁ」

 くすくすくす。女のような笑い声がセイロスとデビルドラゴンの中にまた響きます。

「耳障りだ。去れ」

 セイロスが強制的に消滅させようとすると、ランジュールが言いました。

「あれぇ? そんなコトしていいのぉ? デーちゃんはお嬢ちゃんだけを殺しちゃったけどさぁ、それがどぉしてか知りたくないのぉ? ボクはセイロスくんの考えてるコトも、デーちゃんが考えてるコトも、どっちもよくわかっちゃうんだよぉ?」

 ランジュールがデーちゃんと呼んでいるのは、デビルドラゴンのことです。

 なに? と聞き返したのが、セイロスだったのかデビルドラゴンだったのか。自分たちにもよくわからない状況で、デビルドラゴンが言いました。

「ソンナモノヲ語ル必要ハナイ。我ラハヒトツノ存在ダ」

「いいや、話せ」

 とセイロスが言いました。同時に頭の中で、ばちっと何かがぶつかるような音もしました。デビルドラゴンがランジュールを消去しようとしたので、セイロスが守ったのです。

「うふふ、どぉもねぇ、セイロスくん」

 ランジュールは余裕綽々(しゃくしゃく)です。

「あのねぇ、デーちゃんはそろそろセイロスくんにうんざりしてきてるんだよぉ。セイロスくんったら、いつまでたってもデーちゃんに逆らって、デーちゃんの言うことを聞かないだろぉ? それどころか命令ばっかりしてるからさぁ。デーちゃんはセイロスくんからお引っ越ししたいって考え始めてるんだよぉ」

 セイロスはたちまちデビルドラゴンの真意を察しました。

「それでポポロだけを殺したか! フルートの肉体を狙っているな!」

「ちょ、ちょぉっとぉ! セイロスくんったら、理解早すぎぃ!」

 とランジュールは不満そうに言いました。相変わらず声だけの存在です。

「まぁ、そぉいうコトなんだけどねぇ。セイロスくんは勇者くんたち全員をいっぺんに殺して、願い石を使えないよぉにしたいわけだけどぉ、デーちゃんはお嬢ちゃんだけを殺して、勇者くんにお嬢ちゃんの生き返りを願わせよぉとしてるってコトぉ。大事な大事なお嬢ちゃんが死んじゃうなんて、あの勇者くんには我慢できないもんねぇ──。勇者くんは絶対に願い石にお嬢ちゃんの復活を願っちゃう。で、そぉすると、お嬢ちゃんは人が変わって勇者くんを殺しちゃう。それが理(ことわり)ってヤツだもんね。デーちゃんはそこを狙ってお嬢ちゃんの力を取り込んで、ついでに勇者くんの体も手に入れちゃおうって考えてるわけ。うふふ。デーちゃんはものすごく強力な闇だから、普通の人だと入れ物にならなかったんだねぇ。それこそ金の石の勇者くらいの正義の味方じゃないと、体が溶けておどろになっちゃうんだ。これは知らなかったなぁ。でもさ、デーちゃんもなかなかすごいと思うよぉ。セイロスくんとおんなじ体にいながら、セイロスくんに気づかれないよぉに、これだけ企めるんだからさぁ──」

 ランジュールはとうとうと話し続けていましたが、セイロスもデビルドラゴンも返事はしませんでした。互いににらみ合い、同時に湖の対岸を見ます。

 船着き場の桟橋では騒ぎが起きていました。胸を撃ち抜かれて倒れたポポロに大勢が駆け寄ります。フルートが真っ青な顔でポポロを抱き起こしています。ポポロの胸から流れ出た血がフルートの胸当てを汚します。

 デビルドラゴンが言いました。

「ぽぽろヲ殺シタガッテイタノハ、オマエダ、せいろす。我ハぽぽろノ心臓ヲ吹キ飛バシタ。アトハふるーとニ願イ石ヲ使ワセルダケダ」

「うんうん。そぉすればもぉ願い石を怖がる必要もなくなるもんねぇ」

 とランジュールが口を挟みます。

「復活したポポロがフルートを殺そうとして、返り討ちに遭ったらどうするつもりだ」

 とセイロスが聞き返しました。

「わぁお、勇者くんがお嬢ちゃんを殺すってぇ? あの勇者くんにできるかなぁ? だけど、本当にそれができたら、ものすごい修羅場(しゅらば)だよ。うんうん、いいねぇ」

 とランジュールは勝手に相槌を打ちます。

「ソノトキニハ、ヤツハ一気ニ我ノモノダ」

 とデビルドラゴンが答えました。

「なるほどぉ。お嬢ちゃんを殺して闇落ちした勇者くんを捕まえよぉっていうんだねぇ。さっすが闇の権化のデーちゃん。うふふふ」

 ランジュールはとにかく楽しそうです。

 

 そのとき、セイロスとデビルドラゴンの頭の中で、チ、と甲高い声がしました。

「え、なぁにぃ、アーラちゃん?」

 とランジュールが聞き返します。ランジュールと一緒に吸収された幽霊蜘蛛のアーラも、セイロスたちの中に存在していたのです。

「え、向こうの様子がなんか変だってぇ? どぉこが──え、えええ!??」

 ランジュールはいきなり素っ頓狂な声を上げると、セイロスとデビルドラゴンに言いました。

「見てよ、見て、あれぇ! 砦の船着き場! あれってさぁ──!」

 セイロスとデビルドラゴンは同時にまた船着き場を見ました。大勢が集まっている中で、フルートがポポロを抱きかかえています。

 ところが、ポポロの体がひとまわり小さくなったように見えました。元から小柄なポポロですが、さらに小さくなって子どもくらいの体つきになっています。着ている服が、黒い星空の衣から赤い長衣に変わっていきます──。

 セイロスたちの視線の先で、ポポロは赤の魔法使いになっていきました。頭から流れ出た血が艶やかな黒い肌や縮れた黒髪を汚していますが、血はすでに止まっているようでした。金色の猫の目を開けて起き上がります。

「どぉいうこと!? どぉいうこと!? 撃たれたのはお嬢ちゃんじゃなくて、猫の目の魔法使いくんだったのぉ!? お嬢ちゃんに化けてたわけぇ!?」

 ランジュールがセイロスとデビルドラゴンの頭の中で騒ぎたてました。

 一方、船着き場ではフルートや仲間たちも驚いたように赤の魔法使いを見ていましたが、すぐに顔を上げて振り向きました。湖を挟んでセイロスやデビルドラゴンと見つめ合います。

 セイロスはようやく真相を察しました。握りしめた拳を震わせます。

「妙だと思っていれば──貴様たちが四大魔法使いだったか! 勇者の一行に化けていたな!」

 とたんに他の仲間たちも姿が変わっていきました。ゼンは大男の武僧に、メールは背が高い老人に、フルートはユリスナイの象徴を胸から下げた女神官になります。女神官の白い長衣は赤の魔法使いの血で汚れています──。

 

「え、でも、それじゃ、こっちの人たちってぇ?」

 とランジュールが言いました。彼らが争ったり驚いたりしている間に、飛竜部隊は湖を渡りきっていました。何百頭という飛竜の最後尾から、三頭の飛竜が上がってきます。こちらにも、白、青、深緑、赤の長衣をなびかせた四大魔法使いが乗っています。

 すると、二頭の飛竜から白いものが飛び立ちました。たちまち二頭の風の犬に変わります。その背中には白の魔法使いと青の魔法使いが乗っていました。三頭目の飛竜はみるみる形が変わって水色の花でできた大きな鳥になります。その背中には深緑の魔法使いと赤の魔法使いが乗っています──。

「貴様らか!!」

 セイロスとデビルドラゴンがどなったとたん、魔法使いたちの姿が変わっていきました。白の魔法使いはポチに乗ったフルートに、青の魔法使いはルルに乗ったゼンに、花鳥の上の深緑の魔法使いと赤の魔法使いはメールとポポロになります。船着き場の四大魔法使いと完全に入れ替わっていたのです。

「敵は目の前だ!! 一気に切り込め!!」

 とフルートは叫ぶと、ポチと共に先頭に飛び出しました──。

2022年12月23日
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