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第28巻「闇の竜の戦い」

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172.波状攻撃

 光の軍勢がおこなっているのは波状攻撃でした。

 複数の集団に分かれてデビルドラゴンとセイロスに接近して、時間差で攻撃をしかけています。

 攻撃の最後に控えているのはフルートたち勇者の一行です。仲間たちが道を切り開くのを、湖の向こうで待ち構えています。

 けれども、セイロスは焦りませんでした。ポチとルルはそのときが来たら変身しようと身構えていますが、風の犬は渡れずの水を飛び越えることができません。湖を迂回するしかないのだから、連中が動き出してから対応しても充分間に合うはずだ、と考えます。

「まず目の前の連中だ」

 とセイロスは言いました。ユラサイの術師たちは闇魔法に防げない術で攻撃してきます。破壊力は光の魔法ほどでないにしても、命中の回数が多くなればダメージは蓄積されます。デビルドラゴンの体は傷だらけです。

 デビルドラゴンがまた衝撃波を吐こうとすると、飛竜に乗った白の魔法使いが言いました。

「攻撃を頭に集中しろ!」

 たちまち術が生んだ稲妻や炎が飛んできました。それだけではありません。空のあちこちから光の弾も飛んできたのです。先ほど宙船を守って接近していた天空軍の攻撃でした。ユラサイの術と光の魔法が一緒くたになって、デビルドラゴンの口に飛び込みます。

 ユラサイの術が竜の咽を突き破り、竜が吐こうとしていた闇魔法と光の魔法が激突して、爆発が起きました。竜の黒い頭が半分以上吹き飛ばされてしまいます。

「今だ、行け!」

 と女神官がまた言いました。飛竜軍団が速度を増して迫ります。

「愚か者め」

 とセイロスはつぶやきました。

 それと同時に、吹き飛んだデビルドラゴンの頭がずるりと外れて、あとから新しい頭が現れました。赤い目を光らせて、キェェェェ、と叫びます。

 とたんに滑り落ちた古い頭が無数の塊に分かれて、天空軍や飛竜部隊へ飛んでいきました。闇の攻撃に変わったのです。光の軍勢はとっさに障壁を張りますが、飛竜部隊は身をかわすことしかできませんでした。避けそこねて闇に直撃された飛竜が、悲鳴を上げて湖に墜落していきます。

「ゲーセフオミーヤヨベカノリカーヒ!」

 少年の声が響いて、空に巨大な光の壁が広がりました。飛竜部隊を後ろにかばって闇の攻撃を防ぎます。レオンの魔法でした。激突した闇が障壁で爆発して燃えていきます。

 が、端のほうで闇が障壁を突き破りました。飛竜部隊の中へ飛び込んでいきます。

「行ったわよ!」

 レオンと一緒に戦人形にしがみついていたペルラが振り向いて叫びました。飛竜部隊は闇を避けて次々左右へ身をかわします。その最後尾に四大魔法使いの飛竜がいました。白の魔法使いが青の魔法使いに言います。

「頼む」

「承知!」

 と武僧は前に出ました。飛竜の上に仁王立ちになると、飛んでくる闇へ両手を広げます。

「そぉれ!」

 武僧は闇を胸で受け止め、二つの拳で左右から殴りつけました。闇はばっと破裂すると、粉々に砕けていきました。黒いガラスの粉のようなかけらが、きらきら光りながら湖面へ落ちて行きます。武僧は傷ひとつ負っていません──。

 

 飛竜部隊はまもなく湖を渡りきろうとしていました。

 デセラール山の前に陣どるデビルドラゴンとセイロスに、目と鼻の先まで迫っています。

 セイロスはちらりと湖の向こうへ目を向けました。

 勇者の一行はまだ船着き場からこちらを見ていました。こちらが飛竜部隊と混戦状態に陥ったら、隙を突いて一気に攻め寄ろうとしています。

「ぽぽろヲ食ラエ」

 とデビルドラゴンがまた言いました。セイロスの頭の中で話しているので、他の者に声は聞こえません。セイロスが無視しても言い続けます。

「ぽぽろノチカラヲスベテ手ニ入レロ。ぽぽろヲ殺スノハ、ソレカラダ」

「連中はまだ様子を見ている。今のうちに連中を全滅させろ」

 とセイロスはデビルドラゴンに命じました。勇者の一行さえ倒せば、飛竜部隊も天空軍も彼らの敵ではないのです。ポポロの力も手に入れる必要はなくなります。

 けれども、セイロスがデビルドラゴンの指示に従わないように、デビルドラゴンもセイロスの命令に従おうとはしませんでした。ポポロを食う、食わない。ポポロを殺す、殺さない。ひとつの体の中に宿った二つの意思が、外からは見えない争いを続けています。

 稲妻になったユラサイの術がデビルドラゴンの胸に突き刺さりました。刺さったまま抜けない稲妻です。ギャァァァ、と竜が悲鳴を上げます──。

 

 ついにデビルドラゴンは言いました。

「ワカッタ。マズ連中ヲ殺ス」

 セイロスは自分より高い場所にある竜の頭を見上げました。一瞬沈黙してから言います。

「おまえはまた何かを企んでいるな」

「オマエホドデハナイ、せいろす」

 と闇の竜は言い返しました。

「オマエハ我ヲ支配シヨウト企ンデイル。ソノタメニぽぽろヲ殺シタガッテイル。恨ミカラナドデハナイ。我ヲ思イ通リニ使ウタメニ、我ノチカラヲ削ゴウトシテイルノダ」

 糾弾する竜にもセイロスは冷静なままでした。

「そういうおまえはどうだ。ポポロの残りの力も手に入れて完璧になり、私の意思や意識をおまえの中から抹殺しようとしているではないか。何度も言うが、この世界は私のものだ。おまえが破滅の権化であっても、私の世界をおまえに破壊させはしない」

「オマエノ、ソノ意思ハ固イ。オマエガ考エヲ変エナイナラバ、シカタナイ。ぽぽろヲ消滅サセテヤル」

 言うが早いか、デビルドラゴンは首をいっぱいに伸ばしました。湖の対岸めがけて巨大な衝撃波を吐きます。

 衝撃波は湖の水を真っ二つにするほどの勢いで飛んでいきました。飛竜部隊はかろうじてかわしましたが、湖の中の海の戦士や肉坊主が巻き込まれて跳ね飛ばされ、血をまき散らしながら湖へ落ちて行きます。

 ところが、衝撃波が次第に細くなり始めました。先ほど高温の炎を絞り込んでレオンを攻撃したときのように、衝撃波も細く鋭くなっていきます。衝撃波の先には勇者の一行がいました。彼らを守って光の障壁が張られていますが、あっけないほど簡単に貫いてしまいます。

 フルートは、あっと叫ぶような顔をしました。彼は自分たちの周りにも守りの光を広げていたのですが、絞り込まれた衝撃波の槍(やり)はそれも貫いたのです。

 槍はフルートやゼンやメールには当たりませんでした。くっと小さく向きを変えると、横に飛び退いたポポロの胸を撃ち抜きます。

 ポポロは悲鳴も上げずにその場に崩れていきました──。

2022年12月16日
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