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第28巻「闇の竜の戦い」

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第61章 猛撃

171.猛撃

 リーリス湖からハルマスの砦までの戦場は真っ黒な煙でおおわれていました。デビルドラゴンの黒い魔法を、天空軍の魔法使いたちが破壊したからです。

 その煙に紛れるように接近していた宙船はデビルドラゴンに破壊されましたが、すぐ後ろにもう一隻の宙船が隠れていました。天空軍に守られながら、まっすぐデビルドラゴンに迫っていきます。船上で指揮をとっているのは河童です。船で体当たりするように言っています。

 セイロスはデビルドラゴンに命じました。

「あれも破壊しろ。私はこちらをやる」

 飛竜部隊とロムドの四大魔法使いも、煙に紛れて湖の方向から接近していたのです。煙に含まれる光と闇の粒子がぶつかり合って、湖の上は稲妻がひらめいているようです。

 デビルドラゴンは迫る宙船へ衝撃波を吐きました。

 セイロスは湖へ強力な魔弾を繰り出します。

 ところが、今度は衝撃波が弾かれました。宙船の周囲を飛ぶ天空の魔法使いが守ったのです。

 セイロスが繰り出した魔弾も煙を無抵抗で通り抜けてしまいました。一匹の飛竜も撃ち落とせません。

 なに!? と思わず目をこらしたセイロスの視界に、ハルマスの砦が飛び込んできました。魔弾は黒い煙を押しのけて対岸のハルマスまで届いてしまったのです。砦の正面を守っていた障壁にぶつかって弾け散ります。

 魔弾が弾けたあとに姿を現したのは、金の石の勇者の一行でした。湖の船着き場に立って、じっとこちらを見ています。かなりの距離があるのですが、セイロスの目にはフルートたちの表情まではっきりと見えました。作戦の成り行きを見守っています。

 ポポロが魔法を使ったのか? とセイロスは考えました。そうであれば、今日の魔法をひとつ使ったことになります。残る魔法はひとつです。

 いえ、それより問題なのは飛竜部隊の行方でした。黒煙に紛れてどこを飛んでいるのでしょう──。

 

「セイロス、気をつけろ!!」

 とギーが警告の声を上げていました。

「来ルゾ」

 とデビルドラゴンも言います。宙船がすぐ目の前まで迫っていたのです。

 セイロスは即座に言いました。

「かみ砕け」

 デビルドラゴンは長い首を伸ばしました。牙をむいて宙船にかみついていくと、天空軍の風の犬があわてて身をかわします。それでも船は光の障壁で守られていたのですが、竜は障壁ごと船の先端をかみちぎりました。口の中で爆発が起きますが、すぐにかみつぶしてしまいます。

 ところが、それでも宙船は停まりませんでした。デビルドラゴンの攻撃をかわした河童が、船の甲板に尻餅をついたまま声を張り上げています。

「行け!! 奴のどてっぱらさ、きつい一発を食らわすだ──!!」

 船はちぎれた船首からデビルドラゴンに激突していきました。光の魔法で守られた船体が、闇の竜の体にめり込んで大爆発します。

 その衝撃と激痛は、足の下でデビルドラゴンとつながっているセイロスにも伝わってきました。大きくよろめき、伝わってきた感覚をすぐに遮断します。宙船は爆発しながら砕けていき、デビルドラゴンが身をよじって悲鳴を上げます。

 すると、黒煙にうがたれた穴の向こうで、勇者の一行が動き出しました。風の犬に変身したポチとルルがフルートとゼンを乗せて飛び立ったのです。花鳥に乗ったメールとポポロが続きます。

 やはり来たか! とセイロスは考えたとたん、デビルドラゴンが動き出しました。やってくるポポロに向かって飛んでいこうとしたのです。

 セイロスは引き留めて命じました。

「攻撃だ! 連中をひとり残らず消滅させろ!」

 デビルドラゴンがにらみ返してきましたが、セイロスは主導権を譲りませんでした。竜の口が勇者の一行めがけて衝撃波を吐きます。

 衝撃波は黒煙を押しのけながら飛んで、空にいる勇者の一行に襲いかかりました。激しい爆発が起きて、フルートが、ゼンが、メールが、ポポロが、犬たちが、ちぎれるようにばらばらになります──。

 

 セイロスとデビルドラゴンは同時に目を疑いました。

 勇者の一行は衝撃波の中で砕けていきました。

 ところが、そのあとにちぎれた残骸がなかったのです。本当ならば血にまみれた肉や骨が飛び散るはずなのに──。

 すると、再び見えるようになったハルマスの砦に、先ほどと同じように立つ勇者の一行が見えてきました。フルートたちは怪我もなく平然と船着き場に立っています。

 幻影か! とセイロスとデビルドラゴンは気づきました。風の犬や花鳥に乗った彼らの幻を空に飛ばしたのです。

 だが、なんのために? とセイロスたちは考えました。幻など一度攻撃されれば消えてしまうだけです。そんなことをして何になる? 目的はなんだ? ととまどいます。

 先の体当たりで爆発した宙船から、河童が投げ出されて墜落していました。大怪我をしていますが、風の犬に乗ったマロ先生が飛んできて、河童を助けていきました。フルートたちはセイロスたちの注意を惹きつけて、河童たちを救おうとしたのでしょうか? 貴重なポポロの魔法を使って──。

 

 そのとき、またギーの声がしました。

「セイロス、飛竜だ!」

 湖の上をおおう黒煙の、水面ぎりぎりの場所から、何百頭という飛竜が飛び出してきたのです。まっしぐらにデビルドラゴンとセイロスへ向かってきます。

 それと同時にユラサイの術師たちが攻撃を始めました。呪符を投げて読み上げると、呪符が稲妻や炎、剣や矢に変わって飛んできます。

 デビルドラゴンは自分たちの周りに障壁を貼っていましたが、ユラサイの術を防ぐことはできませんでした。障壁をすり抜けた攻撃がまともにデビルドラゴンに命中してダメージを与えます。

 その間に飛竜部隊の最後尾が現れました。三頭の飛竜に分乗しているのは、ロムドの四大魔法使いです。

「手を緩めるな! 一気に攻撃しろ!」

 白の魔法使いが淡い金髪をなびかせながら部隊全体に命じていました──。

2022年12月16日
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