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第28巻「闇の竜の戦い」

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166.ハルマス

 ハルマスの砦にはゼンとメールが飛竜部隊と戻ってきていました。

 竜子帝が飛竜から飛び降りてフルートたちへ駆け寄ります。

「朕の飛竜を連れてきたぞ! 作戦があるというのだな!? 早く聞かせろ!」

 竜子帝と共に舞い降りてきた飛竜が何百頭もいたので、オリバンやセシルが目を丸くしました。

「飛竜部隊の数が増えているのではないか?」

「以前の倍以上いる気がするが……」

 すると、リンメイも飛竜から降りてきました。

「竜仙境の飛竜部隊も一緒なのよ! 占神の指示でディーラから駆けつけてくれたの!」

 そう言われて改めて見れば、確かに飛竜の半分は鞍も手綱もつけていない裸竜でした。軽装の乗り手が竜の背に無造作に立っています。

「朕が術師たちを全員連れてきたから、西の肉坊主を防ぐ者がいなくなった! 早く作戦を聞かせろ、フルート! このままではもうすぐ炎の壁が消えて、怪物がロムドに入り込むぞ!」

 と竜子帝に急かされてフルートが話しだそうとすると、ユギルが止めました。

「お待ちください。最後の援軍が到着いたします」

 そこへ空から五頭の飛竜が舞い降りてきました。どの竜にも立ち乗りの乗り手と術師が乗っています。先頭になっているのは、食魔払いのロウガと術師のラクです。

 すると、ポチとルルが急に、あれっという顔になりました。

「ワン、この匂いは」

「もしかして──」

「はい、皆様方、ただいま到着いたしました」

 と術師のひとりが女性の声で答えました。同時に術師たちの姿が変わっていきます。ユラサイ風の服に口元を布で隠していた男女が、白、青、深緑、赤の長衣を着た魔法使いになります。

「四大魔法使い!」

 驚く一同の前に、四人の魔法使いはひざまずきました。

「遅くなりましたが、ハルマスの応援に参りました。なんなりとご命令ください」

 と白の魔法使いが胸に手を当てて言います。

「一晩休んで体力と魔力が回復しましたからな。陛下に願って駆けつけてきたのです」

 と青の魔法使いも言います。

 その横からロウガが口を挟んできました。

「四大魔法使いも駆けつけたと敵に知られちゃまずいんで、ラク殿が魔法使いたちに姿変えの術をかけたんだ。ラク殿の術は敵に見破れないからな」

 勇者の一行は魔法使いたちを見回しました。淡い金髪を金の髪飾りで束ねた女神官、筋肉ではち切れそうな体を長衣で包んだ大男の武僧、眼光が異様に鋭い長身の老人、艶やかな黒い肌に金色の猫の目の小男──人間の中で最も強力な魔法の使い手たちがハルマスにやってきたのです。

「ちょっとだけ待っていてください。作戦を少し変更します」

 とフルートは言って考え始めました。それまで考えていた体制に、四大魔法使いという駒を加えて、作戦を練り直し始めたのです。

 

 その間に勇者の仲間たちは魔法使いに駆け寄りました。

「四大魔法使いが一緒だったなんて、気がつかなかったぜ! マジで心強いな!」

「あら、私たちはすぐに気がついたわよ」

「ワン、ぼくたちは匂いでわかりますからね」

「そら、そんなかしこまってないで、みんな立ちなよ!」

 メールに引っぱられて、女神官は苦笑しながら立ち上がりました。

「すぐ目の前に闇の竜が現れているというのに、皆様方は本当に元気ですね。全然恐れていらっしゃらない」

「いやいや、敵に恐れをなしていては戦えんでしょう。敵に勝つには、まず気持ちから負けないようにしなければ」

 と武僧が言うと、ポポロが両手を組み合わせて真剣な顔で言いました。

「恐れてはいません。でも、とても心配だったんです。このままじゃフルートが願い石のところへ行ってしまいそうだったから──」

 四人の魔法使いは思わずフルートを振り向きました。金と黒の鎧兜を着けた少年勇者は、曲げた人差し指を口元に当てて、じっと考え続けています。

「これは本当の最終決戦じゃ。味方はひとりでも多い方がいいはずじゃからな」

 と老人が言うと、ダ、と猫の目の小男がうなずきます。

「フルートはどうしようとしているのだ?」

 と竜子帝がオリバンに尋ねました。

「金の石の聖なる光をセイロスとデビルドラゴンに送り込もうとしているのだ。奴らはつながり合っている。デビルドラゴン自身はフノラスドを吸収した防具と合体しているから、フルートが金の石を使っても直接は食らわないのだが、セイロスのほうからなら倒せる可能性があるのだ」

「だが、それで本当にうまくいくのか? デビルドラゴンを完全に倒すには、金の石と願い石の力の両方を使わなければならないはずでは──」

 と言いかけた竜子帝を、リンメイが後ろからつねりました。振り向いた婚約者をにらみつけます。

「キョンったら! 他にやり方がないんだもの。それでいくしかないじゃない」

 竜子帝が不満そうな顔をしたので、セシルも言いました。

「河童が天空軍の魔法使いたちと宙船で敵へ向かった。生き残りの妖怪軍団の船と協力して、デビルドラゴンとセイロスの動きを停めようとしているんだ」

 なるほど、と女神官は納得しました。

「敵に隙が生まれたところへ、勇者殿が突撃して金の石を使おうというのですね。では、勇者殿には強力な援護が必要だ」

 そういうことならば、と武僧が腕まくりをしました。老人と小男もうなずき合います。

 竜子帝はますます口を尖らせました。

「妖怪軍団も天空軍も光の魔法使いだ。攻撃してもデビルドラゴンに防がれてしまうかもしれないだろう。朕の術師たちの出番だぞ」

「もう、キョンったら! それを今フルートが考えているんじゃない!」

 とリンメイが出しゃばる婚約者をまた叱ります。

 そのとき、ついにフルートが顔を上げました。一同を振り向いて言います。

「決めました。こうしましょう。ぼくたちは──」

 

 そのときです。

 激しい振動がいきなりハルマスを襲いました。

 彼らは倒れそうになって、お互いにつかまり合ったり踏ん張ったりしました。

「地震!?」

「いや、これは──」

 そこへ耳をつんざくような音が追いかけてきて、あらゆるものを揺るがしました。

 キィエェェエエエエエ!!!!!

 建物の壁に亀裂が走り、屋根から瓦や平石が滑り落ちてきて割れました。防壁からもぱっぱっと煙のような土埃が上がります。

 いっそう激しくなっていく地鳴りと揺れの中、音は続いていました。

 ェエエエエェエエエエ!!!!!

「デビルドラゴンよ! こっちに向かって吼えているわ!」

 とポポロが言いました。

 魔法使いたちも顔色を変えていました。

「デセラール山のふもとから地割れですぞ! こっちへ向かってきます!」

「地割れが湖を割りおった!」

「ムパスコ、ウート、タ! ズ、ル!」

「そうだ! 裂け目を通ってこっちへ来る──来た!」

 バチバチバチ。

 黒と青の火花が防壁で湧き起こり、土を盛り上げて作った土台の部分が崩れてひび割れました。地割れが砦の内側に入り込んできます。

 同時に、どっと大量の水が砦に流れ込んできました。

 それは地割れを通って押し寄せてきたリーリス湖の水でした──。

2022年11月14日
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