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第28巻「闇の竜の戦い」

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164.提案

 フルートたちの周囲から黒い火花が消えたとき、宙船は五隻のうちの四隻までが撃墜されて地中に沈んでいました。かろうじて空へ逃れた妖怪たちが、東から引き返してきた最後の船に向かっています。

「天狗がいねえ! やられたんだ!」

 とゼンが言ったので仲間たちは青ざめました。フルートが歯ぎしりして身を乗り出し、ポポロにまた引き留められます。

 するとセイロスが彼らを見ました。デビルドラゴンの頭がまた彼らへ向きます。

「よけろ、下だ!」

 とゼンに言われて彼らは急降下しました。その頭上を闇の弾が通り過ぎていきます。

「ちっきしょう! 好き放題しやがって!」

「どうにか攻撃できないのかい!? このままじゃ一方的にやられちゃうよ!」

 とゼンやメールがわめきます。

 ポポロは必死でフルートを引き留め続けました。フルートは全身を震わせて怒っています。一瞬でも力を緩めたらフルートが最前線に飛び出していきそうで、手を離すことができません──。

 

 すると、地上から大狐が飛び上がってきました。頭に乗っていたセシルが彼らに呼びかけます。

「降りてきてくれ! オリバンが呼んでいる!」

 ところがフルートはデビルドラゴンやセイロスを見据えたまま返事をしませんでした。ゼンが舌打ちして代わりに答えます。

「わかった、降りるぞ」

 リーリス湖の畔に降りていくと、そこではオリバンも怒りに身震いしていました。

「我々にはなにもできんのか!? 奴は目の前だ! 我々にも攻撃する手段はないのか!?」

 とフルートに迫ります。

 フルートが答えられずにいると、ユギルが口を挟んできました。

「勇者殿、天空の軍団をお呼びください。彼らは勇者殿が命じなければ、地上の戦いに参戦することができません」

 勇者の一行は、はっとしました。天空の民は強力な魔力を持っていますが、同時に強い契約の下にあるので、行動に様々な制約を受けているのです。

 フルートは空へ呼びかけました。

「マロ先生! 天空軍の皆さん!」

 とたんに風の犬に乗った集団が目の前の空に現れました。黒い星空の衣を着た天空の国の貴族たちで二百名ほどもいます。

 眼鏡をかけたマロ先生が渋い顔でフルートたちに言いました。

「思い出してもらえてよかった。君たちは本当に援軍を呼ぶタイミングが遅すぎる。何もかも自分たちだけで何とかしようと考えている証拠だぞ」

 フルートは、すみません、と謝ってから言いました。

「デビルドラゴンは非常に強力な攻撃をしてきます。なんとかして奴を停めることはできませんか? ほんの少しの間でもいいんです。奴のすぐそばに近づくことができたら──」

 フルートは胸当ての上のペンダントを握りしめてみせました。セイロスに金の石を押し当てて聖なる力を流し込み、セイロスにつながっているデビルドラゴンを撃退する、という作戦を改めて思い出したのです。

 マロ先生は仲間の貴族たちを振り向きましたが、口を開く者は誰もいませんでした。黙りこくったまま互いに目と目を見合わせています。

「なんだ、なんで黙ってんだよ! みんな怖じ気づいたのか!?」

 とゼンが腹を立てると、ポポロが止めました。

「違うわ。みんな心話で相談してるのよ──」

 それを証明するように、貴族のひとりが口を開きました。

「闇の竜は力を取り戻してしまった。我々全員の力を合わせても、奴を束縛することは不可能だ。だが、闇の竜とセイロスの両方の注意を同時にひくことができれば、隙が生まれる。奴を束縛することができるかもしれない」

「デビルドラゴンとセイロスの注意を同時に」

 とフルートは繰り返しました。どうしたらそれができるだろう、と考え始めます。

 ゼンが口を尖らせました。

「けっこう難しそうだぞ。デビルドラゴンとセイロスは、それぞればらばらの方向を見てやがるからな。死角を作らねえようにしてるんだ」

「それって、セイロスたちが用心してるってことだよね? やっぱりフルートや金の石を警戒してるんだ」

 とメールが言います。

 フルートは拳を口元にあてて、さらに深く考え込みました。

 その隣でポポロは涙ぐんでいます。自分の魔力を奪われていなければ、きっと何か方法があったはずなのに、と考えて悲しくなったのです。

 オリバンも敵に手も足も出せない悔しさにまた身震いをしています──。

 

 すると、少し離れた場所から、誰かがおずおずと話しかけてきました。

「あんのぉ……ひとつ、提案があるんだげんぢょ」

 青緑の顔をして頭に皿を乗せた河童でした。船着き場の建物の陰から出てきて、話し続けます。

「あすこに宙船がもう一隻残ってるだ……。前に攻撃受けで調子悪ぐなっだ船なんだげんぢょ、まだ空を飛ぶことはできるだ。誰かがおらさ力を貸してくっぢゃら、あれを闇の竜さぶつけてやるだよ。そうすっど奴もびっくり仰天しで隙がでけっど思うだ」

「宙船と共に闇の竜へ突っ込もうというのか!?」

 とマロ先生は驚きました。

 フルートも青くなって首を振りました。

「そんな作戦はだめだ! 命を捨てに行くなんて──!」

 ところが、河童は水かきのついた手を広げてさえぎりました。

「おらは死ににいくわけじゃねえだよ。おらはロムド国の魔法軍団だで、勝手に死んだりしだら、隊長たちさ怒られっぢまうだ。そんぢも、なんの危険もなしで奴を停められるはずはねえがらなし。やらせてくなんしょ」

 河童は真剣でした。フルートとマロ先生を見比べながら訴えます。

 フルートは唇をかんでうつむき、目を伏せたままマロ先生に尋ねました。

「天空軍の皆さんは宙船を飛ばす手伝いができますか?」

「宙船は本来我々の乗り物だ。天空の国の見回りや点検を担当する貴族たちが使っている。ここの宙船はそれを地上で再建したものだが、操船のしかたは同じだろう」

 とマロ先生が答えます。

 フルートは決心しました。

「では、河童さんと天空軍とで宙船を飛ばして、デビルドラゴンにぶつけてください。ただ、一隻で向かうとすぐに作戦を見破られます。もう一隻の宙船にも知らせて、二隻で攻撃に向かうように見せてください。天空軍には宙船の援護もお願いします。デビルドラゴンやセイロスが宙船に注目する間に、ぼくたちも奴らに接近します」

「承知した」

 とマロ先生は答えると、河童に向かって手を振りました。とたんに河童の体が宙に浮いて、先生が乗る風の犬の後ろに運ばれます。

「魔法で支えているから落ちる心配はない」

 とマロ先生は言うと、天空軍と一緒に船着き場へ飛んでいきました。そこでは最後の宙船がさざ波に揺れています。

 

「あっちは河童と天空軍に任せるとして、俺たちはどうするんだ?」

「こっそりデビルドラゴンやセイロスに近づかなくちゃいけないんだろ?」

 とゼンやメールに聞かれて、フルートはまた考え込みました。金の石に守ってもらいながら接近することはできそうですが、まともに近づいていけば全力で撃退されそうでした。ポポロも以前のような強力な魔法は使えないのですから、彼女に頼むわけにもいきません。どうしたら……と考えていると、ユギルと目が合いました。色違いの瞳はこの世ならざる場所の真実を見通しているようです──。

 フルートは思わず尋ねました。

「ユギルさん、ぼくたちは誰に力を借りたらいいですか?」

 占者はそう聞かれることを予想していたようでした。

「竜子帝たちをお呼びください。ユラサイの力を借りるときでございます」

 と即座に答えます。

「竜子帝たちは西で肉坊主を撃退してたよね。あたいが呼んでくるよ!」

 とメールが花鳥で舞い上がりました。

「ひとりで行くな! 危ねえぞ!」

 とゼンも変身したルルに飛び乗りました。ユラサイの飛竜部隊が戦っている砦の西側へ、花鳥と一緒に飛んでいきます。

 フルートとポポロとポチがそれを見送っていると、ユギルがまた言いました。

「竜子帝たちがおいでになるまでに、ポポロ様にお願いしたいことがございます。お聞きいただけますか?」

「え、あたしに……?」

 ポポロは目を見張り、フルートやポチ、オリバンやセシルは、いったい何を、と二人に注目しました──。

2022年10月29日
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