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第28巻「闇の竜の戦い」

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第57章 提案

163.沈没

 フルートたちが見守る中、妖怪軍団を乗せた五隻の宙船(そらふね)は湖から飛び立っていきました。向かう先はデセラール山の前で羽ばたくデビルドラゴンです。背中には竜と一体になったセイロスがいます。

 デビルドラゴンはユラサイの飛竜部隊へ吐こうとしていた闇の息を、宙船に向かって吐きました。吸い込めば生き物はすべて即死する猛毒です。

 けれども、それと同時に宙船からも攻撃が始まりました。先頭を行く船が船体を横向け、発射口を開いて魔大砲を撃ち出したのです。光の弾が白い尾を引きながら飛んでいきました。破裂すると燃えて光になって、周囲の闇の息を消していきます。

「うまい!」

 勇者の一行は思わず声を上げました。二隻目の宙船も攻撃を始めたので、闇の息はみるみる薄れていきます。

 その間に三隻目と四隻目の船が前進していきました。攻撃する仲間の船を追い越してデビルドラゴンへ向かいます。

 五隻目の船は舵を左に切ると、デセラール山のふもとから東へ進む肉坊主に攻撃を始めました。光の攻撃が肉坊主を片端から消していきます。

「ワン、肉坊主が全部の方向で阻止されましたよ」

 とポチが言いました。

 山から西へ向かっていた肉坊主は、ユラサイの術師たちが作った火の壁に焼かれ、北へ直進して湖に入った肉坊主は防御網と海の戦士たちにさえぎられ、東へ向かった肉坊主は宙船に攻撃されているのです。南側にはデセラール山がそびえているのですから、そちらへは進めません。

 そうしている間にも二隻の宙船はデビルドラゴンに迫っていきました。闇の息を消し終えた宙船が後を追いかけていきます。先頭の船が射程距離にデビルドラゴンを捉えます──。

 

 すると、デビルドラゴンが宙船に向かって口を開けました。

 また闇の息を吐く! とフルートたちが思った瞬間、先頭の宙船で爆発が起きました。攻撃を食らったのです。

「え、今のなにさ!?」

「デビルドラゴンのしわざか!?」

 攻撃らしいものが見えなかったので、一行が騒いでいると、二隻目の宙船でも爆発が起きました。船が衝撃で激しく揺れています。

「やっぱり攻撃よ。宙船は障壁を張っているのに命中させたんだわ。いったいどうやって……」

 とポポロが言いました。常識では考えられない攻撃に驚いてしまっています。

「宙船が墜ちる!」

 とフルートが声を上げました。

 攻撃を食らった二隻が船首を下げてゆっくり降下し始めたのです。妖怪たちが慌ただしく動き回って船を立て直そうとしますが、船は堕ち続けました。ついに地面が迫ってきます。

 地面にぶつかる! と彼らは息を呑みましたが、衝突は起きませんでした。まるで海面にでも墜ちたように船が地面に浮かんだのです。地面の中に船底をめり込ませて大きく揺れます。

「魔法で地面を水面に変えたのね」

「よかったぁ」

 ルルやメールはほっとしましたが、ポポロとゼンは首を振りました。

「船は魔法を発動させてないわ」

「妖怪たちが船を飛び降りてやがるぞ」

 言われて目をこらせば、確かに地面に着水した宙船から妖怪たちが脱出していました。彼ら自身は地面に普通に降り立つと、全速力で船から離れていきます。

 すると、宙船の船首が今度は持ち上がっていきました。それに合わせて船尾は下に傾いて地面の中に沈み始めます。

 えぇ!? と勇者の一行は驚きました。宙船は地面にどんどん呑み込まれていきます。地面の中に沈没しているのです。

 巨大な船が沈むと、その場所に波紋が生まれました。地面が波打って周囲に広がり、逃げていく妖怪たちに追いついて地面に引き倒します。

 すると、妖怪たちまでが地面に沈みだしました。あわてて飛んで空へ逃げた妖怪もいますが、飛べない者は波に呑まれて地面に消えていってしまいます。

「なに、あれ」

 とルルが震えながら言いました。天空の国で暮らしてきた彼女も、こんな現象は見たことがありません。

 ポポロは首を振りました。

「あたしにもよくわからない……。でも、デビルドラゴンはたぶん空間を操作してるんだわ。あとは物質を変質させてるし、重力や質量も……」

「それをひとつの魔法でやってるわけ!? あの一瞬で!?」

 とルルは金切り声をあげました。通常では考えられない規模と威力の魔法を一瞬のうちにいくつも発動させているのです。

 デビルドラゴンが力を取り戻していることを実感させられて、さすがの彼らも背筋が寒くなります──。

 

 その間にも残る船の二隻がデビルドラゴンに向かっていました。先を行く船には天狗が乗っています。

 妖怪たちは仲間の船が地面に沈んでいっても怖じ気づいていませんでした。天狗が手にした羽団扇(はうちわ)を突き出して命じます。

「撃て! 集中砲撃だ!」

 それと同時に激しい風が巻き起こりました。天狗の羽団扇が風を起こしたのです。デビルドラゴンへ真正面から吹き付け、蛇のような頭を押し戻します。デビルドラゴンの背に立つセイロスも、片腕を上げて風を避けます。ギーに至っては飛竜ごと吹き飛ばされて山にたたきつけられそうになり、あわてて風から抜け出しました。

 そこへ宙船の攻撃が襲いかかりました。デビルドラゴンの巨大な体に光の弾を雨のように浴びせます。

「ワン、光の集中攻撃だ!」

「ヤツは!? 効いてるかい!?」

 デビルドラゴンが光に包まれたのを見て、勇者の一行は期待しましたが、集中砲火が終わって光が収まると、竜はまた黒々とした姿を現しました。どこにもダメージを受けていません。

「だめよ、効いていないわ!」

 とルルは絶望的な声を上げました。宙船の攻撃は非常に強力なのに、デビルドラゴンはまったく受け付けないのです。こんな敵どうやって倒したらいいの? と考えて泣きたくなってしまいます。

 デビルドラゴンがまた宙船へ首を向けました。反撃を避けようと二隻の船が左右へ離れますが、思うような速度が出ませんでした。デビルドラゴンがまた口を開けます。

 そのときゼンが突然どなりました。

「ポポロ、フルートを止めろ!」

 ポポロはぎょっと自分の前のフルートを見ました。その体が赤く光り出していたので、あわてて後ろから抱きしめます。

「だめ! だめよ、フルート! 絶対だめ──!」

 フルートは我に返ったように振り向きました。体から赤い光が消えていきます。

「この大馬鹿野郎が! やるなって何千回言えばわかるんだ!?」

 とゼンがどなりつけましたが、フルートは聞いていませんでした。デビルドラゴンがこちらをじっと見ていたのです。背中のセイロスもこちらを見ています。彼らは宙船への攻撃は取りやめたようでした。やはりフルートが願い石を使うことを警戒しているのです。

 二隻の宙船はデビルドラゴンを左右からまた攻撃しようとしました。船の横の砲門が口を開けます。

 デビルドラゴンがどちらへ反撃するか迷うように首を動かしていると、セイロスが真っ正面を指さしました。勇者の一行がいる方向です。それを見てポポロとゼンは叫びました。

「来るわ!」

「来るぞ!」

 デビルドラゴンが彼らのほうへ口を開けます。

「金の石!」

 フルートの声にペンダントが輝きました。デビルドラゴンから闇の弾が飛んできて、一行を包む金の光に激突します。彼らは周りが何も見えなくなりました。闇の弾が破裂して黒い火花に変わり、金の光の外側をおおってしまったのです。

 

 フルートたちの視界をさえぎっておいて、デビルドラゴンはまた宙船に向き直りました。一隻を爆発で撃墜すると、もう一隻にも口を向けます。その船には天狗が乗っていました。

「かわせ!」

「船を回せ!」

「無理だ、間に合わねぇ!」

 必死で船を操る仲間の声を聞きながら、天狗はまた羽団扇を掲げました。一振りでぐんと団扇を大きくすると空へ飛び上がり、敵ではなく自分たちの船へ振ります。

 巻き起こった風は音を立てて船の帆を膨らませました。船は急に速度を増してその場から離れます。

 ところが、次の瞬間、空中にいた天狗が爆発に巻き込まれました。デビルドラゴンの魔法攻撃を食らったのです。真っ逆さまに墜落していくと、まるで海に落ちて行くように地面に沈んで見えなくなってしまいます。

「天狗!?」

「天狗!!」

「天狗の親父ぃ!」

 仲間の妖怪たちは口々に呼びましたが、天狗は地面に呑み込まれたまま戻ってきませんでした。地表にできた小さな波紋が広がって消えていきます。

 自分たちの大将を失った妖怪たちは呆然としました。仲間の数も半分以下になってしまっています。どうしたらいいのか、とっさにわからなくなります。

 そんな彼らの船へデビルドラゴンがまた頭を向けました。狙いを定めて攻撃魔法を吐き出すと、船に爆発が起きて墜ち始めました──。

2022年10月27日
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