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第28巻「闇の竜の戦い」

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162.肉坊主・2

 デセラール山のふもとから現れた肉坊主は、リーリス湖だけにやってきたのではありませんでした。湧いてくるように出現しては四方八方に進んでいくので、空から見下ろすと地上に赤いしみが広がっていくように見えます。ただ、ハルマス以外に付近に人が住む場所はありませんでした。荒野や山間の高原が広がっているだけです。

「あの連中はどこへ行こうとしてやがるんだ? 俺たちはこっちにいるんだぞ?」

 とゼンが不思議がると、フルートが厳しい顔になりました。

「あの怪物は無尽蔵に出てくるようだ。ロムド全土を襲うつもりなのかもしれないな」

「えぇ!? いくら何でも、それは無理だろ!? ロムドはものすごく広いじゃないか!」

 とメールは驚きましたが、ポチが言いました。

「ワン、無理じゃないかもしれないですよ。あれは怪物だから疲れを知らずに進んで行くだろうし。あちこちの町を襲撃して、ぼくたちの戦力をまた分散させるつもりかもしれません」

 すると、地上を見下ろしていたポポロが話しかけてきました。

「下でオリバンたちが呼んでるわ。ユギルさんも一緒よ」

 そこで、彼らはまたリーリス湖の岸に舞い降りました。

「陸を行く怪物をお停めください、勇者殿」

 銀髪の占者は、フルートが着陸するなり、そう言いました。

「あれはこちらには向かってまいりません。どこまでも進んで行って、行く先々の村や町を襲撃するのです。都にも大きな被害が出ます」

 フルートやポチが心配していたとおりでした。

「こんにゃろう! させるか!」

 ゼンがすぐに飛び立とうとすると、フルートが停めました。

「だめだ、ぼくたちは行けない」

「なんでさ!? 放っておいたら、あいつらどんどん広がって手に負えなくなるじゃないか!」

 とメールも聞き返すと、フルートが答える前にユギルが言いました。

「勇者殿はここから離れてはなりません。自ら敵を追って出ていけば、ハルマスは壊滅いたします」

 予言の声でした。ゼンたちが驚いていると、フルートが悔しそうに言いました。

「セイロスはデビルドラゴンの力をかなり取り戻したのに、直接攻めてこようとはしない。ぼくがここにいるからなんだ」

 あ──と仲間たちも気がつきました。フルートは金の石と願い石を持っていて、彼が望めばセイロスをデビルドラゴンごと完全に消滅させることができます。セイロスとデビルドラゴンはそれを恐れてハルマスとにらみ合っているのです。フルートがハルマスから離れれば、セイロスたちは即座にハルマスを破壊するはずでした。

「肉坊主を倒す討伐隊を出撃させよう──」

 とフルートは言って少し悩みました。今、この砦には彼らの他にも様々な部隊がいます。誰に行ってもらうのが適任だろう、と考えてしまったのです。

 すると、頭上でばさりと羽音がして、竜子帝の声が降ってきました。

「話は聞いた! 朕たちが行くぞ!」

 竜子帝が乗った飛竜の後ろには、三百頭の飛竜が従っていました。ユラサイ国の飛竜部隊です。数十名の術師も同乗しています。

 フルートはユギルを振り向き、彼がうなずいたので、竜子帝に言いました。

「頼む! 肉坊主の進軍を停めてくれ!」

「承知した!」

 竜子帝は笑って答えると、飛竜部隊と共に砦を飛び出していきました。しみのように広がっていく肉坊主の群れへ突進します。

 フルートはまたポチに飛び乗って空に舞い上がりました。飛竜部隊に手を出したらただではすまさないぞ、と念じながら、デセラール山の前に浮かぶセイロスを見据えます。フルートの視力ではセイロスがこちらを見ているのかどうかわかりませんが、奴も見ている、とフルートは確信していました。はるかな距離を挟んでにらみ合います──。

 

 フルートのにらみが効いているのか、ユラサイの飛竜部隊は無事に出撃して、デセラール山のふもとから西へ向かっている怪物に迫りました。

 ロウガの飛竜が術師のラクを乗せて先頭に来たので、竜子帝は話しかけました。

「フルートたちはあれを肉坊主と呼んでいた! 停められそうか、ラク!?」

 術師は黄色い頭巾と口をおおう布の間で目をこらしていましたが、やがてうなずきました。

「どうやらあれは僵尸(きょうし)の仲間のようです。生きた死体の怪物です」

「あれは死体なの!? 全部!?」

 と隣を飛んでいたリンメイが驚きました。地上を赤く埋め尽くしながら広がる怪物は、何千万匹もいるように見えます。

「人の死体ではありません。怪物の死体……というか、死んでいる怪物を呼び出して僵尸の集団にしているようです」

 とラクが言ったので、竜子帝は口を尖らせました。

「死体では脅かしても怖がって逃げ戻るということはなさそうだな。良い手はあるか、ラク?」

「はい。死体であれば、我々の術が効きそうです。しばしお待ちを」

 ラクはロウガと一緒に引き返すと、仲間の術師を呼び集めました。彼らが乗った飛竜が空で円陣を組みながら何かを相談しています。

 

「大丈夫かなぁ。竜子帝たち目立ってるよ。攻撃されないかな」

 ハルマスの上空でメールが心配していました。

 飛竜部隊の集団はそこからでもよく見えます。一部の飛竜が寄り集まって円陣を作ったのも見えていました。いかにも何か作戦を立てているように見えたので、セイロスから攻撃されるのでは、と気を揉んでいたのです。

「セイロスの野郎も気がついてるな。だが、今んところは動きはねえようだ」

 ゼンはもっぱら見張り役です。

 フルートは黙ってセイロスとにらみ合いを続けていました。ポチの背中に乗り移ってきたポポロが、引き留めようとするように、後ろからフルートを抱きしめています。

 すると、飛竜部隊の中の円陣が崩れました。飛竜たちがいっせいに前へ飛び始めます。

「ワン、始めるみたいだ!」

 とポチが言い、全員が飛竜の動きに注目します。

 最前列に出た飛竜たちには人が二人乗っていました。飛竜部隊の兵士と、同乗している術師です。

 と、彼らの前の空中に一瞬赤く光る弧(こ)が現れました。すぐに空に溶けて見えなくなってしまいます。

「今のは?」

 とルルが言いました。ずっと自責の念で落ち込んでいたのですが、この状況には黙っていられなくなったのです。

「ユラサイの術ね。何の術を使ったのかは、あたしには──」

 とポポロが言ったとき、地上でいきなり大きな炎が上がりました。赤く燃える壁になって広がり、怪物たちの行く手をさえぎります。

 けれども、恐れを知らない怪物たちは、立ち止まることもなく進み続けました。燃えさかる炎へ自分から飛び込んでいきます。

「どうなの!?」

「連中をやっつけてるかい!?」

 ルルやメールにせっつかれて、ゼンはまた目をこらしました。少しの間観察を続けてから言います。

「炎の壁から先に出てくる肉坊主がいねえ。火が効いてるみてえだ」

 一同は、ほっとしました。術が生み出す炎が怪物を焼いて進軍を停めているのです。

 炎の壁は右に左にどんどん伸びて広がり、やってきた怪物を呑み込んでいきます──。

 

 そのとき、フルートが言いました。

「奴が動くぞ!」

 デセラール山の前に浮かんだデビルドラゴンが、蛇のような首を飛竜部隊のほうへ動かすのが見えたのです。

「闇の息!」

 とルルが叫びました。

 デビルドラゴンは毒の息を飛竜部隊めがけて吐こうとしていました。闇の魔力で生み出された毒です。ユラサイの術師たちには防げません。

 フルートは助けに飛び出して行こうとして、ぐっと引き戻されました。ポポロが引き留めたのです。思わず振り向き、食い入るように見つめる緑の瞳に出会って、たじろいでしまいます──。

 すると、ひゃっほう!! とゼンが歓声を上げました。

「見ろ! 援軍だ!」

 ゼンが指さしていたのはリーリス湖でした。湖の中央部では海の軍勢が押し寄せる怪物と戦っていますが、ハルマス側の船着き場で水しぶきを上げながら空に浮かんでいくものがありました。ヒムカシの妖怪たちが乗ってきた宙船です。二隻、三隻と水面から空中へ浮上していきます。

 一番最初に飛び上がった船に天狗が乗っていました。フルートたちに向かって言います。

「ようやく準備が整った! わしらも出陣するぞ!」

 湖から飛び立った宙船は全部で五隻ありました。甲板にはたくさんの妖怪たちが乗っていて、忙しく帆を操り、湖の上を越えていきます。

 デビルドラゴンは長い首を飛竜部隊から宙船へ向け直しました。蛇のような口をかっと開きます。

「撃て!」

 天狗の号令と共に、宙船から光の弾が発射されました──。

2022年10月21日
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