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第28巻「闇の竜の戦い」

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第55章 デセラール山とリーリス湖

157.デセラール山・1

 「デセラール山!?」

 病室に集まっていた人々は、占者が告げたセイロスの居場所を繰り返しました。一瞬呆然とした後、自分の目で確かめようと通路へ飛び出します。ついさっきまで意識を失っていたポポロも、自分の脚で走っていきます。

 南に向いた窓を開け放つと、ハルマスの建物や家の間からリーリス湖が見え、その彼方に高い山がそびえていました。デセラール山です。山全体が新緑に柔らかく染まる季節でしたが、ふもとから湧き上がった霧が山を包み込もうとしていました。霧はどす黒い色をしています。

「セイロスだ……」

 とフルートは言いました。胸の上では金の石が激しく明滅しています。

「野郎! こんな近くにいやがったのか!」

 とゼンが歯ぎしりしました。ハルマスからデセラール山までは、リーリス湖を挟んでほんの数キロしか離れていないのです。誰もが呆然とデセラール山を見上げてしまいます。

 すると、メールが急にゼンに飛びつきました。

「守りの花──! だから見つからなかったんだよ!」

「あん?」

 ゼンにはメールが何を言っているのかわかりませんでしたが、フルートとポチはすぐに思い出しました。

「そうだ、君たちは以前デセラール山に守りの花を探しに行った! ハルマスやポポロを守ってもらおうと思って。でも、どこを探しても見つからなかったからあてがはずれた、と言って戻ってきたんだ!」

「ワン、あのときは、闇の軍勢がハルマスを襲撃したから、闇魔法のとばっちりでデセラール山の守りの花が消えちゃったんじゃないか、って話したんですよね!」

 それを聞いてレオンが言いました。

「守りの花は聖なる花だ。天空の国から地上に移植された植物で、清らかな土地にしか育たない。闇に出会うと聖なる光を発しながら燃えて闇を消滅させるんだが、相手が闇の竜を宿したセイロスでは、聖なる花もとてもかなわないだろう。全滅するしかないな」

「ゼンと一緒に山全体を見回ったんだけどさ、怪物も敵も見つからなかったんだよ。だからあたいたち、てっきり……」

 メールは話しながら悔しさに身震いしました。兆候はあったのに、気づくことができなかったのです。

「それはわしらも同じことだ。闇に聡いはずのわしらも、これほど近くに奴が潜んでいたことに気がつかなかったのだからな」

 と天狗が言ったので、レオンや魔法使いたちもうつむきます。

 

「とにかく迎撃だ! 奴が来るぞ!」

 とフルートは窓を乗り越えました。後を追って変身したポチに飛び乗ると、ハルマスの上空に舞い上がります。

 ゼンはルルに、メールは呼びつけた花鳥にポポロと一緒に乗って後を追いかけました。オリバンとセシルは自分の兵の元へ走り、レオンや天狗、鳩羽や紫の魔法使いも仲間の元へ姿を消していきます。

 最後まで窓辺に残ったユギルは、まだ拳を握りしめていました。彼もまた、セイロスの居場所をつきとめられなかったことに、ことばにできない悔しさをかみしめていたのです。

 一度は生命の危機を逃れたように見えたオリバンに、また死の影がちらつき始めていました。オリバンだけではありません。セシルにも、勇者の一行にも、天狗やレオンたちにさえ、闇が命の炎を呑み込む予兆が見えていたのです。フルートに至っては最初から死神がつきまとっています。

「死なせません。絶対に、お守りいたします」

 自分自身に強く誓って、彼もオリバンたちの後を追っていきました──。

2022年10月8日
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