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第28巻「闇の竜の戦い」

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156.ポポロ・2

 ポポロが目を覚ましたので、一同は、わっとベッドを囲みました。

「気がついたのね、ポポロ!」

「よかったぁ! 心配したよ!」

「気分はどうだ!? 悪くねえか!?」

「ワン、大丈夫ですか!?」

 うん、とポポロは仲間たちにうなずき返してから、ほっとしているフルートをまた見上げました。

「言ったわよね、フルート……あたしたちを置いて行ってしまうのは、絶対許さないって。絶対にだめよ」

 たちまち仲間たちは顔色を変えました。

「この野郎、また──!?」

「もう! どうしていつもそうなのよ!?」

「すぐ願い石に頼ろうとするんだからさ!」

 仲間たちに詰め寄られて、フルートはあわてて首を振りました。

「誤解だ。ぼくはそんなことは考えてなかったよ」

 嘘を言っているわけではありませんでした。願い石を呼び出しかけたことに、自分で気づいていなかったのです。

 けれども、ポポロは握った手を放そうとしませんでした。たった今まで死んだように気を失っていたとは思えないほど、強い力で握りしめています。

 

 すると、レオンが言いました。

「ポポロ、起きられるか? ──よし、それじゃぼくに向かって魔法を出してみてくれ」

 ベッドに起き上がったポポロは目を丸くしました。

「魔法って、どんな魔法?」

「なんでもいい、試しに撃ってみてくれ。その代わり最大出力でだ」

 えっ、とポポロは顔色を変えましたが、レオンが強く促すので、しかたなく片手を上げました。周りの人々には注意をします。

「下がっていてね……とばっちりが行くかもしれないから」

「心配はいらん」

 と天狗が答えました。部屋の全員の前に障壁を張ったのです。

 ポポロは少し考える顔をしてから唱えました。

「レオコー!」

 冷凍魔法の呪文でした。それならば、万が一周囲を巻き込んでも、他の魔法より危険が少ないと考えたのです。緑の魔法が指先からほとばしって、冷たく光りながらレオンに飛びます。

 けれども、光はすぐに見えない壁にぶつかり、吸い込まれるように寄り集まって、ぼんやり光る緑の球体になりました。レオンは招くように手を振り、飛んできた球体を受け止めてポポロへ投げ返しました。球体がポポロの体の中に消えていきます。

 驚いている全員にレオンは言いました。

「ポポロの魔法を戻した。魔法の回数は減っていないから、彼女は今日の魔法を二回使えるよ。ただ威力は確かに弱まっているな。だからぼくにも彼女に戻すことができたんだ」

「今はどのくらいの威力なんだ?」

 とフルートは尋ねました。

「天空の貴族の平均レベルというところだな。人間で言えば、ロムド城の四大魔法使いくらいの魔力だ」

「そんなに!?」

 と一同はまた驚きました。はじめにポポロが持っていた力が、いかに強大だったかということです

 メールはポポロに飛びついて両手を握りしました。

「行けるよ、ポポロ! これだけの力がまだあるんならさ! 一緒に戦えるし、セイロスだってきっと倒せるさ!」

 ルルもベッドに飛び上がってポポロの頬をなめました。

「あなたの力があんまりすごかったから、イベンセも全部は持っていけなかったのね! いい気味だわ!」

「さすがポポロだよな」

 とゼンも笑います。

 ところが、レオンは少しも笑顔になりませんでした。レオンだけではありません。天狗も、オリバンやセシルや鳩羽の魔法使いも深刻な顔をしていました。フルートとポチは考え込んでいます。

 紫の魔法使いは首を傾げました。

「鳩羽もみんなも何をそんなに心配してるの? ポポロは目を覚ましたし、魔法も使えているのに」

「魔法が使えているからだよ」

 と鳩羽の魔法使いは言いましたが、少女には意味がわからないようでした。

 レオンが説明するように答えました

「ポポロが魔法を使えるということは、ポポロの中にまだ闇の竜の力が残っているということだ。セイロスはきっとその力も奪おうとするぞ。またポポロが狙われる」

「わしもそう思う。奴はまだ全然諦めておらんだろう」

 と天狗も言います。

 オリバンは重々しく言いました。

「ポポロの力は四大魔法使いと同程度だと言ったな? 確かに四大魔法使いの魔力は大変なものだ。だが、いかに四大魔法使いでもセイロスの力にはかなわなかった。奴が闇の竜の力の多くを取り戻したのだとしたら、なおさら、もうかなわんだろう」

「セイロスが襲ってきたら、今度はもう防げないかもしれないということか。ポポロだけじゃなく、私たちも皆──」

 とセシルも言ったので、一同は静まりかえってしまいました。重苦しい空気になった部屋の中で、ポポロが涙ぐんでうつむきます。何もかも自分のせいのような気がしたのです。

 すると、そんなポポロの手をフルートが握りました。全員を見回して言います。

「大丈夫、ポポロはまだ戦える。ぼくたちだって負けてはいない。今度こそ奴を退けるさ」

「どうやって!? ポポロはもう前のような魔法は使えないんだぞ!?」

 とレオンが思わず声を荒らげましたが、フルートは揺らぎませんでした。

「ポポロはひとりで戦ってるわけじゃない。もちろん、ぼくたちだって自分だけで戦ってはいない。みんなで戦ってるんだ。全員が力をひとつにすれば、必ずデビルドラゴンの力だって上回れる!」

 つい先ほどまで彼自身が先行きに不安を感じていたのですが、そんなことはすっかり忘れてしまっています。

「ったく、一番ひとりで戦いそうな奴は誰だ。そのことば絶対忘れんなよ」

 とゼンが苦笑します──。

 

 そこへ、オリバンたちの足元をすり抜けて、病室に白い雄犬が駆け込んできました。ハッハッと舌を出しながら言います。

「外の気配が変わった! ものすごい闇の気配だぞ!」

 いつもレオンのそばにいるビーラーですが、このときは砦の防壁の上で周囲を見張っていたのです。

 全員が思わず身構えたところへ、足音がして今度は銀髪の青年が駆け込んできました。ユギルです。

 普段は落ちついた様子で占いを告げる彼が、このときは明らかに動揺していました。それを必死で抑えながら、全員に向かって言います。

「強大な闇が姿を現しました。間違いなくセイロスです。ですが──あまりにも思いがけない場所から──」

 息が続かなくなったのか、それともあわててしまって声が出せなくなったのか、ユギルのことばが途切れました。

「どこだ!?」

 とオリバンがどなるように尋ねると、ユギルは何故か拳を握りました。

「すぐ目と鼻の先……リーリス湖の向こうの、デセラール山でございます」

 悔しさをにじませて占者は答えました──。

2022年10月2日
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