ポポロが目を覚ましたので、一同は、わっとベッドを囲みました。
「気がついたのね、ポポロ!」
「よかったぁ! 心配したよ!」
「気分はどうだ!? 悪くねえか!?」
「ワン、大丈夫ですか!?」
うん、とポポロは仲間たちにうなずき返してから、ほっとしているフルートをまた見上げました。
「言ったわよね、フルート……あたしたちを置いて行ってしまうのは、絶対許さないって。絶対にだめよ」
たちまち仲間たちは顔色を変えました。
「この野郎、また──!?」
「もう! どうしていつもそうなのよ!?」
「すぐ願い石に頼ろうとするんだからさ!」
仲間たちに詰め寄られて、フルートはあわてて首を振りました。
「誤解だ。ぼくはそんなことは考えてなかったよ」
嘘を言っているわけではありませんでした。願い石を呼び出しかけたことに、自分で気づいていなかったのです。
けれども、ポポロは握った手を放そうとしませんでした。たった今まで死んだように気を失っていたとは思えないほど、強い力で握りしめています。
すると、レオンが言いました。
「ポポロ、起きられるか? ──よし、それじゃぼくに向かって魔法を出してみてくれ」
ベッドに起き上がったポポロは目を丸くしました。
「魔法って、どんな魔法?」
「なんでもいい、試しに撃ってみてくれ。その代わり最大出力でだ」
えっ、とポポロは顔色を変えましたが、レオンが強く促すので、しかたなく片手を上げました。周りの人々には注意をします。
「下がっていてね……とばっちりが行くかもしれないから」
「心配はいらん」
と天狗が答えました。部屋の全員の前に障壁を張ったのです。
ポポロは少し考える顔をしてから唱えました。
「レオコー!」
冷凍魔法の呪文でした。それならば、万が一周囲を巻き込んでも、他の魔法より危険が少ないと考えたのです。緑の魔法が指先からほとばしって、冷たく光りながらレオンに飛びます。
けれども、光はすぐに見えない壁にぶつかり、吸い込まれるように寄り集まって、ぼんやり光る緑の球体になりました。レオンは招くように手を振り、飛んできた球体を受け止めてポポロへ投げ返しました。球体がポポロの体の中に消えていきます。
驚いている全員にレオンは言いました。
「ポポロの魔法を戻した。魔法の回数は減っていないから、彼女は今日の魔法を二回使えるよ。ただ威力は確かに弱まっているな。だからぼくにも彼女に戻すことができたんだ」
「今はどのくらいの威力なんだ?」
とフルートは尋ねました。
「天空の貴族の平均レベルというところだな。人間で言えば、ロムド城の四大魔法使いくらいの魔力だ」
「そんなに!?」
と一同はまた驚きました。はじめにポポロが持っていた力が、いかに強大だったかということです
メールはポポロに飛びついて両手を握りしました。
「行けるよ、ポポロ! これだけの力がまだあるんならさ! 一緒に戦えるし、セイロスだってきっと倒せるさ!」
ルルもベッドに飛び上がってポポロの頬をなめました。
「あなたの力があんまりすごかったから、イベンセも全部は持っていけなかったのね! いい気味だわ!」
「さすがポポロだよな」
とゼンも笑います。
ところが、レオンは少しも笑顔になりませんでした。レオンだけではありません。天狗も、オリバンやセシルや鳩羽の魔法使いも深刻な顔をしていました。フルートとポチは考え込んでいます。
紫の魔法使いは首を傾げました。
「鳩羽もみんなも何をそんなに心配してるの? ポポロは目を覚ましたし、魔法も使えているのに」
「魔法が使えているからだよ」
と鳩羽の魔法使いは言いましたが、少女には意味がわからないようでした。
レオンが説明するように答えました
「ポポロが魔法を使えるということは、ポポロの中にまだ闇の竜の力が残っているということだ。セイロスはきっとその力も奪おうとするぞ。またポポロが狙われる」
「わしもそう思う。奴はまだ全然諦めておらんだろう」
と天狗も言います。
オリバンは重々しく言いました。
「ポポロの力は四大魔法使いと同程度だと言ったな? 確かに四大魔法使いの魔力は大変なものだ。だが、いかに四大魔法使いでもセイロスの力にはかなわなかった。奴が闇の竜の力の多くを取り戻したのだとしたら、なおさら、もうかなわんだろう」
「セイロスが襲ってきたら、今度はもう防げないかもしれないということか。ポポロだけじゃなく、私たちも皆──」
とセシルも言ったので、一同は静まりかえってしまいました。重苦しい空気になった部屋の中で、ポポロが涙ぐんでうつむきます。何もかも自分のせいのような気がしたのです。
すると、そんなポポロの手をフルートが握りました。全員を見回して言います。
「大丈夫、ポポロはまだ戦える。ぼくたちだって負けてはいない。今度こそ奴を退けるさ」
「どうやって!? ポポロはもう前のような魔法は使えないんだぞ!?」
とレオンが思わず声を荒らげましたが、フルートは揺らぎませんでした。
「ポポロはひとりで戦ってるわけじゃない。もちろん、ぼくたちだって自分だけで戦ってはいない。みんなで戦ってるんだ。全員が力をひとつにすれば、必ずデビルドラゴンの力だって上回れる!」
つい先ほどまで彼自身が先行きに不安を感じていたのですが、そんなことはすっかり忘れてしまっています。
「ったく、一番ひとりで戦いそうな奴は誰だ。そのことば絶対忘れんなよ」
とゼンが苦笑します──。
そこへ、オリバンたちの足元をすり抜けて、病室に白い雄犬が駆け込んできました。ハッハッと舌を出しながら言います。
「外の気配が変わった! ものすごい闇の気配だぞ!」
いつもレオンのそばにいるビーラーですが、このときは砦の防壁の上で周囲を見張っていたのです。
全員が思わず身構えたところへ、足音がして今度は銀髪の青年が駆け込んできました。ユギルです。
普段は落ちついた様子で占いを告げる彼が、このときは明らかに動揺していました。それを必死で抑えながら、全員に向かって言います。
「強大な闇が姿を現しました。間違いなくセイロスです。ですが──あまりにも思いがけない場所から──」
息が続かなくなったのか、それともあわててしまって声が出せなくなったのか、ユギルのことばが途切れました。
「どこだ!?」
とオリバンがどなるように尋ねると、ユギルは何故か拳を握りました。
「すぐ目と鼻の先……リーリス湖の向こうの、デセラール山でございます」
悔しさをにじませて占者は答えました──。