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第28巻「闇の竜の戦い」

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112.出撃

 「そんなぁ……」

 ユギルの話を聞いてメールが言いました。

「じゃあ、なにさ、フルートとオリバンがディーラに行くと戦いで死んじゃうけど、行かなかったらディーラは敵に攻め落とされるし、ロムド王も殺されちゃうのかい? じゃあ、どうすりゃいいのさ?」

 それを聞いて、メーレーン姫が声を上げて泣き出しました。

「お父様、お母様……トウガリ……!」

 泣きじゃくりながらトーマ王子にしがみつきます。王子がなだめますが泣きやみません。

 レオンがマロ先生に尋ねました。

「ぼくたちはどうしても救援に行けないんですか? 敵はセイロスの魔力を使っています。闇の竜の力を使っているんだから、ぼくたち天空の民だって参戦していいじゃありませんか?」

「だめだ。人間同士の戦いに我々は加われない」

 とマロ先生が答えたので、レオンが食い下がろうとすると、天狗が横から言いました。

「わしらの祖先のエルフとおまえたち天空人は、人間の戦いには加わらないと大昔に契約した。とはいえ、契約にわしらを止める力はないから、その気になればディーラへ行くことができるし、そうなれば敵の人間をたちまち退けられるだろう。わしらは強力な光の魔法使いだからな──。だが、力の均衡を破る強力な光の魔法は、必ず同じだけの闇の魔法を戦場に呼ぶ。これは理(ことわり)だ。強力すぎる二つの魔法が戦闘でぶつかり合えば、都は跡形もなく崩れ、人々は敵も味方も巻き込まれて全滅するだろう。それは勝利でもなんでもない。ただの破壊だ」

 諭されるように言われて、レオンは悔し涙を浮かべました。

「それはわかっています! わかっているけれど──それじゃあ、ぼくたちは何もすることができないんですか!? ぼくたちは正義を守る光の民なのに!」

 けれども、天狗は返事をしませんでした。マロ先生が黙って首を横に振ります。

 

 すると、フルートが仲間たちに言いました。

「それじゃ出発しよう」

 あたりまえのように言われて、仲間たちは一瞬とまどい、たちまち騒ぎ出しました。

「出発って、ディーラに行くつもりなの!?」

「馬鹿野郎! 死ににいくつもりか!?」

「それはダメだってユギルさんが言ってるじゃないのさ──!」

「じゃあ、陛下が殺されてもいいのか? サータマン王の手にかかって」

 とフルートは言い返し、自分を引き止めるように腕を抱きしめていたポポロを、逆に抱き寄せて続けました。

「大丈夫だ。ぼくは死なない。だって、ぼくには君たちがいるからな」

 お、とゼンは意外そうな声を上げて、メールと顔を見合わせました。ルルとポチもお互いを見ます。

 ポポロがフルートを見上げて言いました。

「あたしは絶対にフルートを死なせない……! でも、ロムド王にも死んでほしくないわ。絶対に!」

 それは誰もが同じ気持ちでした。ここまでの長い道のり、いつも勇者の一行を気にかけ理解して、陰に日向に力になってくれたのがロムド王です。

 フルートはまた言いました。

「陛下を死なせるわけにはいかない。助けに行こう──。それに、ぼくが死ぬって予言が出たのも、これが初めてじゃない。でも、ぼくは今もこうして生きている。今回だってきっと生き延びるさ」

 彼は言い出したら聞かないあの声になっていました。どうしようもなく優しいけれど、同じくらいどうしようもなく頑固なのがフルートです。

 ゼンはがしがしと頭をかき、腕組みをして言いました。

「まあ、それもそうか──。おまえが死にそうになるのなんて、今に始まったことじゃねえもんな」

「そうね。フルートが死ぬって予言されたのだって、確かに初めてじゃないわ。今回が二度目……三度目?」

 とルルが言ったので、メールは苦笑いしました。

「三度目かな? でも、今までだってあたいたちが防いだんだよね」

「ワン、フルートはみんなを守る勇者だけど、ぼくたちはそのフルートを守る仲間ですからね」

 とポチが尻尾を振ります。

 フルートはオリバンに向き直りました。

「ぼくたちは陛下とディーラの人たちを助けに行きます。オリバンは──」

「もちろん私も行くぞ!」

 とオリバンは即答しました。やはり誰がなんと言っても止められない声です。

 フルートは笑いました。

「うん、そう言うと思っていました。それじゃ先に行ってます。向こうで落ち合いましょう──行くぞ!」

 呼びかけられて、おう! と仲間たちは答えました。フルートと一緒に司令室から飛び出していきます。

 

 オリバンはセシルを振り向きました。

「私たちも行くぞ。私は正規軍を率いていく。あなたはあなたの部下を率いていけ」

「わかった」

 とセシルは答えて、こちらは弟のほうを向きました。

「ハロルド、ナージャの女騎士団は連れていく。あなたはハルマスを──」

「いいえ、姉上。私もメイ軍を率いて出動します」

 とハロルド王子は答え、ほんの少し苦笑しながら言い続けました。

「ここにはもう守る人たちが大勢います。私たちがいなくても守備は充分でしょう。私もディーラの救援に向かいます」

 王子は姉の後ろの長椅子を見ていました。ピンクのドレスを着たメーレーン姫がトーマ王子にしがみついて泣きじゃくり、王子から慰められています。ハロルド王子は苦笑いのまま、そっと溜息を呑み込みました──。

「では、後を頼むぞ。竜子帝、天狗殿、天空の魔法使いたち」

 とオリバンは後に残る人々に声をかけ、ユギルに言いました。

「行くぞ。早く支度をしろ」

 ユギルは驚きました。

「わたくしをお連れくださるのですか?」

 と思わず聞き返すと、オリバンは静かに言いました。

「ユギルが私やフルートを案じて黙っていたのはわかっている。父上からも口止めされていたのだからな。さぞ苦しかっただろう──。私もフルートと同じ気持ちだ。死ぬという予言が出たからといって、必ず死ぬとは限らない。それが運命だとしても、その運命を避ける手段を示すのが、占者としてのユギルの役目だ。私たちと共に来い。そして、我々とロムドの全員が助かる道を示すのだ」

 それは王者のことばでした。部屋の全員が敬服の目でオリバンを見ます。

 ユギルはオリバンの前にひざまずくと、胸に手を当てて頭を垂れました。短くなった銀髪が肩や胸元で揺れます。

「仰せのとおりに、殿下。わたくしはロムドの一番占者として、皆様方と陛下とロムドを救う道を全力でお探しいたします」

「よし、行くぞ」

 とオリバンも言い、ユギルとセシル、ハロルドやタニラを引き連れて司令室を後にしました──。

2022年4月16日
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