戦闘中に突然退却していった闇の軍勢。
仲間たちはフルートにその目的を解明してほしかったのですが、フルートは考え込んだままでした。
いくら待っても彼が何も言わないので、しかたなく仲間たちは自分たちで理由を考え始めました。
「えっとさぁ……激戦で敵も力を使い果たしていたってのは? だから、あれ以上戦えなくて退却したんじゃないかな?」
とメールが言いましたが、ルルが頭を振りました。
「私たちと戦っていた敵は、消える直前までばんばん魔法を使っていたじゃない。それがいきなり力切れになるってのはおかしいし、みんながいっせいに力切れになるのも不自然よ」
「ワン、それじゃイベンセが力切れになったっていうのは? レオンから奪った力も使い切っていたみたいだから、これ以上部下を守れないと思って退却させんじゃないかな?」
とポチが推理しますが、ルルが前よりもっと大きく頭を振りました。
「闇王が勝ち戦を捨てて部下を守るなんて、信じられないわよ! 死んでも敵を倒せって命令するのよ、闇王は!」
「敵は夕刻に退却していった。日が沈むと魔法が使えなくなるから、あわてて退却したとは考えられないのか?」
とセシルが言いましたが、これにはルルとポポロが同時に答えました。
「ありえないわ!」
「ありえません!」
「だよな。闇の連中は夜のほうが力が強くなるんだからよ」
とゼンも言って、この推理も却下されてしまいました。
「ユギルはどうなのだ?」
とオリバンは振り向きましたが、占者も首を横に振りました。
「闇のものは占いの場には現れません。この付近から闇の気配が消えたことは感じておりますが、どこへ去ったのか、目的が何なのか、それを把握することは不可能でございます──」
占者の銀髪は戦いの際に切られて、背中の中ほどの長さになってしまっています。
すると、ふぅ、とフルートが急に溜息をついたので、仲間たちはまた彼に注目しました。
「なんかわかったか?」
とゼンが期待して尋ねますが、フルートも首を振りました。
「何か目的があってのことだとは思うんだけどね。それが何なのかは……」
そう言ってまた考え込もうとするフルートに、ユギルが言いました。
「疲れているときには、いくら考えても頭がうまく回ってくれないものでございます。勇者殿も皆様も激戦を戦い抜いた直後でございます。皆様に必要なのはしばしの休息でございましょう」
でも──とフルートは反論しようとしましたが、本当にその顔が疲れた表情をしていたので、セシルも言いました。
「そうだな。私たちはみんな疲れている。休んで気力体力を回復させなくては。そうだろう、オリバン?」
そんなふうに同意を求められれば、オリバンもうなずくしかありませんでした。
「明日の朝になればワルラ将軍も竜子帝たちも戻ってくる。顔ぶれが揃ったところで、もう一度協議するのがいいだろう」
この作戦会議を開いたのはフルートでしたが、いつの間にか主導権はオリバンに移っていました。さあ、今夜はこれで解散だ、とオリバンに言われて、勇者の一行は司令室から追い出されました。
「殿下と妃殿下もだで。早ぐ休んでくなんしょ」
と河童がオリバンたちに言っている声が聞こえます──。
勇者の一行はしかたなく自分たちの部屋へ歩き出しました。
とたんにメールが伸びをして、ゼンは大あくびをしました。フルートだけでなく、全員が本当に疲れ切っていたのです。
「飯はさっき食ったからな。まずは食ったんだから、次は寝る番だ……」
とゼンがつぶやきました。もうかなり眠そうな声になっています。
フルートが歩きながらまた考え込んでいたので、ポポロはその手をつかみました。
「ユギルさんの言うとおりだわ。疲れていたらいい考えも浮かばないもの。ひと眠りして、頭が冴えたところでまた考えましょう」
フルートもとうとう考えるのをあきらめました。
「そうだな……」
と言ったとたん、ゼンに負けないくらいの大あくびが飛び出します。
「ワン、それじゃまた明日」
「ええ、朝になったらまた考えましょう」
「朝飯の準備ができたら絶対起こせよ」
「必要ないだろ。ゼンなら匂いだけですぐ目を覚ますんだからさ」
少年たちと少女たちは、そんなことを言い合いながら、通路で分かれました。それぞれの部屋に入っていきます。
部屋の中で、フルートは防具を脱ぎました。兜をテーブルに置いてから、剣をベッドに立てかけ、体をおおっている鎧の留め具を外していきます。
ゼンも弓矢やショートソードや胸当てを外し、腰の荷袋をテーブルに置くと、自分のベッドに転がりました。次の瞬間にはもう、ぐうぐうといびきをかき始めます。
ポチは、そんなゼンのベッドの下で丸くなっていました。こちらもあっという間に寝てしまっています。
フルートは脱いだ防具をまとめてベッドの下に入れると、自分はベッドの上に寝転がりました。ランプの灯りはまだ消していなかったので、揺らめく炎を見ながらまた考えます。
「不自然に見えることの陰には、何か必ず隠された意図があるんだ……。それが何なのか……なんのための……誰の、ための……」
けれども、フルートももうそれ以上考え続けることはできませんでした。闇の敵と全力で戦い、全身を焼かれるような苦痛にも耐えて金の光を爆発させたのです。フルートもどうしようもなく疲れ切っていました。
灯りがついたままの部屋に、二人と一匹の寝息やいびきが規則正しく響き始めました──。