メールやポポロに襲いかかってきたのは、ダルダン将軍に率いられたドルガやトアでした。ただ、将軍の姿はメールたちからは見えませんでした。敵の集団の向こうでフルートたちと戦っているのです。
ドルガたちとイベンセの間に挟まれて、メールは歯ぎしりしました。花鳥は聖なる花を矢のように撃ち出して戦うことができますが、これだけの敵が相手では、すぐに花が足りなくなってしまいそうです。とにかくイベンセから少しでも離れよう、と鳥を上空へ向かわせます。
そこへドルガたちの魔法攻撃が飛んできました。舞い上がる花鳥の腹や翼の裏側に命中したので、鳥の体が激しく揺れます。
「だ、大丈夫かい、ポポロ!?」
「あたしは大丈夫よ! メールは!?」
「あたいも大丈夫。花鳥も今は守りの白になってるから、とりあえずは大丈夫みたいだ。でも、あれを何発も食らったらきついな──!」
話しながらメールは、ここに守りの花もあったら、と考えました。デセラール山に咲くユリに似た白い花で、星の花に匹敵するほどの守りの力を持っています。今回も力を貸してほしくて探しに行ったのですが、闇の軍勢との前哨戦でとばっちりを食ったのか、デセラール山のどこを探しても見つからなかったのでした。
ところが、ポポロが必死に何かを考える顔をしていたので、メールは我に返って言いました。
「魔法を使っちゃダメだよ、ポポロ! 今日の魔法はあとひとつしかないんだからさ!」
「でも、このままじゃ──」
「それがイベンセの狙いなんだから、ダメったらダメなんだよ!」
砦の北側の上空にイベンセは羽ばたきながら浮いていました。ドルガやトアが攻撃する様子を見守るだけで、自分から攻撃をしかけてこようとはしません。イベンセはイベンセで、ポポロの魔法を警戒しているのです。
すると、敵が集中している場所で突然騒ぎが起きました。ドルガやトアが叫び声を上げて逃げだしたのです。少女たちを攻撃していた敵が何事かと驚いて振り向きます。
そこへ、敵の間を貫いて、強烈な光が広がりました。まぶしい金色の光が一帯に降り注ぎます。
光を浴びた闇の戦士たちは悲鳴を上げました。四本腕のドルガも二本腕のトアも、翼が溶けて墜落していきます。落ちながら体は溶け続け、地上に到達した頃にはもうほとんど何も残っていませんでした。彼らの体に縛りつけてあった象徴と鎖だけが、堅い音を立てて地面に落ちます。
ポポロとメールは歓声を上げました。
「フルート!!」
広がった光の中心に、ポチの背中でペンダントを掲げたフルートがいたのです。隣にはルルに乗ったゼンが、背後には赤い髪とドレスの願い石の精霊がいます。願い石の精霊はフルートの肩をつかんでいました。
金の石の光は群がっていた敵をほとんど消し去っただけでなく、ポポロやメールに襲いかかっていた敵も墜落させていました。わずかに生き残ったドルガとトアがダルダン将軍と共に大きく退きます。
フルートたちとポポロたちは空の上で集まりました。
「ポポロ、大丈夫か!?」
「メールも怪我してねえか!?」
心配する少年たちに少女たちは答えました。
「大丈夫よ。でも……」
「そっちこそ大丈夫なのかい!?」
近づいてきたゼンは頭から、フルートは片方の頬から血を流していたのです。
「心配ねえ。ドルガどもに、ちぃとやられただけだ」
「金の石が治してくれたから大丈夫なんだよ」
なんでもないことのように言う少年たちに、ポポロは涙ぐみ、メールは黙って肩をすくめました。いくらフルートたちが強くても、あれだけの敵に一度に襲われれば、完全には防ぎきれなかったのです。
「ワン、レオンとビーラーが砦の中に飛ばされましたよ。敵も大勢侵入してるし」
とポチが言いました。早く砦の中へ駆けつけたいのですが、彼らの近くにはまだイベンセがいました。金の石の光はイベンセにも降り注いだのですが、彼女は無傷で空に浮いています。
すると、願い石の精霊の横に金の石の精霊が現れて言いました。
「イベンセは光の障壁を張ってぼくの光を防いだ。だから無傷でいるんだ」
「まだレオンから奪った魔力を使っているのね」
とルルが悔しがると、金の石の精霊は冷静に続けました。
「レオンの魔力は天空の民の中でも桁違いに大きい。それを相当量吸収したから、まだ光の魔法が使えているんだ。でも、それもそろそろ終わりだな。奪ったレオンの魔力が底をつき始めている」
「よし、行くぞ!」
とフルートはポチと飛び出してイベンセに切りつけました。ゼンはまた後方から矢で援護します。
けれども、剣も矢も障壁に跳ね返されました。イベンセが姿を消します。
次に彼女が現れたのは花鳥のすぐそばでした。ぎょっとしたポポロへ手を伸ばしてきます。
「あいつ、ポポロの魔法が残ってんのに襲ってきたぞ!」
「ポポロの魔力を狙っているんだ!」
少年たちはあわてて駆けつけようとしましたが、距離がありました。イベンセがポポロを捕まえようとします。
すると、メールが言いました。
「伏せな、ポポロ!」
言いながらさっと手を横に振ると、それに合わせて花鳥の翼が動き、巨大な青い刃に変わりました。とっさに頭を下げたポポロのすぐ上をかすめてイベンセを切り払います。
けれども、イベンセはまた姿を消しました。残された障壁がガラスのような音を立てて砕けます。
「よし、光の魔力が尽きた!」
と金の石の精霊が言いました。ついにレオンから奪った魔力を使い果たしたのです。
イベンセはすぐには姿を見せませんでした。代わりにダルダン将軍の声が響きます。
「勇者を倒すぞ! 続け!」
金の石から距離を置いていた将軍が部下と共に突進して、フルートに襲いかかってきました──。