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第28巻「闇の竜の戦い」

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第28章 ズァラン将軍とウード将軍

82.ズァラン将軍とウード将軍

 一方その頃、ハルマスの砦の東では、青の魔法使いの指揮する部隊が闇の軍勢と激しく戦い続けていました。

 ユラサイの飛竜部隊が術師たちを乗せて空を飛び回り、押し寄せる敵へ攻撃を続けています。ユラサイの術師が使う中庸の術を、闇の軍勢は防ぐことができません。障壁をすり抜け、防具を貫いて命中する魔法に、闇の敵はばたばた倒れていきます。

 けれども術師たちも無敵ではありませんでした。敵がこちらの攻撃を防げないように、こちらも闇の敵の攻撃を防ぐことができないのです。ユラサイ兵が必死で飛竜を操ってかわしますが、かわしきれなくてまた一頭、飛竜が墜落していきます。

 飛竜と乗り手が地面に激突しそうになったところへ、青い魔法の光が飛んできて竜と人を受け止めました。全員が地面に軟着陸します。

「いやはや、敵が多すぎますな──とても防ぎきれん」

 と空中で青の魔法使いがぼやきました。光の魔法使いの彼は闇の攻撃を防いで飛竜部隊を守っているのですが、敵の数があまりに多くて対応しきれなくなっていたのです。

 少し離れた空中で赤の魔法使いも敵を攻撃していましたが、やはり防ぎきれなくて、多くの敵が足元を駆け抜けていました。敵が向かう先はハルマスの砦です。敵がハルマスに到達する前に防がなくては、と思うのですが、とても手が回りません。墜落した味方を助け出すことさえできないのです。

 そこへ西の方角から馬車が近づいてきました。猛スピードで戦場までやってくると、乗っていた兵士たちがばらばら飛び降りてきます。

「テト兵だ」

 と赤の魔法使いが心話で話しかけてきました。トア相手に戦闘を続けながらです。

「援軍ですか? だが、あれしきの数では返り討ちに遭ってしまうでしょう」

 と青の魔法使いは言いました。助けに行きたいのですが、とてもそんな余裕はありません。集団で襲いかかってきたトアを魔法で吹き飛ばし、別の飛竜を襲おうとしていたドルガを攻撃します。

 すると、馬車から降りて来たテト兵たちが敵へ石を投げ始めました。竜子帝たちも目にしていた投石器です。聖なる力を帯びた石が闇の敵を倒していきます。

 敵がいなくなった場所を馬車がまた走りました。先に墜落していた飛竜のすぐそばに停まって、また新たなテト兵が下りてきます。

「早く、乗ってください!」

「怪我をした飛竜も砦まで運びます! 総司令官のご命令です──!」

「おお、勇者殿のご命令ですか」

 やりとりを聞いた青の魔法使いは顔をほころばせ、術師が術で飛竜を馬車に乗せる様子を見ました。気がつけば、同じような馬車は他にも何台も来ていて、負傷した竜や人を乗せていました。テト軍による救援部隊でした。

 怪我人や怪我竜は戦場から運び出されていきましたが、術師たちは無傷だったので、そのまま後に残りました。自分自身で地上を走って敵を攻撃する者、呪符を投げて巨大な虎を呼び出し、それにまたがって攻撃を始める者──さまざまなスタイルで戦闘を再開します。投石器を持ったテト兵が後に残って、術師たちの援護を始めます。

 空中で、地上で、戦闘は続きます。

 

 すると、敵のドルガを倒した赤の魔法使いが、青の魔法使いの元へ飛んできました。さらに大軍で押し寄せてきた敵をにらんで言います。

「来るぞ。ついに本隊だ」

「そのようですな。味方を守る余裕はもうなさそうだ」

 と青の魔法使いも言って、杖を握り直しました。空から迫る敵の中に、六本腕の将軍が二人見えていたのです。四天王の生き残りの二人です。

「俺は左の奴とやる」

 と赤の魔法使いが言ったので、青の魔法使いは向かって右の将軍を見据えました。

「では、私はあいつを──。気をつけてください、赤」

「青もな」

 二人の魔法使いは互いを気遣うと、再び離れてそれぞれの敵へ飛んでいきました。赤の魔法使いはウード将軍へ、青の魔法使いはズァラン将軍へ向かっていきます。

 

 ズァラン将軍と青の魔法使いは以前、闇の森の戦闘で直接戦っていました。迫ってくる魔法使いを見て、将軍が笑います。

「おまえは見覚えがあるぞ、光の魔法使い! 今度こそ決着をつけてやろう!」

 将軍が手を振って宙に呼ぶと、見上げるような巨人が姿を現しました。半裸の体に巨大な二本の角と長い牙、燃えるように赤い髪をしたイフリートです。

 けれども、青の魔法使いのほうでもそれは予想していました。右腕を前へ突き出すと、握っていた太い杖が細い銀色の棒に変わります。先端に丸い玉がついた護具です。空中に突き立てるように直立させ、自分の魔力を流し込んで呼びます。

「いでよ、聖守護獣!」

 とたんに護具の先端から青い光がほとばしり、宙を飛んで大きな光の塊になりました。たちまち青く輝く巨大な熊に変わってイフリートに突進します。

 火の巨人のイフリートと青い大熊は、こぶだらけの丘陵地でがっぷり組み合いました。大熊のほうがイフリートよりひとまわり小さいのですが、力では負けていません。イフリートが吐いた炎をかわすと力任せに押して、よろめいた敵へかみつきます──。

 

 赤の魔法使いは直接ウード将軍へ向かっていました。赤い弾丸のように飛んで将軍の翼を破ろうとしますが、すんでのところでかわされてしまいます。

 赤の魔法使いは大きくUターンして、またウード将軍へ襲いかかろうとしました。狙いは将軍の翼です。突き破って空から地上へ落とそうとします。

 すると、ウード将軍が障壁を張りました。赤の魔法使いが激突して跳ね飛ばされてしまいます。

 空中で踏みとどまった赤の魔法使いは目を見張りました。ムヴアの術に光の魔法を重ねがけして突進したのに、防がれてしまったのです。

「ずいぶん強力な障壁だな」

 と思わず言いますが、ウード将軍に彼のムヴア語は通じませんでした。ただ、雰囲気で何を言われたのかはわかったようで、得意そうに言います。

「わしは闇王の盾! 四天王で一番防御力が高いのだ! 他の三人のようにたやすくはないぞ!」

 闇王の四天王はそれぞれ得意とする技や能力が違っていました。ズァラン将軍はイフリートや闇の大蛇のような巨大な魔物を召喚するのが得意ですし、ジオラ将軍はガーゴイルやヨロイサイ、バロメッツといった大地に属する怪物を操るのが得意でした。ロン将軍は知略を巡らして敵と味方を出し抜くのが得意なタイプです。ただ、ジオラ将軍とロン将軍はすでに戦死して、この世にもういませんでした。防御力を誇っているウード将軍も、実際には、以前妖怪軍団の雷獣とやり合ったときに、障壁を破られて傷を負ったのです──。

 赤の魔法使いはムヴア語の呪文を唱え直しました。再び赤い弾丸となって飛んできたので、愚か者め! とウード将軍が嘲笑います。

 すると、赤の魔法使いが障壁をすり抜けました。そこに防壁などなかったように、なんの抵抗もなく通り抜けて将軍に襲いかかります。彼は光の魔法を捨ててムヴアの術だけで攻撃していったのです。

 相手を光の魔法使いと思い込んでいたウード将軍は不意を突かれました。かわしきれなくて赤い弾丸に翼を破られてしまいます。

「この──!」

 握っていた槍を突き出しますが、赤の魔法使いは槍の柄をつかんでかわしました。勢いがついたまま向きを変え、ウード将軍の頭上からムヴアの術をたたき込みます。

 ウード将軍は空から地上へ墜落して激突しました。人間の何倍もある巨体が地面にめり込みます。

 

 赤の魔法使いは激突する前に将軍から離れて、ひらりと地上に舞い降りました。将軍を助けようと突進してくる闇の兵士を光の魔法でなぎ倒すと、ウード将軍が埋まった大地の穴へ杖を向けます。そのまま大地へ縛り付けようとしたのです。彼のムヴアの術を闇の民は破ることができません。うまくいけばウード将軍を捉えられます。

 ところが、術が完成する前に穴の中からウード将軍が現れました。元から巨体の将軍ですが、怪物のように大きな体になって、全身に厚い装甲をつけていました。ヨロイサイの皮膚か金属の厚い板を体に直接貼り付けたように見えます。

 赤の魔法使いはとっさに術を攻撃に変えて打ち出しましたが、将軍が突き出した手に跳ね返されてしまいました。その手もまるで巨大な金属の壁のようです。

 攻撃を跳ね返した手の下から別の腕が飛んできて、赤の魔法使いに殴りかかりました。魔法使いが空に飛んでかわすと、後ろにあった岩がこっぱ微塵になります。ウード将軍は巨大化して防御力が上がっただけでなく、攻撃力も増したのです。

「ムヴアの術も跳ね返されるか」

 赤の魔法使いは猫の目を光らせてつぶやきました。握った杖はいつの間にか細い銀色の護具に変わっていました。それを大地に突き立てて聖守護獣を呼び出します。

「来い、俺の山猫──!」

 護具からほとばしった光が巨大な赤い猫に変わりました。つかみかかるウード将軍をひらりとかわし、大地を蹴って襲いかかっていきます。巨人になった将軍が押し倒されて地響きを立てます。

 

 戦場ではまだ飛竜が飛び回り、術師が空飛ぶ敵や地上の敵を攻撃していました。地上の術師とテトの兵士も地上の敵を攻撃しています。その中でひときわ人目を引くのは、炎のイフリートと青い大熊の戦いと、巨人のウード将軍と赤い山猫の戦いです。

 すると、イフリートを操っていたズァラン将軍が部下たちに命じました。

「西へ行け! 敵の砦を攻め落とすのだ!」

「おまえたちもだ! ズァランに手柄を独り占めさせるな!」

 とウード将軍も山猫を跳ね飛ばしてどなりました。こんな状況でも、ライバルのズァラン将軍には対抗心むき出しです。

 おぉぉぉ……!!!!

 闇の軍勢はいっせいに西へ移動を始めました。飛竜部隊が追いすがって攻撃しますが、とても停まりません。

「まずいぞ! 本隊がハルマスに殺到する!」

 と赤の魔法使いがどなりました。赤い山猫が飛び起きてまたウード将軍に襲いかかります。

「早くこれを片付けて追いかけましょう!」

 と青の魔法使いは答えました。青い大熊がイフリートを殴り飛ばします。

 巨大な怪物や将軍、聖守護獣の戦いをその場に残して、戦場は西へと移動し始めていました──。

2022年1月4日
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