ゼンとメールを乗せた花鳥が、湖を飛び越えて岸へ舞い降りてきました。二人が砂浜へ飛び降りたところへフルーとポチが駆けつけます。
「おかえり、ゼン、メール」
「ワン、けっこう早かったですね。もう少し時間がかかると思っていたのに」
「ばぁろぉ。ぐずぐずして朝飯を食いそこねたら大事件だろうが!」
とゼンが答えましたが、それは冗談でした。メールがちょっと困ったような顔で言います。
「守りの花が見つからなかったんだよ。デセラール山にさ」
「見つからなかった?」
とフルートたちは驚きます。
リーリス湖の向こうにそびえるデセラール山には、守りの花というユリに似た白い花が自生しています。守りの魔力を持つ花で、闇に対抗する力が強いので、メールはゼンと一緒に探しに行っていたのでした。
「ワン、黄泉の門の戦いのときに、デセラール山からハルマスに守りの花をたくさん連れてきて、ゼンを守ったんでしたよね? 死者の国に連れて行かれないように。デセラール山には守りの花がたくさん咲いてるんじゃなかったんですか?」
「そうだったんだけどね。群生地は覚えてたから行ってみたんだけど、全部枯れてたんだよ。あちこち行ってみたんだけどさ、どこも全滅だったんだ」
とメールが言ったので、フルートは顔色を変えました。
「どうしてだ……? 守りの花は闇に出会うと燃えて闇を倒そうとするんだったよな? デセラール山に闇の敵がいるのか?」
デセラール山は湖を挟んでハルマスの目と鼻の先にあります。そこに敵が潜んでいては大変なことになるので、フルートは真剣です。
けれども、ゼンが首を振りました。
「一応メールと山全体を見回ってきたけどよ、怪物や闇の民は見つからなかったんだ。たぶん、この前の闇の軍勢との戦いのせいなんじゃねえのか?」
「ワン、この前のって、ロン将軍がハルマスに攻めてきたときのことですか?」
「それだけじゃねえ。その前にも、ジオラとかいう将軍がバロメッツで攻撃して大暴れしただろうが。そんときの攻撃がデセラール山にとばっちりして、守りの花が反応したんじゃねえかって、メールと話してたんだ」
「ああ、確かにそれはありえるか……」
とフルートは言いました。闇の将軍とハルマスの戦いは激戦になり、砦を破ろうと闇の魔法がずいぶん使われました。それがさえぎるもののない湖の上を越えて、デセラール山にまで及んでいたのかもしれません。
「守りの花があれば、砦やポポロをしっかり守れると思ったんだけどさ。あてがはずれちゃったよ」
とメールががっかりしたように両手を広げたので、フルートは答えました。
「しかたないさ。星の花のほうは無事に数が増えたんだから、それだけでも良かったことにしよう」
メールの後ろでは青と白の星の花が入り混じった花鳥が、大きな翼をゆっくり動かしていました。翼が動くたびに花が淡く光って芳香を放ちます。戦闘で一時は数がとても減ってしまった星の花ですが、メールが砦の中の花畑で一生懸命世話をしたので、また増えてこうして花鳥を作れるようになったのでした。
そのとき、彼らの頭の中にポポロの声が聞こえてきました。
「メール、ゼン、帰ってきたのね? みんな戻ってきて。朝ご飯の準備ができた、って料理長さんが言ってるのよ」
「やった、間に合ったぜ!」
とゼンは歓声を上げると、メールより先に花鳥に飛び乗りました。
「みんな乗りな。一緒に戻ろうよ」
とメールが言ったので、フルートとポチも花鳥に乗ります。
大きな鳥で林や建物を飛び越えながら、フルートはゼンたちに言いました。
「夕方、食事の時間になったら、大食堂に行ってみようよ。メーレーン姫が歌を聴かせているんだけど、大人気らしいんだ。楽器の伴奏もつくってさ」
「ワン、さっき伴奏の練習をしている兵士さんたちと話したんです」
「へぇ、そうなんだ? すごいね」
「砦は娯楽が少ねえから、ちょうどよかったのかもしれねえな。行ってみるのも面白そうだな」
これからまた激戦が始まるとしても、食べるときにはしっかり食べ、楽しめるときにはしっかり楽しむのが勇者の一行です。
「ついでにオリバンやセシルも誘ったらどうだろう?」
「あたい、メーレーン姫に花束を贈ってあげようかなぁ」
そんな話を賑やかにしながら、彼らは作戦本部目ざして飛んでいきました──。