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第28巻「闇の竜の戦い」

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第20章 大地の呼び歌

60.司令室

 ロムド国の東、リーリス湖畔のハルマスでは、作戦本部の司令室にフルートやオリバンたちが集まっていました。

 椅子に座って目をつぶり、祈るように手を組んでいるポポロを、全員が見守っています。

 オリバンがフルートに話しかけました。

「本気で北の峰のドワーフたちにサラマンドラを呼ばせようというのか? だが、あれはドワーフとノームが共に同じ歌を歌わなければ出現しないはずだ。赤いドワーフの戦いのときは、ジタンにドワーフとノームが揃っていたが、北の峰にはドワーフしかいないのだぞ」

 横でその話を聞いていたセシルが、もっと基本的な質問をオリバンにしました。

「そのサラマンドラというのは何なんだ? それに、ドワーフとノームが歌うというのは?」

「サラマンドラというのは火トカゲの怪物だ。通常のサラマンドラはせいぜい人の倍くらいの大きさしかないが、ドワーフたちのサラマンドラは非常に巨大で力も強い。契約に基づいて呼び出される聖獣なのだ」

「ワン、大地の呼び歌っていう魔法の歌がドワーフとノームの両方に伝わっていて、声を合わせてそれをうたったときに、サラマンドラが召喚されるんですよ」

 とポチも言いました。赤いドワーフの戦いのときには、そうやって召喚されたサラマンドラが、デビルドラゴンを追い払ってくれたのでした。

「サラマンドラは一生の間に何度でも召喚できるのか?」

 とセシルはまた尋ねました。彼女も聖獣のユニコーンを召喚したことがあるのですが、それは一生に一度しかできない契約になっていたのでした。

「ワン、何度でも呼べます。ただ、ドワーフとノームの両方がいないと呼べないし、呼んだ後もちょっと大変なことになります」

 それを聞いて、セシルはうなずきました。彼女自身もユニコーンを呼び出した後で命を失いかけました。聖獣召喚は決して簡単なことではないのです。

 

 オリバンがまたフルートへ言いました。

「北の峰のドワーフたちにサラマンドラを召喚させて、ベヒモスと戦わせようとしているのはわかった。だが、何度も言うが、北の峰にはノームはいないのだぞ? それでどうやってサラマンドラを呼ぶのだ」

 昨夜、ゼンとメールとルルが北の峰へ出発した後、オリバンやセシルは自室に戻って休んだのですが、フルートとポポロとポチは、ゼンたちから連絡が来るかもしれないから、と司令室に残りました。朝になってオリバンたちが来てみると、フルートたちはまだ司令室にいて、北の峰がベヒモスに襲われているからドワーフたちにサラマンドラを呼び出させる、と言ったのです。そのための詳しい作戦は、まだオリバンたちに知らされていませんでした。

「もちろん、ジタン山脈のノームとドワーフにも一緒に呼んでもらうんですよ」

 とフルートが当然のことのように言ったので、オリバンは思わず大声になりました。

「それこそ、どうするというのだ!? 北の峰とジタン山脈は何百キロも離れているのだぞ!」

 とたんにフルートとポチが、しぃっ、とたしなめました。

「ワン、あまり大きな声を出さないでください。北の峰は敵の影響下に入ってるから、ポポロでもゼンやメールの声は聞こえないんです。ルルの声だけがやっと届いてるけど、それも弱いから、周りがうるさいと聞こえなくなるんですよ」

 小犬に注意されてオリバンは不本意そうな顔になりましたが、すぐに、すまん、と謝りました。潔さはこの王子の長所です。

 フルートは静かな声で言いました。

「北の峰とジタン山脈の間で、おしゃべり石を使ってもらうんです」

 おしゃべり石? とオリバンだけでなくセシルも目を丸くして、すぐに思い当たった顔になりました。

「そういえば、こことロムド城のように、北の峰とジタンもおしゃべり石で結ばれていたな。それで連絡を取り合って、互いに必要な材料を融通し合っているということだった」

「では、おしゃべり石で双方のドワーフとノームの歌を合わせようというのか。それで本当にサラマンドラが召喚できるのか?」

「できるはずです。二つの歌がひとつになるんだから。洞窟の中でサラマンドラは呼び出せないので、北の峰のドワーフたちに外に出てもらいました。さっき、無事に安全な場所にたどりついた、と連絡がありました。ゼンたちも一緒です。ただ──」

 フルートの表情が曇りました。

「彼らの周りは火の海らしいんです。ベヒモスが山に火を吐いたんだと言ってました。神聖な木が守ってくれているらしいんだけど、あまり長時間だと危険になるかもしれません」

 そして、フルートはまたポポロを見ました。彼女がルルと連絡を取り始めると様子でわかるのですが、今はまだじっと目を閉じ、うつむき加減で手を組んでいるだけでした。彼女もルルからの連絡を待っているのです。

 実を言えば、フルートは内心かなり焦っていました。今すぐポポロやポチと北の峰に飛んでいって、ゼンたちと一緒に戦いたいのは山々なのです。

 けれども、ベヒモスという怪物は信じられないほど巨大だという話でした。以前闇の森に現れたクンバカルナよりも大きいというのです。

 それほど大きな怪物は、いくら金の石や願い石の力を借りても、消滅させることはできません。ポポロの魔法を二つ一度に使えば、ひょっとしたら倒せるかもしれませんが、それをすればまたイベンセがポポロを捕まえに来ることでしょう。自分たちではベヒモスに立ち向かえないとフルートは判断して、北の峰にサラマンドラを召喚することを思いついたのでした。

 

 ふむ、とオリバンは腕組みしました

「北の峰やジタンのドワーフたちは勇敢で強靱だ。ジタンのノームたちもな。体は小さいが全員が非常に勇敢だ。きっとサラマンドラを召喚できるだろう」

 フルートは黙ってうなずきました。ポポロを見守り続けます。

 すると、ポポロが急に身じろぎしました。目は閉じたままですが、小さく何度もうなずくと、うん、うん、と相づちを打ち始めます。ルルから連絡が来たのです。

 全員が息を詰めて見守っていると、やがてポポロは目を開けて言いました。

「ジタンのラトムたちと連絡がついたらしいわ。歌の準備が整ったから、始めるって」

「ゼンには歌に加わらないように伝えてくれ。ゼンたちはドワーフたちの警護役だ」

 とフルートが言ったので、ポポロはうなずいてそのことばをルルに伝えました。はるか彼方の北の峰では、ルルがそばにいるゼンへ伝えているはずでした。

「ワン、いよいよですね」

 とポチが言い、全員はまたポポロを見守りました──。

2021年10月4日
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