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第28巻「闇の竜の戦い」

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52.違和感

 「ぼくは今回の襲撃をなんだか、らしくないと感じていたんだ」

 とフルートは集まった仲間たちへ話し出しました。ゼン、メール、ポポロ、ルル、ポチ、それにオリバン、セシル、竜子帝という面々です。

「らしくない、とは? リヴァイアサンが海を襲撃したことがか?」

 とオリバンが聞き返します。

 フルートは首を振り返しました。

「その前の闇の怪物の襲撃からです──。怪物たちは同盟国の各地を襲ったけれど、どこも戦いにはそれほど重要じゃない、名前も知られていないような小さな町や村ばかりだった。そこを襲撃したって、こちらの軍事力にはほとんどダメージがない。ぼくたちが襲撃を無視すればそれですむようなところばかりだった。まあ、待てって。話は全部終わってないよ」

 驚き怒って反論しようとしたゼンやメールを抑えて、フルートは話し続けました。

「ぼくたちはこれまで幾度となくセイロスと戦ってきたけれど、セイロスの戦い方は基本的に正攻法だ。軍勢を率いて猛進して、こちらの本拠地を征服しようとする。軍師のチャストを引き入れたあたりから、別の重要拠点を攻撃して注意を惹きつける陽動戦法を使うようになったけど、やっぱり自分の戦い方は正攻法のままだった。たぶん、元々セイロスはそういう戦法を得意としていたんだろう。要(かなめ)の国の皇太子だった頃から……。ところが、今回の闇の怪物は、反撃もできないような一番弱い人々を襲ってきた。自分たちが絶対危険にならない相手をいたぶって殺そうとする、すごく卑劣なやり方だ。いくらこちらの戦力を分散させる目的だったとしても、そんな卑劣な戦法をセイロスが取るだろうか、と思っていたんだよ。らしくないんだ、本当に」

 話を聞いていた一同はとまどいました。フルートの言うことは理解できるのですが、それが何故「まずい」のかわからなかったのです。

「戦法が違うのは、それを指揮しているのが闇王のイベンセだからじゃないのか? 指揮官が違えば戦い方も変わるのは当然だろう」

 とセシルが言うと、フルートはうなずきました。

「たぶんそういうことなんだと思う。闇王ならどんな卑怯な手でも使うだろうし、ぼくたちを精神的に追い詰めるような戦法だって、取ってくるだろうからな……。怪物たちの襲撃は軍事的には影響がなかったけれど、ぼくたちには精神的なダメージが大きい出来事だった。あれを無視するなんてこと、ぼくたちにはできない。イベンセはぼくたちの泣きどころを知ってるってことなんだ。どこを攻撃すれば無視できなくなるか、よく知ってるんだよ」

 やっと少しフルートの言いたいことがわかってきて、オリバンは、ふむ、と唸りました。

「だからシルも襲われたのだな。フルートにとって、シルはことさら無視できん場所だ」

「海でリヴァイアサンが暴れているのもそうであろう。海はメールの故郷なのだから」

 と竜子帝も言います。

 フルートは真剣な顔でうなずきました。

「そのとおりだ。ぼくの故郷が襲われて、次にメールの故郷も襲撃された。どちらも天空の軍団が助けてくれているけれど──ねえ、これで全部だと思うか?」

 急にフルートから聞き返されて、一同は驚きました。

「え、いくら闇王でも、天空の国は無理だと思うわよ。天空王様がいらっしゃるもの」

 とルルが言うと、ゼンが突然、やべっ、と言いました。

「親父たちは──? 北の峰はどうなんだ!?」

 フルートはまたうなずきました。

「もし闇王がことさらぼくたちの故郷を狙ってきたんだとしたら、北の峰も危ない。闇王に襲撃されてるかもしれないんだ──」

 

 一同はあわて始めました。

「北の峰はいかん。北の峰のドワーフたちはロムド軍のために、強力な武器や防具を製造して運んでくれているのだ。そこを敵に制圧されたら、影響は計り知れん」

 とオリバンが言うと、セシルも言いました。

「ゼンの父上や仲間のドワーフたちも心配だ。ドワーフが屈強な民なのは知っているが、怪物が集団で襲ってきたら、いくらドワーフでも撃退するのは難しいだろう」

「ワン、ユギルさんに北の峰の様子を占ってもらえないですか?」

 とポチが言うと、オリバンは首を振りました。

「ユギルは三日前から部屋にこもって占いの最中だ。サータマンに潜む敵の動きをつかもうとしているのだ。邪魔はできん」

「それならポポロよ! 北の峰の様子は見られない?」

 とルルに言われて、ポポロは涙ぐんで答えました。

「もうやってるわ。でも、何も見えないのよ……」

 何も見えない!? と一同はまた顔色を変えました。闇の敵が大がかりな襲撃を仕掛けているとき、その場所はたいてい光の目から隠されてしまうのです。

 ゼンが歯ぎしりしてどなりました。

「メール、今すぐ俺を北の峰へ運べ! 北の峰がどうなってるか、この目で確かめてくらぁ!」

「あいよ! と言いたいけど、ごめん、今は無理だよ──。この前の戦いで星の花が減り過ぎちゃったから、砦の花畑で増やしてる最中なんだ」

 とメールが困惑したので、ポチが言いました。

「ワン、それならぼくが北の峰に飛んで様子を見てきますよ!」

「いや、あのレオンという天空の魔法使いに行ってもらうほうが良いのではないか?」

 と竜子帝も言いましたが、ゼンは聞き入れませんでした。

「敵が地下に現れてたら、他の奴じゃ中に入れねえ! 俺が行くしかねえんだよ!」

 

 騒然となっている一同に、フルートが言いました。

「ルル、ゼンを北の峰に運んでくれ。他の者はハルマスに待機だ。もし本当に北の峰が襲撃されていたらポポロに知らせてくれ。すぐに応援に飛んでいく」

「あ、そんならあたいも行くよ!」

 とメールが言ったので、ゼンは怒りました。

「馬鹿言え、おまえは星の花が使えねえんだ! おとなしくここで待ってろ!」

「冗談! そんなことできると思うのかい!? それに、今は春だからね! どこにでも花は咲いてるさ!」

 二人が言い争いになりかけたので、フルートがまた言いました。

「それじゃメールも一緒だ。ルル、二人を北の峰に運んでくれ」

「ええ、いいわ。乗って」

 ルルが変身したので、砂浜に砂埃が舞い上がり、湖に波が立ちました。兵士たちが掲げた松明の炎が大きく揺れます。

 ゼンとメールが飛び乗ると、ルルはすぐに空高く舞い上がりました。まだ月も出ていない夜でしたが、雲間にまたたく星が方角を知らせています。ルルは仲間たちの上でぐるりと輪を描くと、北に向かってまっすぐ飛び始めました──。

2021年9月10日
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