「国内に現れた怪物の群れは、天空の民の軍団がことごとく退治してくれた。目下、各地からその報告が上がってきているところだ」
とロムド王がフルートたちに言いました。空からの援軍によほど安堵したのでしょう。よく響く声がいつも以上に明るく響いています。
ここはロムド城の王の執務室でした。遠見の石のおかげでハルマスの砦からでも会話はできますが、フルートたちは他にも用事があったので、直接城に来て王と話していました。
ロムド城に来たのはフルートとゼンとポチの二人と一匹だけでした。女の子たちはハルマスで留守番です。ゼンはいつものように青い胸当てをつけて弓矢を背負っていますが、フルートは鎧兜を脱いで、布の服の上に直接剣を背負っていました。銀のロングソードと黒と銀の光炎の剣が、フルートの背中で静かに光っています。
「天空の軍団はエスタやザカラスやテトにも飛んだはずです。あちらでも怪物は退治されたでしょうか?」
とフルートが尋ねると、王の傍らからリーンズ宰相が答えました。
「ご安心ください。もちろんあちらの国々からも、同様の報告が届いております。エスタ王とザカラス王からは、勇者の皆様方に感謝のことばも届いております。テトのアキリー女王は、たまたま出兵を見送りに出たところで怪物に遭遇して、レオンという少年に救われた、とお知らせくださいました」
「ワン、レオンがアクのところに?」
「そりゃまた奇遇だな」
とゼンやポチが驚きます。
けれども、フルートはまだ心配顔でした。
「天空の軍団はとてもすぐれた魔法使いだから、闇の怪物も残らず退治してくれたと思います。でも、彼らが来てくれる前に村や町が襲われました。その被害はどのくらいだったんでしょう? 亡くなった人も出ましたよね……?」
すると、ロムド王は静かな声で言いました。
「確かに、天空の軍団が到着する以前に襲撃された場所では、多大な被害が出た。以前にも話したように、住人が全滅してしまった村もあるし、働き手となる男たちが怪物に立ち向かって殺され、残された住人が困窮しているところも少なくない──。だが、怪物は倒された。彼らを支援し、町や村を再び元のようにしていくのは、わしたち国を司る者の役目だ。強力な援軍を空から呼んできてくれた勇者たちには、心から感謝している。どうかこれからも世界を守り続けてくれ」
王にそんなふうに言われて、フルートも少し明るい顔になりました。
「それはもちろん」
と即答します。
すると、リーンズ宰相が言いました。
「天空の軍団に救われた場所では、金の石の勇者の一行が来てくれたのだと思った住人も多かったようです。勇者殿の故郷のシルからは、勇者の一行に新しい仲間が増えたようだ、という報告までありました」
「ワン、風の犬でやってきて魔法で怪物を倒したからですね。でも、シルの人たちはぼくたちじゃないってすぐわかるから、新しい仲間が増えたんだと思ったんだ」
とポチは面白がりましたが、フルートは驚いたように聞き返しました。
「シルから? シルも怪物に襲われたということですか?」
「それもご安心ください。被害はまったくなかったという報告です。怪物は当初、隣町のラトスを襲撃したのですが、抵抗が強かったのでシルに移ってきたそうです。ですが、町に怪物が入り込もうとしたところに天空の軍団が駆けつけたので、怪我人は出なかったそうですよ」
と宰相は言いましたが、フルートの顔からはその後もずっと気がかりそうな表情が消えませんでした。
ロムド王との面談が終わると、城の通路を歩きながらフルートが言いました。
「ハルマスに戻る前にシルに行ってみよう」
「やっぱり心配か?」
「ワン、でも、宰相さんがシルには被害がなかったって言っていたのに」
いつもなら、仲間たちがシルに顔を出せと勧めても、フルートのほうで断っていたので、ゼンたちが不思議がっていると、フルートが言いました。
「気になるんだよ。シルが怪物に襲われたってことが。泉の長老の結界があるはずなのに」
あ、そうか、とゼンとポチもその不自然に気がつきました。シルはフルートたちが世界に旅立ったときから、泉の長老によって守られています。泉の長老は偉大なる光の魔法使いなので、闇の怪物は近づけないはずだったのです。
「シルでなんか起きてるってことか?」
「わからない。だから、確かめに行きたいんだよ。シルにはロキもいるし」
彼らの小さな友人の名前に、ゼンとポチはうなずきました。
「急いでピランさんのところへ行こう。修理が終わっているといいんだけど、まだだったら、このまま行くしかないな」
とフルートは言い、今回一番の目的だった場所へと急ぎました──。