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第28巻「闇の竜の戦い」

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第14章 援軍

42.襲撃

 各地に闇の怪物の大群が現れたと聞かされて、司令室の一同は驚きました。

「どういうことですか、陛下!?」

 とフルートが尋ねます。

 ユギルが掲げた丸い遠見の石から、ロムド王の声が聞こえてきました。

「今言った通りだ。国内に突然闇の怪物の群れが姿を現して、町や村を襲撃したのだ。襲撃された場所は、報告があっただけでも十数カ所。大勢の住人が殺害され連れ去られた。中には住民が全滅した村もあったようだ。ところが、魔法軍団を急行させようとしていたところへ、エスタ国とザカラス国からも同様の報告と救援の要請が来たのだ。敵は三国へいっせいに怪物を送り込んできたらしい」

 この話にユギルは顔色を変えていました。遠見の石を放り出すように宙に浮かせて、テーブルにかがみ込みます。

「わたくしは昨日から闇王の居場所を探ることに専念しておりました! その間にこのようなことが起きるとは──!」

 と自分を責めながら占盤をのぞき込み、すぐに占者の顔つきに変わりました。占盤の上へ目を走らせながら、一同へ告げます。

「中央大陸の非常に多くの場所に闇の怪物が出現しております。ロムド国内だけでも数十カ所。エスタ国とザカラス国でも同様ですが、テト国やメイ国にも同じように怪物が現れて人々を襲っております。その数は三百カ所以上。怪物の数は万を超しております」

 一同は息を呑みました。一万を超す闇の怪物が同時に各地を襲うなど、これまで一度もなかったことです。

「メイは今、多くの兵士がこのハルマスに集結していて、国の守りが手薄になっている! 怪物を撃退できているのだろうか!?」

 とセシルが故国を心配しました。

「それは我が国もエスタやザカラスも同様だ! その隙を突かれたか!」

 とオリバンが歯ぎしりします。

 遠見の石の向こうからロムド王の声がまたしました。

「ユギル、怪物はメイ国やテト国にも出現しているのだな? 敵は同盟軍の国々に怪物を送り込んだということか」

「さようでございます。ただし、ユラサイ国とミコンには今のところ怪物は現れておりません。中庸の術や光の神に守られている場所には近づきがたいのだろうと存じます──」

 とユギルは答えて唇をかみました。隙を突かれてしまったのは彼も同じでした。己のふがいなさをかみしめながら、また占盤を見つめます。

 

 フルートも真っ青になっていました。ハルマスの砦や王都ディーラが襲撃されることは想定していたし、場合によってはそれ以外の町なども襲われるかもしれない、とは考えていましたが、これほどたくさんの場所が同時に襲撃されることは予想もしていませんでした。ハルマス以外の場所が襲撃されたときには、それは陽動のはずだと思っていたのです。さすがのフルートにも、どうしたらよいのか、とっさには思いつきません。

 仲間たちが口々に言っていました。

「どこも守りが充分じゃないんだろ!? 早く助けに行かないと!」

「行くって、どこからだよ!? ものすごい数の場所で同時に起きてんだぞ!」

「どこからでもいいわよ! 近いところから助けに行きましょうよ!」

「ワン、それでも三百カ所以上なんて、とても回りきれないですよ──!」

 そのとき、ポポロが突然、いやぁ! と悲鳴を上げてしゃがみ込みました。周囲を透視して襲撃された村を見つけたのです。

「みんな……みんな死んでるわ……食われて……」

 目をおおって泣き出してしまった彼女を、フルートは抱き寄せました。怒りと悔しさに体が震えます。

 オリバンが言いました。

「ユギル、怪物が出現している場所で、ここから一番近いところを知らせろ! そこからしらみつぶしに退治していく! 竜子帝たちにも協力してもらうぞ!」

 と司令室から飛び出そうとします。

 とたんにロムド王とワルラ将軍の声が響きました。

「ならぬ、オリバン!」

「それはいけません、殿下!」

 オリバンは驚いて振り向きました。

「何故です、父上!? 事態は一刻を争うはずですよ!」

「敵がハルマスでもディーラでもない、ただの町や村を襲撃してきた理由を考えるのだ。どうして敵は一度にこれほど多くの場所を襲ってきたのだと思う」

「どうして……!?」

 オリバンはまた聞き返しました。一刻も早く救援に行きたいのに、なぞかけのようなことを言われて、じれったさのほうが先に立ってしまいます。

 すると、フルートがポポロを抱きしめたまま言いました。

「敵の目的はハルマスの戦力の分散だ。同盟軍の国々の、守備力が低い町や村に怪物を送り込んで、ここに集まっている戦力を救援に向かわせようとしているんだ」

 ワルラ将軍がうなずきました。

「さよう。そして、守備が手薄になったこのハルマスを、闇の軍勢で一斉攻撃するつもりなのです。我々が小さな町や村であっても見過ごせないだろうと踏んでの戦略です」

「卑怯者……!」

 セシルが拳を握ります。

 

「でも、でもさ! それじゃどうしたらいいのさ!? 助けに行かなかったら、あっちでもこっちでも、みんなが怪物に殺されちゃうんだろ!?」

「おい、フルート! なんとかできねえのかよ!?」

 仲間たちに言われて、フルートは、じっと考え続けました。彼らが持っている最大の攻撃力はポポロの魔法です。タイミングさえうまく合えば、かなり強力な魔法が使えますが、それでも今回の襲撃は範囲が広すぎました。ロムド国、エスタ国、ザカラス国、テト国、メイ国──中央大陸と呼ばれる広大な大陸の半分近くになってしまうのです。いくらポポロの魔法でも、そんなに広範囲には使えません。

 光炎の剣、光の矢、金の石と願い石、星の花、妖怪軍団、魔法軍団、同盟軍。フルートは自分たちが持っている戦力を片端から思い浮かべていきましたが、やはり対応策は思いつきません。

「どうすれば……」

 思わず口をついて出たことばに、仲間たちはますます青ざめます。

 すると、占盤を見つめていたユギルが言いました。

「自分たちの力だけではどうしようもない事態は、しばしば起きるものです、勇者殿。ためらわず助けをお求めください。それが占盤の啓示です」

 遠くから聞こえてくるような、厳かな声でした。

 助けって……とフルートはさらに困惑しました。彼らの味方はハルマスに集結しています。しかも、同盟の国々はロムドと同じように怪物に襲撃されているのです。このうえどこに助けを求めろと言うんだろう、と考えてしまいます。あとは神にでも助けを求めるしかない気がしま──

「あっ!」

 フルートは突然気がついて声を上げました。

「思いついたか!?」

「どうすんのさ!?」

 と仲間たちもいっせいに身を乗り出しました。

「彼がいた!」

 とフルートは言うと、その場に立ち上がりました。司令室の一方の壁は大きな窓になっていて、砦の北の防壁が見えています。防壁の上の鈍色の空へ、フルートは声を張り上げました。

「緊急事態だ! 頼むから今すぐ来てくれ、レオン!」

 と天空の国の友人の名を呼びます──。

 

 すると、大きな窓の向こうにいきなり大勢の人々が現れました。黒い服を着た男女で、全員が風の犬に乗って作戦本部と防壁の間の空間に浮いています。

「天空の国の貴族よ!」

 とルルが言いました。天空の国を守る強力な魔法使いの集団です。ざっと数えただけでも二百名はいます。

 すると、その中の数名が姿を消して、司令室の中に現れました。先頭に立っていたのは短い銀髪に丸い眼鏡のレオンでした。部屋の中の一同が何かを言う前に、フルートに飛びつきます。

「遅い! 呼ぶのが遅すぎるぞ! 手遅れになったらどうするつもりだったんだ!?」

 フルートの胸ぐらをつかんで、レオンはどなりました──。

2021年8月11日
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