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第28巻「闇の竜の戦い」

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40.遠見の石

 これは? と司令室の人々はユギルが掲げた球を囲みました。球は白っぽい石でできていて、綺麗に磨き上げられています。

 ゼンが、しげしげと見て言いました。

「中に、どえらくたくさんの細工と魔法が組み込まれてるよな。複雑すぎて俺には全然わかんねえけどよ」

「これは遠見の石というピラン殿の発明品でございます。以前、敵の飛竜部隊がディーラを襲撃した際に、城内にいながら都の外の戦場の様子を見ることができました」

 とユギルが説明したので、一同は驚きました。

「では、これで遠くを見ることができるのか! どこまで見ることができるのだ!?」

 と竜子帝が少年のように目を輝かせました。

「ポポロたちの魔法使いの目のような道具なの? それはすごいわね」

 とルルも感心します。

 ところが、ユギルは首を振りました。

「これは、こちらからは何も見ることがかないません。向こうから見ることができるのでございます」

 意味がわからなくなって一同がとまどうと、フルートが言いました。

「これはきっと、こっちの景色をロムド城に見せるための道具なんだよ。こっちの様子を伝えるためのものなんだ」

「ご明察でございます」

 と占者は言って、球のどこかを押すようなしぐさをしました。そっと手を放すと白い球が宙に浮いたので、一同はまた、おお、と驚きます。

 

 すると、球から甲高い声が聞こえてきました。

「おうおう、無事に着いたな! よぉく見えるぞ! さすがはわしの発明品だ!」

「ピランさん!!」

 とフルートたちは言いました。聞こえてきたのは、ノームの鍛冶屋の長の声だったのです。

「そうとも、わしだとも! どうだ、勇者の坊主ども! そっちからは何も見えんだろうが、こっちからはおまえたちの様子が手に取るように見えるぞ。おお、皇太子も皇太子妃もいるな。それからワルラ将軍とユラサイの皇帝たちか。おまえらの声もよく聞こえているぞ。この石にはノームとドワーフが発明したおしゃべりの石が組み込んであるからな」

 するとオリバンとセシルが顔を見合わせました。

「おしゃべりの石というのは以前にもどこかで聞いた気がするな」

「ジタンの地下の洞窟だ、オリバン。あそこのノームとドワーフは、おしゃべりの石というものを使って、北の峰のドワーフと連絡を取り合っていると言っていた」

 それを聞いて、ピランの声が嬉しそうに跳ね上がりました。

「おう、そうだそうだ! その通りだ! おしゃべり石というのは声や音を伝える性質を持っていてだな、それを細かく砕くと、同じ石のかけらの間で声が伝わっていくんだ。ただ、せいぜい数百メートルの距離しか伝わらんから、わしの弟子たちがロムド城とハルマスの間の地中にかけらを埋めていって、声がつながるようにしたんだ。両端の石は遠見の石の中に組み込んである。だから遠見の石で声も伝えられるというわけだ。どうだ、実にすごい発明品だろう!」

 そんなことを蕩々(とうとう)としゃべるピランに、一同は感心したり目を白黒させたりしました。

 後者のほうだった竜子帝が、うっかり口を滑らせました。

「朕にはさっぱり理解できぬ。それがなんだと言うのだ?」

 ピランはたちまち怒り出しました。

「それがなんだだと! わからんだと!? この偉大で素晴らしい発明がくだらんと言うのか!? 声の向きがずれんように、慎重に慎重を重ねて石を砕いたんだぞ! わしの弟子たちも、武器や防具を作る合間に、寝る間も惜しんで石を地面に仕込んでいったというのに! それも意味がないというのか!? えぇい、これだから人間というヤツは! 呆れてものも言えんわ──!!」

 その激怒ぶりに一同は焦りました。遠見の石の通信を中断させてしまうのでは、と心配になるような勢いです。リンメイがあわててとりなしました。

「違うのよ、鍛冶屋の長殿! あなたの発明があんまりすごすぎるから、キョンの良くない頭では理解できなかったの! それぐらい素晴らしい発明だってことなのよ!」

「な、なんだと、リンメイ!? 誰の頭が悪いというのだ!?」

 婚約者から馬鹿扱いされて、今度は竜子帝が激怒しましたが、とたんにゼンに押さえ込まれました。

「黙ってろ、馬鹿皇帝。これ以上じっちゃんを怒らせるんじゃねえ」

 とゼンにも叱られてしまいます。

 

 まだ怒っているらしいピランを、ロムド城でも誰かがなだめているようでした。遠くで何人もの人が話し合っている声が伝わってきてから、声の主が変わりました。

「皆の者、わしの声が聞こえるか?」

 よく響く男性の声──ロムド王の声でした。

 オリバンが、ほっとしながら答えました。

「よく聞こえます、父上。大変ありがたいものを送っていただきました。これで早馬や伝書鳥を使わなくても、こちらの様子をお知らせできます」

 石の向こうでロムド王がうなずいた気配がしました。

「この石は戦場の様子を知るためのものだ。闇の森へ出陣したそなたたちの様子を知ろうと思ったのだが、今回の戦闘はすでに終了したようだな。だが、すぐにまた役に立つこともあるであろう」

 すると、ユギルが石へうやうやしく頭を下げて言いました。

「ハルマスへの到着が予定より遅れてしまい、大変申し訳ございませんでした。途中、ハルマスから逃亡してきた数名の闇の兵が、ディーラの方角へ向かおうとしておりましたので、厄介なことにならないよう始末していて、遅くなってしまいました」

 これを聞いて、竜子帝とリンメイが驚きました。

「闇の兵士を始末した? 占者殿がか?」

「護衛の兵士たちと倒したの?」

「いえ、わたくしはひとりでここまで参りました。もちろん、敵ともひとりで戦っております」

 ひとりで!! と竜子帝たちはまたびっくりしましたが、オリバンやフルートたちは驚きませんでした。上品で非力そうに見えるユギルが、実はかなりの腕前だと知っていたからです……。

 

 その後も彼らは互いの状況を伝え合い、オリバンからロムド王へ食糧と薬草の支援を頼んで、遠見の石を使ったやりとりは終わりました。すっかりへそを曲げていたピランも、フルートたち勇者の一行が持ち上げに持ち上げ、素晴らしい発明品をありがとう! と大袈裟なくらいに感謝を伝えたので、やっと機嫌を直してくれました。

「おまえさんも匠(たくみ)の技をよく勉強しておくんだな。たとえ皇帝であっても、わしらは技術を理解せんような奴には、わしらは協力しないからな」

 と竜子帝に小言を残して、全ての通信が終わります。

 やれやれ、と一同は溜息をつきました。

 遠見の石をユギルがまた懐に戻したので、オリバンが尋ねました。

「それはどうするのだ? 戦場を見る道具だと言っていたが、どうやって設置するのだ?」

「これは石を動作させた者について動くように作られております。殿下たちに使っていただいてもよろしいのですが、殿下たちでは戦闘が激しすぎて、戦場全体の様子が見えない可能性がございます。わたくしがお預かりしておいて、わたくしが戦場で動かすのがよろしいのではないかと思っておりますが」

「では、ユギル殿もこちらの戦闘に加わるというのか!?」

「それで本当によろしいのですかな!?」

 セシルやワルラ将軍が驚くと、占者は平然と答えました。

「わたくしは陛下からご許可をいただいて参っております」

 とたんに、ひゃっほう!! と歓声を上げたのは勇者の一行でした。

「ほんとか!? ユギルさんが俺たちと戦うのか!?」

「鬼に金棒じゃん!」

「なんだかすごく久しぶりのような気がするわ……」

「そうね。ユギルさんは最近はずっとロムド城にいたから。いつ以来?」

「ワン、アクと一緒にテト国に行った、賢者たちの戦いのとき以来じゃないかなぁ」

「ユギルさんに来ていただいて本当に心強いです。敵がまた行方をくらましたので困っていました」

 とフルートも言いました。社交辞令などではなく本心です。

 ユギルはフルートの前に片膝をついて身をかがめました。そうすると長い髪が床に広がって銀色の流れのようになります。

「勇者の皆様方からそのように信頼されることは、占者としてこの上ない光栄でございます。ですが、先程も申し上げましたとおり、闇の軍勢は占盤に姿を現しません。戦闘そのものも状況の移り変わりが激しいので、占いの結果がすぐに変化して安定いたしません。ご期待に添えるほどの結果が出せるかどうかはわかりませんが……」

 非常に慎重な言い方でしたが、自信のない声ではありませんでした。そのくらい不安定な状況だけれど、全力で占いましょう、と言っているのです。

 フルートはうなずきました。

「かまいません。ぼくたちは、なんでもいいから手がかりがほしいんです。イベンセとセイロスが潜んでいる場所の手がかりが」

「なに。ユギルならばきっと見つけ出す」

 とオリバンがすかさず太鼓判を押しました。こちらも一番占者を信頼しきっている声です。

「承知いたしました。さっそく占いに取りかからせていただきます」

 と言って、銀髪の占者はまたうやうやしく頭を下げました──。

2021年8月6日
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