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第28巻「闇の竜の戦い」

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第12章 ロン将軍

36.終結

 三十分後、連合部隊とジオラ将軍の部隊の戦闘は完全に終結しました。

 ジオラ将軍はすでにオリバンに倒され、後がまを狙ったドルガも駆けつけたフルートたちによって倒されたのです。

 生き残ったジブやトアは命からがら逃げ出しました。後を追う連合部隊を振り切って退却していきます。

 敵の追跡をあきらめて立ち止まったオリバンに、ゼンやメールが話しかけました。

「連中はたぶん逃げられねえぜ。闇の森に魔法部隊が待ち構えてるからな」

「そうそう。あっちはあっちで残党の討伐中だからさ」

「では、本陣の制圧に成功したのだな」

 とオリバンは言って、顔の面おおいを引き上げました。汗にまみれた精悍な顔が現れます。

 フルートが地上に降り立って答えました。

「本陣を守っていた障壁を消したんです。本陣は制圧できたけど、闇王のイベンセは別の場所にいて、対決はできませんでした」

「でも、そこからポポロを捕まえようとしたから、危なかったんだけどね」

「ワン、イベンセは相手から力を奪って自分で使うことができるんです。ポポロの魔法まで使ってきたんですよ」

 と犬に戻ったルルとポチが話します。

 

 彼らの周囲に主だった者たちが集まり始めていました。セシル、トーマ王子とシン・ウェイ、ハロルド王子とナージャの女騎士たち──先ほど敵に重症を負わされたゴホルや長槍使いのエディス、サーク師団長などもすっかり元気になって駆けつけてきました。戦闘で負傷したものは多かったのですが、フルートが上空から金の石で戦場を照らしたので、光を浴びた全員が回復したのです。

「金の石の勇者ー、ありがとうー」

 大きなゴホルが身をかがめてフルートに感謝します。

 そこへワルラ将軍もガスト副官とジャックを従えてやってきました。勇者の一行へ一礼してからオリバンに言います。

「殿下、敵の追跡と討伐をご命令ください。闇の森に逃げ込まれると厄介です」

「よし、戦闘に加わらなかった元気な兵で追跡しろ。我々は被害の状況を確認してから後を追う」

 とオリバンは答えました。フルートの金の石で負傷兵は元気になりましたが、戦死者も出ていたのです。癒しの魔力を持つ金の石も、死んでしまった者を生き返らせることはできません。

「だが、ワルラ将軍は戦闘に加わって疲れておいでのはずだ。追跡に向かって大丈夫なのだろうか?」

 とセシルが心配すると、老将軍は、わっはっは、と豪快に笑いました。

「心配ご無用、妃殿下。この程度の戦闘で音(ね)を上げるほど老いぼれてはおりませんぞ」

 その後ろで、ガスト副官とジャックが心配顔で目を見交わしていました。いくら元気でも、ワルラ将軍はもう七十四歳です。できればこのあたりでひと休みしてほしいと考えたのです。

 そこへ後方からシオン大隊長がエスタ軍を率いて駆け上がってきました。やりとりが聞こえていたのでしょう。オリバンたちへ言います。

「逃亡した敵の追跡は、我々エスタ軍にお任せいただきましょう! 後ろにいて戦闘に間に合わなかったので、我が軍は元気ですからな!」

 と言うと、返事も待たずにそのまま駆けていきました。すれ違いざま、フルートたちにはちょっと手を振っていきます。

「シオンのおっさん、張り切ってんなぁ」

 とゼンが笑いました。エスタ軍の騎兵部隊がシオン大隊長と闇の森の方角へ走っていきます──。

 

 これですっかり戦闘が終わったので、一同はようやく、ほっとしました。

 味方が受けた被害の確認、休息の命令と食料の配布、付近の警らとやることはいろいろありますが、それらは部下たちに任せて、オリバンとセシルはフルートたちと話し出しました。ワルラ将軍たちや、トーマ王子やハロルド王子もそこに加わります。

 お互いの戦闘のあらましを語り終えると、オリバンが言いました。

「なるほど。では、闇の森の本陣には留守番部隊しか残っていなかったが、そのこと自体が闇王の策略だったかもしれないというのだな。おまえたちの戦う様子をじっと観察していて、ポポロが反撃できなくなる隙を狙って襲ってきたわけか」

「それにしても、ポポロの魔力や金の石の力まで吸い取るとは、今度の闇王は油断ならない相手だな」

 とセシルは考え込んでしまいます。

 フルートはうなずきました。

「たぶん、その能力があったから、イベンセは他の王位継承者を倒して闇王になれたんだろうな……。相手が強ければ強いほど、その力を自分のものにして使うことができるんだから」

「もう絶対にポポロを襲われないようにしなくちゃ」

 とルルが強く言います。

 

「それで、これからどうするんだ? 本陣はもう魔法部隊が制圧したんだろう? 全軍で闇の森へ進軍する意味はあるのか?」

 とトーマ王子が尋ねました。黒髪に薄水色の瞳、歳の割に大人びて見えるせいか、本人にはそのつもりがないのに、なんとなく不満を言っているように聞こえてしまいます。

 ハロルド王子が答えて言いました。

「敵はまだ大勢残っている。それが闇の森へ逃げて行ったのだから、徹底的に探し出して退治しなくてはならないだろう。我々が引き返してしまったら、エスタ軍や魔法部隊だけでは手が足りなくなるはずだ」

 ハロルド王子からたしなめられたような気がして、トーマ王子は少しむっとしました。

「全軍で戻ろうと言っているわけじゃない。ただ、全軍で長い間ハルマスの砦を留守にしていて大丈夫だろうか、と思っただけだ。せめて一部だけでも、砦に戻った方がいいんじゃないのか?」

 へぇ、と勇者の一行は感心しました。トーマ王子のほうが適切な判断に思えたのです。

 けれども、ハロルド王子は主張を繰り返しました。

「それはそうかもしれないが、我が軍は敵の軍勢を各地で撃破したのだろう? 少なくとも今は、敵に砦を襲うような余力はないはずだ。全軍で闇の森へ行って、徹底的に敵の本陣を抹消するべきだろう」

 隠そうとしてもにじみでてくるのは、手柄を立てようとはやる心でした。ハロルド王子が握っているのは、メイ軍を指揮するための赤い鞭です。

 

 ところが、そのやりとりを聞いて、急にフルートが考え込んでしまいました。何かを確かめるように口の中でつぶやき、やがてこんなことを尋ねてきます。

「オリバンたちがここで戦ったのはジオラ将軍の部隊だったよね? で、オリバンがジオラ将軍を倒した」

「その通りだ。だが、それがどうした?」

 とオリバンが聞き返します。

 フルートはそれには答えずに言い続けました。

「雷獣は闇の森の上でウードという将軍と戦って撃退した。天狗さんや青さんたちは、宙船から戻ってきたズァラン将軍と本陣の手前で戦ったけれど、ズァラン将軍たちはクンバカルナを見たら一目散に逃げてしまった」

「なんだ、そのクンバカなんとかってのは?」

 とジャックが尋ねますが、やっぱりフルートはやっぱり答えませんでした。さらに深く考えながら言います。

「これで敵の将軍は三人。だけど、将軍たちは四天王と呼ばれていたんだから、全部で四人いたはずだ──。もうひとりの将軍はどこだ?」

 そういえば、と一同は顔を見合わせました。

 メールとゼンが話し合います。

「あたいたちは将軍とは戦わなかったよね」

「ああ。俺たちが相手にしたのは怪物と雑魚兵とイベンセだけだ。ってぇことは……」

 すると、ポポロが息を呑みました。話を聞いてハルマスの砦のほうを透視したのです。

「ハルマスが襲われてるわ! ううん、戦っている様子は見えないんだけど、ハルマス自体が見えないの! 闇の力で隠されてるのよ!」

「四人目の将軍だ!!」

 とフルートは叫ぶと、変身したポチに飛び乗って舞い上がりました。ゼンはルルに、メールとポポロは花鳥に乗って後に続きます。

 が、すぐにメールが言いました。

「ポチ、ルル、どっちかポポロを乗せとくれよ! 星の花が少なくなって鳥が小さくなってるから、二人だと速く飛べないんだ!」

「こっちに来なさい、ポポロ!」

 とルルが引き返してきて、ゼンの後ろに彼女を乗せました。フルートとポチはハルマスめがけてまっしぐらに飛んでいたからです。彼らもすぐに後を追います。

 オリバンはワルラ将軍たちを振り向きました。

「敵にハルマスを渡すわけにはいかん! ハルマスに戻るぞ! だが、闇の森も放置はできん。そちらはハロルド王子とメイ軍に頼む! トーマ王子とザカラス軍は我々とハルマスだ!」

「わかった!」

 トーマ王子はザカラス軍へ出撃を命じるため、駆け戻っていきました。シン・ウェイがそれに従っていきます。

 さらに一部の部隊に戦闘の事後処理を任せて、オリバンたちは西へ、ハルマスの砦の方角へ駆け戻っていきました。ハロルド王子とメイ軍がそれを見送ります。

「敵の本陣を完全に制圧するのも大事な任務だ! 我々も行くぞ!」

 ハロルド王子が赤い鞭をさっと振り、メイ軍は闇の森へと移動を始めました──。

2021年7月22日
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