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第28巻「闇の竜の戦い」

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34.逆転

 妖怪軍団や魔法軍団が本陣の中央に到着したことで、戦況は一気に逆転していきました。

 空では雷獣や天狗たち空飛ぶ妖怪が敵を倒し、地上では魔法軍団と武僧軍団が魔法を繰り出します。

 闇王から力を与えられて勢いづいていた闇の兵たちでしたが、光の魔法には歯が立たなくて、ついに逃げだしました。妖怪や魔法使いが後を追います──。

 イベンセの手や新たな敵が現れないことを確認して、勇者の一行は地上に降りました。ポチが小犬に戻ったとたん、フルートはその場に座り込んでしまいます。

「大丈夫ですか、勇者殿!?」

 青の魔法使いが大司祭長と一緒に駆けつけてきました。

「だいぶ消耗しているようですね」

 と大司祭長がフルートに手をかざすと、フルートはすぐに元気を取り戻して立ち上がりました。大司祭長や青の魔法使いに頭を下げて感謝します。

「助かりました。金の石が敵に力を奪われて、充分に回復できなかったんです」

 すると、ルルが言いました。

「フルートは力を受け取りすぎて、まいっていたはずよ? 光の魔法をかけられたら、また受け取りすぎになるはずなのに、どうして元気になったのよ?」

「そっちはもう大丈夫だったんだ──イベンセに吸い取られたからな」

 とフルートが答えたので、仲間たちは驚きました。

「えっと……つまり、願い石から力を受け取りすぎて破裂寸前だったのを、イベンセが吸い取ったから、ちょうど良くなったって言うのかい?」

「ワン、ちょうど良かったわけじゃないですよ。力を吸いとられすぎて、フルートは動けなくなっちゃったんだから」

 けれども、フルートは言いました。

「金の石を通じてイベンセに力を吸い取られたせいで、体が楽になったのは本当だよ。だから、イベンセの能力をうまく利用すれば、願い石の力も今まで以上に使えるかもしれないんだ。これは考えてみてもいい作戦だな……」

 それを聞いて、仲間たちはまた仰天しました。

「馬鹿なことを言うな! このすっとこどっこいが!」

「そうさ! わざとイベンセに力を吸い取らせるっていうのかい!?」

「そんなことをして、フルートが力尽きたらどうするのよ!」

「ワン、イベンセに力を与えることになったらどうするつもりです!?」

 ポポロも真剣な顔で言いました。

「だめよ、願い石の力はフルートの中を焼きながら流れているんだもの! これ以上あんなことを続けたら、やっぱりフルートはぼろぼろになって死んでしまうわ……!」

 話しながら泣き出してしまいます。

 

 そんなやりとりに、青の魔法使いが言いました。

「我々は森の上に巨大な黒い顔が出現したのを見ました。それが現れたとたん、我々を追いかけていた敵は、将軍も部下も、あっという間に逃げ去ってしまったのです。敵にとってもよほど恐ろしい怪物だったようです。怪物がすぐに燃えていったので、勇者殿たちが倒されたのだと思っておりましたが、その後で皆様方は闇王とも戦っていたのですな。我々が到着するまで、よく持ちこたえられましたな」

「闇王はこちらの力を吸い取ることができるのですね? どのようにしてくるのです?」

 と大司祭長も尋ねてきます。

 そこで、一行はここまでの戦闘を二人に話して聞かせました──。

 話し終わった頃には天狗もやって来て、一同に報告しました。

「遁走した敵が姿を消したぞ。外から力が働いて、敵の兵士たちを別の場所へ転送させたようだ」

「どこへ行ったかつかめましたか? 方向だけでも」

 とフルートが尋ねると、天狗は首を振りました。

「だめだな。例のごとく、こちらの追跡を振り切っていった。まだこの森に潜んでいるのか、まったく別の場所へ移動したのか、それさえわからん」

 一同は思わず溜息をついてしまいました。

「あたいたち、敵の本陣を潰したはずなのに、なんだかあんまりすっきりしないね。負けなかったけどさ、勝ったような気もしないよ」

「ワン、闇王のイベンセがここにいなかったからですよ。たまたま本陣を留守にしていたのかと思ったけど、どうも、わざとだったように思えますよね」

「ポポロをさらうために?」

 とルルは言って周囲へ鋭く目配りしました。今もまだどこかでイベンセが狙っているような気がしたのです。

 フルートは考えながら言いました。

「本陣の規模といい、中心に巨大な障壁の発生装置があったことといい、ここが囮(おとり)だったわけではないと思う。でも、イベンセにはここ以外の場所にも砦があって、今もそっちへ自分の兵を引き上げた。そこには、もしかしたら、セイロスもいるのかもしれないな──」

「ったく、あの竜野郎め! 陰険だぞ!」

 とゼンがわめきます。

 

 そうする間にも、妖怪や魔法使い、武僧たちが彼らのところへ集まってきました。敵を追って森の中に散っていたのですが、敵が忽然と消えてしまったので、しかたなく戻ってきたのです。

 フルートは彼らを見回しました。

「皆さん、大丈夫でしたか? 怪我をしたり──亡くなったりした方はいませんか?」

 そんなふうに尋ねられて、一同は顔を見合わせました。彼らの大半はポポロが上空から繰り出した魔法で大怪我をして、戦線復帰するのに時間がかかったのです。けれども、それを教えれば勇者たちが心を痛めるとわかっていたので、彼らは何も言いませんでした。代わりに化け猫が答えます。

「大丈夫よぉ。あたしたちはこう見えて光の魔法使いにゃんだし、人間たちだってみんにゃけっこうな魔力の持ち主にゃんだもの。死ぬようなドジを踏んだ奴はいにゃいわよ」

 このとき化け猫はもう人間の姿に戻っていましたが、話すことばは相変わらずちょっと猫のようでした。

「本陣の中には敵の食料庫や武器庫もあったんだが、闇の国のものだからこちらが利用することはできない。浄化して消滅させるのがいいだろうな」

 とカラス天狗が言うと、大司祭長が賛成しました。

「闇の森から徹底的に闇の軍勢の気配を消してください。闇の森は元から闇の強い場所です。そこに闇の軍勢が陣を張ったことで、より闇の気配が強まってしまいました。闇は闇を呼び、再び闇の砦がここに築かれるかもしれません。闇の痕跡はできる限り消すべきでしょう」

「それは我々妖怪が引き受けた。おまえたちは他の人間の手助けに行け」

 と天狗が言ったので、フルートたちは本隊の存在を思い出しました。ロムド、メイ、ザカラス、エスタの四国による連合部隊が、オリバンを司令官にしてこちらに向かっていたのです。オリバンたちは無事だろうか、と急に心配になってきます。

 

 ところがそのとき、森の奥で騒ぎが起きました。逃げ去ったはずのジブが数人こちらへ走ってきたのです。その後を目のないトカゲのような怪物が追いかけてきて、長い舌でジブを捕らえて食ってしまいます。

「まだいたのか!」

「武器庫の檻を開けたな!」

 と妖怪たちは怪物へ走りました。遁走して身を潜めていたジブが、反撃しようと武器庫にいた怪物を解き放ったのですが、逆に怪物に襲われてしまったのです。ジブを全部食った怪物は、今度は妖怪たちに襲いかかります。

「危ない!」

 フルートたちが助けに飛び出そうとすると、大司祭長が遮りました。

「あれはミコンの武僧軍団が引き受けましょう」

「森の中にはまだ敵の残党も潜んでいるらしい。魔法軍団はそちらの発見にも当たります。勇者殿たちは殿下たちのところへ」

 と青の魔法使いも言います。

 武僧や魔法使いたちは、妖怪たちと一緒にトカゲの怪物に攻撃を始めていました。見上げるような怪物ですが、全員で取り囲んでいっせいに魔法を食らわせます。

 さ、早く、と青の魔法使いに促されて、勇者の一行はそれに従うことにしました。フルートはポチに、ゼンはルルに、メールとポポロは花鳥に、といつもの形になって空に舞い上がります。

「殿下たちを頼みますぞ──」

 青の魔法使いの声が追いかけてきて、遠ざかっていきました。

2021年7月15日
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