「あった! あれだぞ、きっと!」
本陣の中心目ざしていたゼンが、行く手を見て言いました。
仲間たちはそちらへ目をこらしましたが、生い茂る木々が邪魔をして見ることができませんでした。
「障壁を作る装置だね!? どんなのさ!?」
とメールに聞かれて、ゼンは答えました。
「複雑すぎて説明できねえよ! おまえらにもじきに見えるから、自分の目で確かめろ!」
言っているそばから、彼らは森の中の広場に出ました。広い範囲で森の木々が切り払われていたのです。無数の天幕が立ち並んでいましたが、そこから敵は現れませんでした。すでに出撃した後だったのです。
天幕の向こうにそびえる巨大な建造物に、勇者の一行は思わず停まってしまいました。小さな塔くらいの大きさがありますが、構造が非常に複雑で、どこがどこにつながっているのか、ちょっと見ただけではわかりません。
フルートは眉をひそめました。初めて見るはずのものなのに、前にどこかでこんなものを見たような気がしたのです。
すると、ポポロが言いました。
「運行局の装置にそっくりだわ……天空城の」
「そうね。運行局は天空の国を飛ばして結界で守ってる場所よ。こっちのほうが小さいけど、確かによく似てるわ」
とルルも言ったので、他の仲間たちもそれを思い出しました。天空の国の戦いのときに、彼らは天空城の運行局の前で戦ったのです。
はぁん、とゼンは腕組みしました。
「そういや、こんなだったか? 闇の民ってのは本当に天空の民と同じなんだな」
「あら、目ざす方向は真逆よ。光と闇だもの」
とルルが牙をむいて怒ります。
フルートは金の石の精霊に尋ねました。
「どうだろう? 破壊できそうかな?」
「あの装置は運行局と違って闇魔法で作られている。たぶんできるだろう」
と精霊の少年は答えました。その後ろで願い石の精霊もうなずいていたので、彼女も手伝うつもりでいるようでした。
それなら、と一行が装置へ向かおうとすると、急にゼンがルルの首元の毛を引っ張りました。キャン! とルルが悲鳴を上げて停まります。
「なにするのよ、いきなり! 痛いじゃない!」
ルルは怒りましたが、ゼンは何も言わずに行く手を見ていました。その左手が首筋の後ろをなでているのを見て、フルートは、はっとしました。
「気をつけろ! なにかが──」
とたんに行く手から黄色い煙が襲ってきました。よける間も与えず、一行を煙で包み込んでしまいます。
けれども、それより早く金の石が彼らを守りました。金の光の中に黄色い煙は入り込めません。
「毒だな。しかも相当強力だ。少しでも吸い込めば人間は即死するだろう」
と願い石の精霊が言いました。相変わらず声に感情がないので、冷ややかに聞こえる口調です。
「何がいるのさ!? 怪物かい!?」
とメールが尋ねました。
「だな。装置を囲んで守ってやがるぞ」
と言いながら、ゼンは弓に光の矢をつがえました。装置の手前の、何もないように見える地面へ放ちます。
すると、激しい土煙が上がって、地面から何かが飛び出してきました。ゼンが言う通り、長い体で塔のような装置を取り囲んでいます。
「大蛇だ!」
と叫んだ仲間たちに、ゼンが言いました。
「いいや、蛇じゃねえ。あれは長虫──大ミミズだ!」
言いながら立て続けにまた矢を放つと、怪物が頭を上げて黄色い息を吐きました。それは確かに巨大なミミズでした。毒を浴びた光の矢がぼろぼろになって落ちていきます。
「闇の毒か」
とフルートは言いました。今の状態なら毒を食らう心配はありませんが、一歩金の光の外へ出れば、漂う毒を吸ってたちまち死んでしまいます。金の石を持っているフルートは大丈夫でも、仲間たちは下手な動きができません。
すると、背後が急に騒がしくなりました。闇の兵士たちがまた現れたのです。
ところが、装置の周りを大ミミズが取り囲んでいるのを見ると、彼らはその場で立ち止まりました。遠巻きにしたまま、やれやれ! そいつらを倒せ! と大ミミズをはやし立てるだけです。
「ワン、あいつらも近づこうとしませんよ。大ミミズの毒が怖いんだ」
とポチが言います。
フルートは考え続けました。
仲間たちをここに残して自分だけ大ミミズへ突進することはできません。そんなことをすれば仲間たちはたちまち毒の息でやられてしまいます。
かといって、仲間たちを遠くへ避難させるというのも、敵が続々集まってくるこの状況では心配です。
では全員で大ミミズへ向かえば良いかと言えば、それも難しい行動でした。どんなに寄り集まって一緒に動こうとしても、敵の攻撃をかわしているうちに、離ればなれになるに違いありません。離れてしまえば、仲間たちは毒の息を食らってしまいます。
フルートが思い悩んでいるのを見て、ポポロは身を乗り出しました。あたしが魔法で……と言おうとしたのですが、それより早くメールが言いました。
「なに悩んでんのさ、フルート。簡単な方法があるじゃないか」
えっ? と驚いて振り向いたフルートに、メールは自信たっぷりに片目をつぶってみせました。
「みんなでこの花鳥に乗るのさ。そうすりゃ全員が金の石に守られるから、毒の息も平気だろ?」
「だが、花鳥は小さくなってるじゃねえか。全員乗って飛べるのかよ?」
とゼンが心配すると、ポチが言いました。
「ワン、それならぼくとルルが下から花鳥を支えますよ」
「そうね。それならみんなが乗っても大丈夫だわ」
とルルも言います。
それならば、とフルートとゼンはさっそく花鳥の上に乗り移りました。ポチとルルは花鳥の下に回って、風の体の上に花鳥を乗せます。
「よし、あの大ミミズを倒す! そして装置を壊すぞ!」
フルートの声に全員はまた突進を始めました──。