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第28巻「闇の竜の戦い」

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第8章 ジオラ将軍

24.ジオラ将軍

 ジオラ将軍の手を切り落として六本腕から二本腕にしたオリバンは、将軍めがけて駆け出しました。左手で馬の手綱を操りながら、聖なる剣を構えます。

 将軍は宙に飛んでオリバンをかわすと、頭上から切りつけてきました。大剣でオリバンを兜ごと真っ二つにしようとします。

 オリバンは手綱を放して両手で剣を握りました。将軍の一撃を渾身の力で受け止めます。

 攻撃を跳ね返されて、将軍は少し驚きました。

「人間風情がやるな」

「当然だ。貴様こそ人間を甘く見ると後悔するぞ」

 とオリバンが言ったところへ、背後から矢が飛んできました。弓部隊が援護射撃してきたのです。例のユラサイの呪符を巻いた矢が、将軍めがけて次々飛んできます。

「ガーゴイルはどうした!?」

 と将軍はどなり、怪物たちが縄や網で地上に引きずり下ろされているのを見て、また驚きました。矢も剣も跳ね返す石の体の怪物たちですが、石の彫刻と同様、衝撃にはもろい弱点があります。大勢の兵士に押さえ込まれ、木や鋼の大槌(おおつち)でたたかれて、翼も体も砕けていきます。

 呪符の矢に撃ち落とされたトアやドルガ、地上でヨロイサイに踏まれたジブも、同じように捕まって、こちらは首を切られていました。そのままでは復活してしまうので、さらに油をかけられ火を放たれます。

「よくも……!」

 とジオラ将軍は歯ぎしりしました。ここにいる人間は闇の敵と戦いなれているのだ、と認めざるを得ません。

 

「どうした! 我々が怖くて空に逃げているか!?」

 オリバンが空中のジオラ将軍へ言ったので、将軍はまた歯ぎしりしました。

「人間ごときが寝ぼけたことを言うな!」

 あくまでも人間を見下しながら、下に向けて闇の魔法を放ちます。

 どん、と激しい音がして地面が揺れ、地割れが生まれました。たちまち広がって、戦っているの兵士たちを敵も味方も呑み込んでいきます。

「オリバン、危ない!」

 地割れが彼に迫っていくのを見て、セシルが叫びました。駆けつけようとしますが、管狐が立ちふさがって、彼女を地割れから遠ざけます。

 オリバンは馬を駆って逃げようとしましたが、地割れは後を追ってきました。広がって、近くにいたヨロイサイを乗り手ごと呑み込みますが、それでも地割れは止まりません。オリバンの馬のすぐ後ろまで迫ります。

 すると、後方から一頭の馬が駆け上がってきました。白い布をマフラーのように口元に巻いた青年が、馬の上から手を突きつけて唱えます。

 すると、手元から何かが飛び出して地割れに飛びました。次の瞬間には、凍りついたように地割れが止まって動かなくなります。

「よぉし、うまくいった!」

 と術師のシン・ウェイは言いました。トーマ王子の命令を受けて、後方から駆けつけてきたのです。続いてトーマ王子自身もザカラス軍と駆け上がってきました。ロムド正規軍が闇の軍勢と戦っているのを見て、トーマ王子が命じます。

「ロムド軍を支援しろ! 敵を排除するんだ!」

 おおおお!!

 黒い鎧兜の騎士たちが雄叫びを上げながら敵陣になだれ込んでいきました。たちまち激しい戦闘が始まります。

 一方、同盟軍の後方からは別の部隊も駆けつけていました。ハロルド王子に率いられたナージャの女騎士団とメイ軍の騎士たちです。ハロルド王子が敵陣を赤い鞭で指して言います。

「敵の右翼へ攻撃! 敵を分散させるんだ!」

「了解!!」

 メイ軍の騎士たちも闇の軍勢に向かっていきます。

 

 駆けつけてきた援軍に、オリバンの口元から笑みがこぼれました。シン・ウェイが術で足元の大地を固めてくれたので、すぐに馬の向きを変えてジオラ将軍に向かいます。

 すると、行く手をふさぐようにドルガが突進してきました。四本の腕の武器でオリバンに切りつけようとします。

 それを受け止めて防いだのは、ワルラ将軍とガスト副官でした。二人がかりでドルガの攻撃を止めて、オリバンを守ります。

 そこへジブたちが駆けつけてきました。ドルガと切り結んで動けなくなっているワルラ将軍と副官に襲いかかろうとします。

「させねえぞ!」

 ジャックが駆けつけてきて、馬でジブたちを蹴散らしました。それでもワルラ将軍に攻撃しようとしたジブは、後ろから切り捨てます。

「よくやった、ジャック!」

 とガスト副官は褒めて、急に切り結んでいた剣を引きました。ドルガが思わずバランスを崩すと、すかさずワルラ将軍が剣を敵に突き刺し、さらに返す刀で首を切り落とします。部下と上官の連係攻撃に、ドルガの巨体が倒れて動かなくなります──。

 

 その間にオリバンはジオラ将軍へ突進を続けました。将軍はまだ空中にいて、闇魔法で攻撃してきましたが、オリバンが聖なる剣を振ると、リーン、と音を立てて魔法が消滅しました。将軍が闇の魔物を呼び出して襲いかからせようとすると、大狐が飛び込んできて蹴散らしてしまいます。

「さあ来い! 勝負だ!」

 とオリバンが将軍の足元まで来て言いました。それと同時に何かが将軍へ飛んできます。それはシン・ウェイが放った呪符でした。投げ矢のように将軍の翼を突き破ります。

 将軍は空から地面へ墜落しました。切り落とされた手と同じように、翼の傷も自力で治すことができません。

 将軍は歯ぎしりしながら立ち上がりました。そうやって向き合うと、将軍は見上げるように巨大です。大剣を振り上げ、馬に乗ったオリバンよりずっと高い位置から振り下ろします。

 オリバンは剣を受け止め、跳ね返して切りつけました。聖なる剣が将軍の鎧をかすめて胸当てに傷をつけます。

 将軍は顔を歪め、また切りかかってきました。オリバンが受け止めようとすると、思いがけない方向から攻撃が来ます。将軍が手のない腕で殴りかかってきたのです。オリバンが馬から転げ落ちてしまいます。

「オリバン!」

「殿下!!」

 セシルやワルラ将軍たちは駆けつけようとしました。

「やばい!」

 シン・ウェイもとっさに呪符を出して唱えようとします。

 すると、ジオラ将軍はオリバンではなく、シン・ウェイのほうをにらみつけました。とたんに攻撃が飛んできて、呪符を持つ青年の腕を貫きます。

 シン・ウェイは悲鳴を上げて腕を押さえました。手から呪符がはらりと落ちます。

「生意気な魔法使いが! 貴様から死ね!」

 ジオラ将軍がシン・ウェイをまた攻撃しようとします──。

 

 そのとき、トーマ王子が馬から飛び降りました。シン・ウェイに駆け寄り、足元に落ちた呪符に飛びつきます。

「馬鹿、逃げ──」

 逃げろ、と青年が言うより早く、王子は呪符を拾い上げました。そこに書かれた呪文を読み上げると、ジオラ将軍へ投げつけます。

 呪符は投げ矢になって敵へ飛びました。魔法を繰り出そうとしていたジオラ将軍の手に命中して突き抜けます。

 今度はジオラ将軍が悲鳴を上げる番でした。手を抱いて思わず身をかがめたところへ、馬の背に戻ったオリバンが切りつけます。

 リーン

 涼やかな音と共に将軍の腕がまた一本消えていきました。投げ矢で傷を負った手です。

 将軍は痛みを魔法で止めると、顔を真っ赤にして身を起こしました。一本だけになった腕に大剣を握って振り回します。

「許さん、許さん! 人間風情にわしが劣るなど、断じてありえん──!!」

 将軍の大剣とオリバンの剣が切り結び始めました。ガン、ガン、ガシン、ガン! 重い音が戦場に響きます。

 トーマ王子はシン・ウェイに駆け寄りました。

「大丈夫か、シン!?」

「ああ。ちゃんと手は動く。大事な筋は切れなかったようだ」

 と青年は答えて、どこからか取り出した布で傷を押さえました。ユラサイの術で闇の攻撃の傷は消せないので、痛みも続いているようでしたが、顔をしかめながら話し続けます。

「まったく。覚えが早い王子だと思っていたが、もうあの呪符が読めるようになってたとはな。あの場面でとっさにやるじゃないか」

 王子は顔を赤らめると、すぐに口を尖らせて答えました。

「あそこでやらなかったらシンが死んでいたじゃないか。正直、ちょっと怪しい字はあったんだ。ちゃんと読めて良かった」

 シン・ウェイはひゅう、と苦笑いすると、ぽんぽん、と何度も王子の頭をたたきました。それが彼の「ありがとう」でした。王子のほうも、家臣の無礼を怒るどころか、逆にちょっと得意そうな顔になります。

 彼らから少し離れた場所では、オリバンとジオラ将軍が一騎討ちを続けていました。一本腕になっても将軍の攻撃は強力です。激しい剣の応酬に、敵も味方も手出しがまったくできません。

 その周囲では同盟軍と闇の軍勢の戦闘も続いていました。人間と闇の民、双方の兵士が入り乱れて戦っています。

 闇の森から西に離れた戦場で、光と闇の軍勢の戦いはまだ決着がつきそうにありませんでした──。

2021年6月17日
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