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第28巻「闇の竜の戦い」

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23.開戦

 闇の森目ざして移動していたオリバンたちが、行く手に爆発を見たのは、ジオラ将軍の部隊と激突する直前のことでした。

 荒れ地の向こうには闇の軍勢が押し寄せていましたが、彼らも驚いたように後ろを振り向いています。

「あの光は!?」

 と言ったセシルに、オリバンが即座に答えました。

「むろんフルートたちと魔法部隊だ! 敵の本陣を見つけたな!」

 すると、行く手の空の高い場所から地上へ降ってくる光が見えました。金色にきらめきながら、まっすぐ地上に落ちていきます。

「あそこだ!!」

 とワルラ将軍とガスト副官が叫び、いよっほぉ! とジャックは歓声を上げました。フルートたちが敵の本陣めがけて降りていったのだと気づいたのです。

 

 ところが、敵の軍勢は退却していきませんでした。本陣の方角の爆発に動揺はしましたが、すぐに隊列を整え直してまた迫ってきます。

「どうやらこのまま戦うつもりらしいですな」

 とワルラ将軍が言ったので、オリバンも敵を見据えました。

「上等だ。ここで敵を減らせば、本陣での戦闘が楽になるからな──。全軍戦闘準備! 開戦するぞ!」

「弓矢部隊、一の矢を構えて前へ! 騎馬隊は突撃準備!」

 ワルラ将軍が最前線にいるロムド正規軍へ命じました。たちまち弓兵が左右に走り出て弓を構え、重装備の騎馬隊は弓矢部隊の間で横に展開します。伝令兵はオリバンの命令を伝えるために、部隊の後ろへ駆けていきます──。

 オリバンは騎馬隊の先頭に立って言いました。

「いよいよだ! だが、この戦闘が最終目的ではない! ここで敵を破って闇の森へ行き、敵の本陣を壊滅させるのだ! そのためにも極力命を大事にして戦え! いいな!?」

「フルートは本陣のほうだから、やられてもここでは治してもらえねえもんな……」

 とジャックがひとりごとを言いました。以前ワルラ将軍やガスト副官が重傷を負ったときに、フルートの助けを呼びに行ったことを思い出していたのです。今度は将軍たちに怪我なんてさせねえぞ、と心に誓って剣を握りしめます。

 オリバンたちの様子を見て、敵の軍勢も戦闘態勢に入りました。前面の兵士たちが武器を構え、翼があるトアやドルガがいっせいに空へ飛び立ちます。

「開戦!」

 とオリバンが言い、ワルラ将軍がさっと手を振ると、弓矢部隊が矢を放ちました。空の敵に向かって矢が飛んでいきます。

 オリバンは先陣を切って駆け出しました。

「突撃! 敵を蹴散らせ!」

 おぉぉぉ!!!

 鬨の声と蹄の音を響かせて、騎馬隊がいっせいに駆け出しました。先頭を走るオリバンに、セシルとワルラ将軍、ガスト副官とジャックが続き、その後ろに騎馬隊が続きます──。

 

 

 「行け! 敵は空が飛べんぞ! 上空からたたきのめせ!」

 ジオラ将軍に命令されて、闇の軍勢からトアとドルガが舞い上がりました。命令通り敵の頭上へ向かいます。

 将軍はそれを見送ってから、ちらりと背後を振り向きました。闇の森で何度か爆発が起きたし、空から本陣のあたりに金の光が落ちるのも見えたので、敵に襲われているのだろうと予想はしていました。それでも将軍は本陣に引き返さなかったのです。

「本陣を守るのは他の連中の役目だ。わしはこいつらをたたきのめす」

 と将軍はまた前方の大軍をにらみつけました。突進してくる騎馬隊の先頭には、いぶし銀の防具の男がいます。金の石の勇者ではありませんが、ただ者ではない迫力です。

 あの男を倒せば敵に大きな打撃を与えられる、と将軍は直感していました。目の前の大軍は、どう見ても敵の本隊です。金の石の勇者もここにいるはずだから、あの男を倒せば出てくるだろう、とも考えます。──どの将軍も、まさか大将のフルートが単独に近い状態で本陣に飛び込んでいるとは、想像できなかったのです。

「たたけ! 殺せ! 連中は人間だ! 人間にわしらを殺すことはできんぞ!」

 と将軍は部下たちを奮い立たせ、飛竜に乗った魔法使いたちが現れないのを見て、とっておきの部隊を繰り出すことにしました。

「こちらも突撃だ! ヨロイサイ部隊、出ろ!」

 敵の騎馬隊に重騎兵隊をぶつけて、早々に決着をつけようとしたのです。重騎兵が乗っているのは馬ではなく、全身鎧のような皮膚におおわれたサイの怪物でした。重い足音を大地に響かせながら突進を始めます──。

 

 ところが、先陣を切って空を飛んでいたトアやドルガたちが、急にばたばたと空から落ち始めました。敵の矢が当たったのです。

 馬鹿な!? とジオラ将軍は驚きました。飛んでくる矢から魔法の気配はしていません。普通の矢で闇の民を傷つけることはできないはずなのに、部下たちはダメージを食らって墜落していきます。

 すると、ひとりのドルガがこちらに逃げてきて、将軍の目の前で墜落しました。鎧の隙間に矢が突き立っています。矢羽根の根元には、模様のような黒い文字を書いた紙が巻き付けてありました。

「またあの中庸の術か!」

 ジオラ将軍は歯ぎしりして怒ると、すぐに空中へ呼びかけました。

「来い、石の翼ども!」

 呼びかけに応えてたくさんの怪物が現れました。石像に変身できるガーゴイルでした。

 ガーゴイルたちは翼を広げ、敵の矢めがけて飛んでいきました。空中で矢に追いつくと、つかんでいきなりかみ砕きます。ガーゴイルに命中する矢もありますが、ガーゴイルは石の体になっていたので、矢をはじき返してしまいます。

 ふん、と将軍は鼻を鳴らしました。

「やはりな。あの魔法は闇魔法で防げなくても、物理攻撃には弱い」

 ガーゴイルが矢を防ぎ始めたので、無事だったトアやドルガはまた敵へ向かっていきました。魔法や武器の攻撃を繰り出すと、敵陣で爆発が起き、何人もの兵士が倒れます。

 一方、敵の騎馬隊はヨロイサイの重騎兵隊と激突しようとしていました。敵は鎧兜で身を固め槍を構えて突進してきますが、ヨロイサイに乗った闇の兵士に比べると、ひどく小さく弱々しく見えました。ぶつかれば、馬も人もあっという間にヨロイサイに粉砕されそうです。それなのに、彼らは突撃をやめません。

「この勝負もらった!」

 とジオラ将軍は宣言しました。ヨロイサイの脚の下で悲鳴と血しぶきが上がる瞬間を待ち構えます。

 

 ところが、両軍の間にいきなり巨大な狐が姿を現しました。灰色の体をひるがえしてヨロイサイの目の前に立ちふさがり、ガゥッと牙をむきます。

 突然のことに重騎兵隊はあわてて手綱を引きました。ヨロイサイは必死で足踏みをして、どうにか大狐の直前で停止します。

 すると、狐はサイの背中の兵士に食いつきました。空中で振り回して地面にたたきつけてしまいます。

「何をしている! 踏み潰せ!」

 と将軍がどなっているところへ、敵の騎馬隊が殺到してきました。いつのまにか、先頭がいぶし銀の防具の男から白い防具の戦士に入れ替わっています。

「間違うな! おまえたちの敵は後ろだ! 敵はそちらだぞ!」

 と白い防具の戦士が叫びました。女性の声です。

 すると、ヨロイサイが急にくるりと後ろを向きました。背中の兵士がいくら手綱を引き、蹴ってどなりつけても駄目でした。頑丈な脚で地面を二度三度と蹴ると、角が生えた頭を下げて味方の軍勢へ突進を始めます。

「戻れ! 止まれ! 敵に操られているな、馬鹿者!!」

 将軍は声をからしてどなりましたが、ヨロイサイを止めることはできませんでした。鋼鉄の塊のような怪物が雪崩を打って自陣に飛び込み、味方を踏み潰していきます。

 そこへ敵の騎馬隊も到達しました。ヨロイサイをかわそうと散り散りになった軍勢に飛び込み、蹴散らしていきます。

 

「おのれ!」

 反撃しようとしたジオラ将軍のすぐそばで、リーン、と鈴を振るような音が響きました。将軍が、はっと身をかわしたとたん、彼を乗せていた八本脚の馬が、どうと倒れます。

 馬の背から投げ出される直前、翼で宙に飛んだ将軍は、あのいぶし銀の防具の男が目の前にいるのを見ました。軍馬にまたがって銀色の剣を握っています。

「わしの馬に手をかけたな! 無礼な人間め!」

 と将軍は二本の腕で大剣を振りかざしました。同時に他の四本の腕でも攻撃を繰り出します。右の二本の腕で槍と剣を、左の二本の腕で矛(ほこ)と短剣を、男の体に突き立てようとします。

 ところが、武器はすべて寸前で受け止められてしまいました。大剣は男が受け止めたのですが、剣と槍は白い防具の女騎士と大狐が、矛と短剣は濃紺の防具の老戦士とその副官らしい男が食い止めていました。狐が槍を奪い取ってかみ砕き、老戦士は矛の柄を切り落とします。

「貴様ら……!」

 将軍は大勢の敵を押し切ろうとしましたが、逆に押し返されてしまいました。いぶし銀の男が剣を構え直して言います。

「六本腕と二本の腕では不公平だ。公平になってもらおう」

 銀の剣がリリーンと音を立ててひらめき、将軍の手が切り落とされました。左右二つずつ、四つの手が手首から消滅してしまいます。将軍がいくら魔力を込めても、手は元に戻りません。

「それは聖なる武器か! 貴様よくも!」

 ジオラ将軍は飛び退いて歯ぎしりしました。二本だけ残った腕で大剣を構え直します。

「これで私と同じ腕の数になったな。さあ、勝負だ」

 といぶし銀の男は言って、将軍めがけて駆け出しました──。

2021年6月11日
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