一方、逃げて行く宙船を追っていたズァラン将軍の部隊も、闇の森で起きた爆発に気がつきました。彼らは空を飛んでいたので、森に緑の光のマス目が走り、自分たちの本陣があぶり出されているのを見て驚愕します。
「敵襲だ!」
「我らの本陣が見つかったぞ!」
緊急事態にただちに追跡を中止して引き返そうとすると、宙船が急に向きを変えてきました。それまでふらふらと不安定に飛んでいた船が、急に生き返ったように反転したのです。障壁の一部がまた消えて、巨大な筒が魔法の弾を撃ち出します。
「散れ! 散れ!!」
怒声や悲鳴が響く集団に魔大砲が命中しました。破裂した光の魔法が、闇の兵士を吹き飛ばして消滅させます──。
「やっだ! 敵を吹っ飛ばしたぞ!」
「んまいタイミングだっだな、河童!」
宙船の上で、二人の妖怪が船を操りながら河童に話しかけていました。帆を操っているのは大男のひとつ目入道、舵を握っているのはアンモケッケという全身毛むくじゃらの妖怪です。
魔大砲を発射させた河童は、褒められて照れたように頭の皿をなでました。
「いんや。ここさ来るまでの間に、みんなが船さたんと魔法を蓄えといてくっちゃおかげだで。んまいごど命中させらっち、えがったな」
河童のことばは普段以上に訛(なま)っていました。一緒に船に乗っていたのが同郷の妖怪たちだったからです。
ひとつ目入道がにたにた笑いながら言いました。
「ガキん頃はほんに言うこど聞がねえ童(わらし)だったげんぢょ、今じゃ立派な魔法使いだな。そろそろヒムカシに戻ってきたらどうなんだ?」
「んだ。おめのおどもおっかも、おめが帰って来んのを待ってんだぞ」
とアンモケッケも言いました。おど、というのは彼らの故郷のことばでお父さんのこと、おっかはお母さんのことです。
照れたように笑っていた河童は笑いを引っ込め、神妙な顔で首を振りました。
「今は帰らんに……。おらぁ今はロムドのお城の兵隊だ。王様やロムドのために戦ってっがら、それをほっぽらかして帰るわけにはいがねんだ」
「河童が誰かのために戦ってるがぁ。わがまま放題で手がつけらんにがった悪河童(わるがっぱ)がなぁ」
「しがも人間に仕えてるとはなぁ。変われば変わるもんだで」
子どもの頃をよく知っている仲間の前では、河童もさんざんです。
河童が青緑色の顔を赤らめてしどろもどろになったので、仲間の二人は笑い出しました。
「ええがら、おめの好ぎなようにしろで。おめのおどだちには、おめが頑張ってるって伝えどいでやっがら」
「だがら、この戦いがおわっで落ち着いだら、親孝行に、おどだちに顔見せに帰ってこいで」
仲間の温かいことばに、河童は赤い顔のままうなずきます──。
彼らを乗せた宙船は、また向きを変えると、ハルマスの砦へ戻り始めました。魔大砲の魔法エネルギーは撃ち尽くしてしまったし、船も一部が壊れたので、これ以上参戦することができなかったのです。
「敵を全部吹っ飛ばすのは無理だっだな」
とひとつ目入道が退却する敵を見て言いました。
「しょうがねえ。後は天狗や金の石の勇者だぢさ任せるべ」
とアンモケッケも残念そうに言います。
河童も船べりに立って闇の森の方角を眺めました。戦況が気になりますが、距離がありすぎて、河童の能力では様子を知ることができません。
すると、空の上から雲を抜けて落ちてきたものがありました。昇る朝日に金色にきらめいています。
「勇者殿だぢだ!」
と河童は叫んで目をこらしました。二匹の風の犬と大きな鳥が、背中に乗せた勇者たちと共に森へ落ちていくのが見えた気がします。
金の光はたちまち地上に消えました。闇の森に突入したのです。やがて遠くに稲妻がひらめき、雷鳴も聞こえてきます。
「ありゃぁ雷獣だ」
「んだ。雷獣が戦っでんな」
とひとつ目入道とアンモケッケが言いました。
「みんな、がんばってくなんしょ」
河童は遠くから声援を送ることしかできません。
祈るような想いで森を見送りながら、宙船はハルマスへと戻って行きました──。