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第28巻「闇の竜の戦い」

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21.雷獣

 闇の森の中を移動していたウード将軍の地上部隊は、背後で突然爆発が起きたので、驚いて立ち止まりました。見ると、彼らが出てきた本陣の方向で、二度三度とまぶしい光がひらめいています。

「なんだ、あれは!? 敵の船の攻撃か!?」

 と尋ねる将軍に目の良い部下が答えました。

「森の上に船はいません、将軍!」

「得体の知れない魔法が森の中を飛んでいきます!」

 と別の部下も言います。

 しまった! とウード将軍は考えました。敵の接近に誘い出された隙に、潜んでいた別の敵に本陣を攻撃されたと思ったのです。

「攻撃はどこから来た!? 敵はどこだ!?」

 ところが、部下たちはすぐには答えられませんでした。森を横切る魔法の数が多かった上に、非常に長い距離を飛んでいくので、出どころが見極められなかったのです。

 そうこうする間に頭上から風に似た音が聞こえてきました。天狗がホラ貝を吹き鳴らしたのです。

「敵は上か!」

 ウード将軍は即座に翼を広げました。舞い上がりながら部下たちにどなります。

「ドルガとトアはわしに続け! ジブは本陣に戻って敵を防ぐのだ!」

 本陣を敵に落とされれば、彼らは拠点を失ってしまいます。翼を持つ闇の兵たちが、羽音をたてて空へ飛び上がっていきます──。

 

 

 「来たぞ! 闇の軍勢だ!」

 本陣目ざして空を飛んでいた妖怪たちが、追っ手に気づいて声を上げました。

 翼がある闇の兵士が森の中から飛び立ってきたのです。

 空の上には身を隠すところがありません。魔法部隊はたちまち見つかってしまいます。

「この場は私が防ぎましょう」

「私も手伝いますぞ」

 と大司祭長と青の魔法使いが後に残ろうとすると、天狗が言いました。

「空の敵なら、おまえたちより適任者がいる。任せろ」

 そのことばに合わせるように集団から出てきたのは雷獣でした。巨大なイタチのような妖怪は、金の毛並みから稲妻の火花を散らしながら、笑って言いました。

「そういうことだ。おまえらはさっさと本陣に行って、勇者たちと合流しろ。俺はこいつらを片付けたら追いかける」

「任せたぞ」

 と天狗は言うと、大司祭長と青の魔法使いを連れてまた先へ飛び始めました。他の妖怪たちも後に続きます。

 

「逃がすな!」

「落とせ!」

「ひとり残らず殺せ!」

 敵がわめきながら近づいてきました。先頭にいるのは四本腕のドルガが二十人ほど、その後ろに百人近いトアが続いています。ドルガの集団の中には六本腕の将軍の姿もありました。ウード将軍です。

「大勢で来たな。だが、ここから先は行かせんぞ」

 と雷獣は言って、毛並みの火花を大きくしました。二本の尻尾を大きく振ると、みるみる尻尾が太くなって火花が大きくなっていきます。

 すると、敵のドルガがいっせいに攻撃を繰り出してきました。黒い闇の光が何十本もの矢になって、魔法部隊を追いかけます。

「行かせんと言ってる!」

 雷獣は牙をむいて笑うような顔をすると、バリバリバリッと稲妻を放ちました。四方八方に金の稲妻が広がって闇の矢を直撃します。矢は稲妻の中で崩れて黒い霧になりました。すぐにそれも消滅していきます。

「貴様! そんななりをしているが光の魔法使いか!?」

 とウード将軍に言われて、雷獣はまた、にやりとしました。

「おうとも。ヒムカシに棲む妖怪は、姿は闇の怪物のようでも、中身は光の魔法戦士だ。ただの使い魔だと思っていると痛い目に遭うぞ」

 また稲妻が広がり、空中であり得ない方向へ曲がりました。すべての稲妻が敵のほうへ飛び始めます。

 ドルガもトアもとっさに障壁を張って身を守りましたが、稲妻はそれを簡単に砕いてしまいました。まともに稲妻を食らった敵が、次々空から落ちていきます。

 ところが、雷獣の稲妻もウード将軍の障壁を破ることはできませんでした。その周囲や後方にいたドルガやトアも稲妻から守られています。

「食らえ、怪物!」

 ウード将軍が六本の腕から繰り出した魔法を、雷獣はひらりひらりとかわしました。こちらは脚が六本あるので、どの方向から攻撃が飛んできても、すぐに方向転換できるのです。

 金の火花を散らしながら、雷獣はまた牙をむきました。

「怪物はどちらだ! 闇に身も心も醜く変えられた連中が! 俺たちは姿は醜く変わっても、心はずっと光と共にあるぞ!」

 雷獣は駆け出し、飛び上がって将軍に襲いかかりました。将軍が反撃しますが、ひらりとかわして前足で障壁を殴ります。

 ザキッ!

 鋭い爪が厚い障壁を切り裂きました。

 将軍はとっさに障壁を重ねようとしましたが、雷獣は裂け目から頭を突っ込んで将軍の肩に食いつきました。それと同時に特大の稲妻を放電します。将軍の周りの部下たちが、また稲妻を食らって、ぼとぼと地上へ落ちていきます。

 けれども、将軍はそれでもまだ無事でした。雷獣の頭を殴りつけて吹き飛ばすと、怒りに顔を歪めてわめきます。

「よくもわしに傷をつけたな! 食らえ!」

 巨大な闇魔法が雷獣へ飛びました。雷獣は身をかわそうとしましたが、かわしきれなくて巻き込まれました。ギャン、と犬のような声を上げて吹き飛んでしまいます。

 

 空中にぼろきれのように倒れた雷獣を、ウード将軍はにらみつけました。雷獣が立ち上がってこなかったので、肩の傷を自力で癒やして部下たちを振り向きます。先ほどまで百二十人もいた部下が、今は半分に減ってしまっています。

 将軍はいまいましく舌打ちして言いました。

「前進だ! 敵から本陣を守るぞ!」

 部下たちが承知して前進を再開しようとします。

 すると、その目の前にまた稲妻がひらめきました。ぎょっと停止した軍勢の前で、雷獣が立ち上がります。

「貴様、まだ立てるか」

 と将軍が言うと、雷獣は答えました。

「もちろん。まだ戦えるぞ」

 ぶるっと大きく身震いすると、火花が散って、ぼろぼろだった毛並みが元に戻りました。二本の尻尾が金色に輝いてふさふさと揺れます。

「往生際が悪いぞ!」

 と言ったウード将軍に、雷獣はまたにやりと笑いました。

「貴様こそ、妖怪の力を見くびっているぞ。我らはエルフの末裔だ」

「くだらん! エルフなど、カビが生えた大昔の伝説だ!」

 将軍と雷獣が突進して、空中でまともにぶつかり合いました。将軍はいつの間にか握っていた槍で雷獣を突き刺し、雷獣は将軍の腕に食いつきます。それを見たトアやドルガが、雷獣に群がって集中攻撃を始めます。

 雷獣はまた周囲に稲妻を放ちました。電撃を食らったトアたちが黒焦げになって地上へ落ちます。

 怒声と咆吼(ほうこう)、ひらめく稲妻と闇魔法。

 闇の森の上空でウード将軍の部隊と雷獣は戦い続けました──。

2021年6月13日
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