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第28巻「闇の竜の戦い」

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第7章 開戦

20.強力

 夜明けの空から雲を突き抜けて緑の光が落ちてきたので、森のはずれで待っていた青の魔法使いは仰天しました。

「あれはポポロ様の魔法ですか……!? いやはや、でかい!」

 光の球は、そのまま闇の森を直撃して破壊するのではないかと思うほど巨大だったのです。熱も放っているのか、周囲の雲が蒸発して消えていきます。

 すると、光の球はいきなり無数の小さな光に分裂しました。北と西の二つの方向へ流れ落ちていきます。

 明るい流れ星を眺めるようにそれを見上げながら、青の魔法使いは舌を巻いていました。無数の光のひとつひとつは聖なる光の魔法です。それがきっちり七十個、森の北や西で貝を構えて待つ魔法部隊へ飛んでいくのです。なんというコントロール力だ、と感心してしまいます。

 青の魔法使いの耳に、配置についている部下たちから次々報告が聞こえてきました。

「隊長、光の魔法がこちらに向かってきます!」

「私のほうにも飛んで来ています!」

「俺にも向かってきます!」

「全員、貝を構えろ! ポポロ様の魔法を受け止めて対の貝へ送るんだ!」

 と青の魔法使いは命じると、握っていた杖を振り上げました。自分の魔法を杖の先端に集めていきます。

 すると、木々を挟んだ左側からも魔法が湧き上がる気配が伝わってきました。輝くような白い魔法と感じられます。ミコンの大司祭長が光の魔法を使い始めたのです。

 緑の流れ星が森の彼方に落ちて消えていきました。一瞬の間を置いて、どん、どん、と何かが発射される気配が伝わってきます。貝合わせの貝がポポロの魔法を跳ね返して撃ち出したのです。

 そのタイミングに合わせて、青の魔法使いも自分の杖を振り下ろしました。こぶだらけの杖の先から青く輝く光の弾が飛びだして、森の奥へと飛んでいきます。広大な森を挟んだ反対側では、天狗が魔法を受け止めようと待っているのです。魔法の光が森の中に見えなくなっていきます──。

 

 ところが、部下の魔法使いの声がまた青の魔法使いに聞こえてきました。それが悲鳴だったので、青の魔法使いは驚きました。

「なんだ!? いったいどうした!?」

 部下たちに尋ねますが、返事はありませんでした。ただ、大勢の悲鳴がいっせいに上がって、うめき声に変わっていきます。

 すると、大司祭長が目の前に姿を現しました。魔法で空間移動してきたのです。普段は穏やかで落ち着いている大司祭長が、はっきりと顔色を変えていました。

「貝が壊れて全員が吹き飛ばされました! ポポロ様の魔法が強力すぎて、受けきれなかったんです!」

「なんですと!?」

 青の魔法使いはまた仰天しました。ポポロの魔法は上空で分裂して小さくなったのですが、それでも受け止めた貝を破壊して、構えていた魔法使いや武僧や妖怪をなぎ倒してしまったのです。

「光は──魔法の光はどうなりましたか、大司祭長!?」

 あわてふためく青の魔法使いを、大司祭長は腕をつかんで引っ張りました。そのまま上空へ飛び上がり、森の上に出ます。

「見なさい。あれがポポロ様の魔法です」

 指さす先に、森の中を飛んでいく無数の光がありました。光の後ろに輝く緑の尾を延ばしながら、まっすぐ森を進んで行きます。森の西側から飛んできた光は東側へ、北側から飛んできた光は南側へ──。

 なんと! と青の魔法使いは絶句しました。

 彼や大司祭長が発した光の魔法は、遠くへ飛ぶ分、あまり明るく光ることができなくて、肉眼では見ることができないのに、ポポロの魔法ははっきり見極めることができるのです。北と西からの光が交わって、光のマス目を森に浮かび上がらせていきます。

「全長百五十キロもある森に、これだけの魔法をかけられるとは……なんという……」

 さすがの大司祭長も、それ以上ことばを続けることはできません。

 すると、森の中で突然激しい爆発が起きました。木々が濃く生い茂っている中で、飛んできた光がいきなり破裂して輝いたのです。同時に、森の中にぼうっと浮かび上がって見えたものがありました。巨大な黒いガラスの壁のように見えます──。

「闇の本陣だ!!」

 と大司祭長と青の魔法使いは同時に叫びました。

 光の探知網の魔法は微弱なので、闇の障壁に出会えばそこで消滅するのが本当なのですが、ポポロの魔法は強力だったので、障壁で爆発を起こしたのです。障壁がひび割れて崩れ落ちるのが見えます。

 大司祭長たちが呆気にとられていると、雲が消えた上空から本陣へまっすぐ降りてくるものがありました。二匹の風の犬と花鳥です。昇ってきた朝日に、フルートの防具が金色にきらめいています。

 ところが、青の魔法使いたちにはまた悲鳴が聞こえ始めました。森を横切った魔法の光が対の貝に届いて、ここでも受け手を吹き飛ばしてしまったのです。数え切れないほどの悲鳴やうめき声が伝わってきます──。

 

 そこへ森を飛び越えて天狗がやって来ました。森の上にいた大司祭長と青の魔法使いに駆けつけて言います。

「探知の光魔法が強力すぎて、貝がひとつ残らず壊れた! 受け止めた者もたたきつけられて怪我をしたぞ!」

 青の魔法使いは思わず頭を抱えてしまいました。

「ポポロ様は空のかなり高い場所から魔法を送ってきました。届かなくては大変だと思って、ひときわ力を入れたのでしょう……」

「武僧長、そちらはどんな状況です!?」

 と大司祭長が部下に尋ねていました。武僧長は大司祭長からの魔法を受け取っていたので、吹き飛ばされたりしなかったのです。しばらく心話でやりとりしてから、大司祭長は他の二人に言いました。

「武僧軍団は全員が負傷して、武僧長以外はすぐには動けそうにありません。魔法軍団や妖怪軍団はどうです?」

「魔法軍団も全員食らったようです。すぐには動けません」

 と青の魔法使いが答えると、天狗も言いました。

「わしら妖怪も半分ほどが食らったが、残りの半分は大丈夫だ。貝を使っていなかったからな」

「では、動ける妖怪と我々は本陣へ攻め込みましょう。ポポロ様の魔法が本陣の障壁を壊したのです」

 と大司祭長が言ったので、天狗と青の魔法使いはすぐにうなずきました。

「確かにこれは千載一遇の好機。逃すわけにはいかんな」

「部下たちには自分で怪我を癒やして参戦するよう伝えます」

 天狗が腰のホラ貝を吹き鳴らすと、森のあちこちから妖怪たちが飛び上がってきました。その中にはイタチに似た雷獣もいます。

「我々も入れて三十名というところですか」

 大司祭長が妖怪の数をざっと数えると、天狗が言いました。

「実際にはもう少し多い。空を飛べなくて森の中を走っている仲間もいるからな。敵陣の近くには空間移動ができんだろう。わしにつかまれ」

 そこで、大司祭長と青の魔法使いは天狗につかまり、闇の本陣に向かって空を飛んでいきました──。

2021年6月4日
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