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第28巻「闇の竜の戦い」

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12.作戦

 「ポポロの魔力を魔法使いや武僧たちに分け与えようと言うのか。そんなことが可能なのか?」

 とオリバンに聞き返されて、フルートは答えました。

「ポポロは今まで何度となくぼくたちに力を貸してくれたよ。特に、この金の石にはよく力を貸してくれたんだ」

「ポポロのは聖なる魔法だから、同じ光の魔法の力が倍増するのよね」

 とルルも言います。

「だが、魔法軍団と武僧軍団を併せると百名ほどにもなる。そんな大勢に力が分けられるものなのか?」

 とシオン大隊長がいかにも疑わしそうに言ったので、ポポロは後ずさりそうになりました。スカートの裾を握りしめ、勇気を奮い起こして答えます。

「できる、と思います。ううん、できます……。二つの魔法を一度に使って、空の上からみんなに力を送れば……」

「魔法を二つ使わなくちゃいけないのか」

 フルートが急に心配顔になりました。魔法を使い切るとポポロが闇王たちに狙われる可能性があるからです。

 ゼンがその背中をたたきました。

「ポポロの周りを俺たちでがっちり固めて守りゃいいんだよ。連中だってポポロどころじゃなくなるんだからよ。敵の本陣を発見したら、すぐ攻撃するんだろう?」

「そうなるでしょうな。だが、本当にそんなことが可能なのですか?」

 ワルラ将軍もまだ半信半疑です。

 フルートは光の探知網の絵を示しました。

「こっちの魔法を発射する側に、魔法軍団や武僧軍団にいてもらって、ポポロに力を飛ばしてもらうんです。力が来たらすぐに魔法を発射させて、反対側にいる妖怪軍団に受け止めてもらう。光の魔法が途切れた場所に本陣があるんだから、そこを一斉攻撃して敵をたたく──。これが作戦です」

「とすると一般の軍勢も出陣することになりますな。探知を実施する前から戦闘が始まりそうだ」

 とシオン大隊長は腕組みしました。どの部隊をどう配置するか考え始めたのです。

 

 ところが、そこまで黙ってやりとりを聞いていた大司祭長が言いました。

「その作戦には懸念(けねん)があります──。ポポロ様が皆に力を分け与えることはできても、受ける側が受け止めきれないかもしれないのです。ポポロ様の魔力は非常に強大です。百人に分けても、まだ受け止めきれないくらい大きいかもしれない。そうなれば、魔力の過負荷で魔法使いは魔法が使えなくなってしまうし、最悪の場合には死んでしまう可能性さえあるのです」

 深刻な声でした。

 魔法軍団や武僧軍団が全滅するかもしれない、と聞かされて、一同は顔色を変えました。ポポロはたちまち泣き出しそうになります。

 すると、天狗が口を開きました。

「確かに人間の魔法使いが天空の民の魔力を受け止めるのは無謀だな。光が強すぎて、その人間の体を分解してしまうかもしれん。だが、魔法を反射させるだけなら、そこまでの危険はないだろう。貝合わせの貝が使えそうだ」

 貝合わせの貝? と一同は聞き返してしまいました。そんなものはこれまで聞いたことがありません。

 天狗はまた袖の中で腕組みをして話し続けました。

「貝合わせというのは、元々はヒムカシの国の貴族たちが楽しんでいた遊びだ。海の貝の殻を二つに分けると、片方に合う殻はもう一方の殻しかない。たくさん貝殻を並べて、その中から対になる殻を見つける遊びなのだが、わしら妖怪はこれを魔法の道具として使っている。ひとつの貝に魔法を当てると、もう一方の貝に魔法が飛ぶからだ」

 一同はその仕組みを頭に思い浮かべようとしました。

「ワン、片方の貝にポポロの魔法を反射させて、もう一方の貝へ飛ばすんですね?」

「そうすると、魔法軍団や武僧軍団を出動させる必要はなくなるんでしょうか?」

 とポチとフルートが尋ねると、天狗は首を振りました。

「貝は互いに向き合うように構えなくてはならん。しかも反動があるから普通の人間では扱えん。扱えるのは光の魔法使いだけだ」

 大司祭長が納得してうなずきました。

「その道具を使えば、魔法軍団や武僧軍団でも作戦に参加できるということなのですね。貝合わせの貝というのは充分あるのでしょうか?」

「宙船に二桶(おけ)あるはずだから、全部で三十組だな。貝があればもっと準備できるんだが」

 と天狗が言うと、すぐにセシルが答えました。

「必要なのは二枚貝なんだな。それならこのリーリス湖でも採れる。漁師たちに言えば、すぐに持ってきてくれるだろう」

 天狗は承知して部屋の出口に向かいました。

「貝は船に届けてくれ。貝を選ぶ必要があるから、できるだけ多い方がいい。わしは他の連中と船で準備して待っている」

 セシルも天狗と一緒に司令室を出て行きました。こちらは港の漁師たちに貝を頼みに行ったのです。

 

 後に残った者たちはさらに相談を続けました。

 フルートが言います。

「闇の森に敵の本陣が見つかったら一斉攻撃を始めるけれど、さっきシオン隊長も言った通り、その前に敵が出てくるだろう。敵に邪魔されないようにしなくちゃいけない」

「敵にこちらの作戦を気取られないようにするのが肝心だな。向こうはグーリーが偵察に来たことに気づいている。こちらが闇の森へやってくることも承知しているだろう」

 とオリバンが言うと、ワルラ将軍が言いました。

「森の中の敵は自分の陣営が簡単には見つからないと信じています。敵を本陣に近づけないために、手前で我々を迎撃しようとすることでしょう」

 フルートはうなずきました。

「じゃあ、それに乗ってみせよう。ハルマスから連合部隊を編成して闇の森へ。連合部隊が森の手前で戦っている間に、魔法部隊が敵の本陣を見つけ出すんだ」

 すると、メールが聞き返しました。

「魔法部隊が本陣を見つけたら、次はどうすんのさ? あたいたちは?」

「ぼくたちはポポロと一緒に闇の森の上空にいて、光の探知網に協力する。本陣が見つかったら連合部隊に知らせて、みんなでいっせいにそこへ攻め込もう」

「なるほど。では、我々は連合部隊の指揮だな」

 とオリバンが言い、ワルラ将軍とシオン大隊長がうなずきました。

「メイ軍やザカラス軍、テト軍にも出陣を願わなくてはなりませんな」

「大軍で闇の森へ向かって、敵の目を惹きつけましょう」

「では、私は魔法部隊の調整役をすることにいたしましょうか」

 と大司祭長も言い出したので、お願いします、とフルートは頭を下げました。妖怪軍団、魔法軍団、武僧軍団の三つのグループで魔法部隊を編成するので、グループ間の連携がなにより重要だったのです。

 それぞれの役割が決まったところで、フルートは改めて全員に言いました。

「出陣は貝合わせの準備が終了次第。目標は敵本陣の発見と撃破──いいな?」

 おう! よし! 承知しました。

 全員は異口同音に返事をすると、準備のためにいっせいに司令室を出て行きました──。

2021年5月13日
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