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第28巻「闇の竜の戦い」

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7.報告

 一方、ハルマスの作戦本部の司令室では、フルートたちがまた会議が開いていました。

 ハルマスの主要な人々に、ワルラ将軍が戦闘の結果を報告しています。

「敵の損害はおよそ一千。敵兵の約十分の一が、こちらの攻撃やバロメッツの爆発で死亡しました。一方こちらの被害は皆無。戦死者はもちろんのこと、負傷者もありませんでした」

 すると、ミコンの大司祭長が言いました。

「爆発で武僧軍団の武僧が大勢負傷したのですが、すぐに勇者殿が治療してくださったので、負傷者はいなくなったのです」

「金の石を使おうとしたら、ポポロが力を貸してくれたんです。今日はまだ魔法を使っていなかったからって──。おかげでたちまちみんな元気になりましたね」

 とフルートが補足すると、天狗も言いました。

「爆発で壊れた防壁は我々妖怪がすでに修理した。防御魔法にはほころびもないから心配はいらんぞ」

 妖怪軍団は見た目は怪物のように恐ろしげですが、実に頼りになる味方です。

 ハルマスにまったく被害がなかったとわかって、誰もが明るい顔になります。

 

 すると、オリバンが言いました。

「グーリーはヨに化けて敵を追跡したのだな。その後連絡はあったのか?」

 このとき会議に集まっていたのは、ハルマスでも特に重要な人々だけでした。事情を知らない一般の司令官やザカラスやメイの皇太子は加わっていなかったので、オリバンも平気でグーリーの名前を出しています。

「ワン、闇の陣営から連絡をするのは無理ですよ。陣営の場所がわかったらすぐ戻ってくることになっています」

 とポチが答えると、竜子帝が言いました。

「敵の本陣には闇王がいるのだろう。グーリーとやらの正体がばれなければ良いが」

 たちまち会議室はしんとしました。誰もが竜子帝と同じことを心配していたのです。いくら闇のグリフィンでも、闇王に見つかればただですむはずはありません。

 けれども、フルートは言いました。

「大丈夫。グーリーはきっとうまくやるよ」

 穏やかですが揺るぎのない声でした。この話はそこまでで切り上げて、ワルラ将軍に言います。

「それより、さっきちょっと聞いたんですが、敵の捕虜がひとりもいないというのは本当ですか? 逃げ遅れた敵はずいぶんいたように見えたんですが」

 とたんにワルラ将軍は渋い顔になりました。

「確かに負傷して逃走できなかった敵は多かったですな。魔法軍団やユラサイの術師たちに捕まえてもらおうと思ったのですが……」

「生き残った敵がひとりもいなかったのです、勇者殿」

 と青の魔法使いが言いました。将軍に負けないほど渋い顔つきになっています。

 勇者の一行は驚きました。

「敵はひとり残らず死んでたってことかい!?」

「どうして!? 戦闘が終わったとき、生きてる敵はまだたくさんいたわよ!」

「いくら重症を負ってたって、全員がくたばっちまうなんてことはねえだろうが!」

 と口々に言います。

「よもや敵を虐殺したのではないだろうな? いくら闇の民であっても、むやみに殺して良いものではない。捕虜にすれば敵の陣営について情報も聞き出せたかもしれないのだぞ」

 とオリバンに厳しく言われて、武僧の魔法使いはたちまち顔を真っ赤にしました。

「恐れながら、殿下! 我々魔法軍団はそのような真似は決していたしません! ラク殿をはじめとする術師軍団も同様です! 敵は自害したのです!」

 自害? と司令室の一同はまた驚きました。

「捕虜になることを拒んで自殺したというのか? 全員が?」

 とセシルが聞き返すと、術師のラクが答えました。

「自殺と言うより、殺されたと言うべきでしょう。戦闘が終了したとき、逃げ遅れた敵はまだ大半が生きていたのです。むろん、戦死した敵も多かったのですが、まだ息がある敵のほうが多かった。ところが、それを捕まえようとしたとたん、誰もがいきなり苦しんで絶命したのです。さらに驚いたことに、死体までが蒸発するように消えてしまいました。どうやら、闇の兵士は敵に捕まりそうになると、自動的に殺されて死体さえ残さず消えてしまうようです」

「自動的に殺されるって、どうやって──」

 愕然とするフルートに、ポポロが言いました。

「きっと、闇の兵士が身につけている象徴よ……。あれはものすごく強力な契約魔法なんだって、前にキースから聞いたことがあるわ。闇王の兵士になるときに、力をもらう代わりに契約の象徴を鎖で体に結びつけるんですって。一度契約したら象徴は二度と外せないし、無理やり外そうとすると、爆発してその人を殺すらしいわ。きっと、捕虜にされそうになったときにも、闇王の魔法が発動してその人を消滅させるのよ」

「捕虜から情報が洩れることを防止するためですか。徹底してますな」

 とシオン近衛大隊長が苦々しく言います。

 フルートはますます青ざめました。

「だからって、まだ生きているのに殺すなんて──」

 それきりフルートが黙り込んでしまったので、代わりにオリバンが言いました。

「捕虜から敵の陣営について聞き出せないとなると、やはりグーリーの報告を待つしかない。グーリーの無事を祈ろう」

 一同がうなずきます。

 

 作戦本部の司令室の大きな窓からは、よく晴れた水色の空と、ハルマスを囲む防壁が見えていました。防壁の上には見張りの姿もあります。見張りは人間の兵士だけではありませんでした。ロムドの魔法軍団、ユラサイの術師、ミコンの武僧軍団、さらに妖怪までが加わって、交代しながら二十四時間警戒を続けているのです。日中はユラサイの飛竜部隊も空から警戒に当たっています。

 それを眺めていた大司祭長が、おもむろに話し出しました。

「我々ミコンの司祭たちは、人々や世界の安寧(あんねい)を神に祈りながら生きますが、これまで闇のものの無事を願ったことなどはありませんでした。また、世界に我々とは異なる体系の魔法使いがいることは承知していましたが、それは異教の徒であり、敵対することはあっても味方となることはないのだと、長い間考えられてきました。ですが、今、私はグーリーという闇のグリフィンの無事と任務の成功を心から願っていますし、ハルマスで共に戦う異なる人種や宗教の人々の無事も願っております。世界にはこんなにも様々な人の営みがあるというのに、我々は今までなんと狭い正義に囚われていたことか。この戦いに加わることで、それをつくづく思い知らされております──」

 おごそかな声に、一同は黙って耳を傾けていました。まるで礼拝の説教を聞いているような気分になったのです。

 ところが、大司祭長はふと笑顔になると、フルートたちに言いました。

「ですから、いつか機会があればグーリーたち闇の友を私にもご紹介ください。ミコンの聖騎士団にいたことがあるキースにも、久しぶりに会いたいと思います」

 これには勇者の一行だけでなく、オリバンやセシルまでが驚きました。キースはこれまで面倒にならないように大司祭長と顔を合わせなかったし、彼らもキースがいることを教えたりはしなかったのですが、大司祭長は、キースの正体にも仲間に加わっていることにも気がついていたのです。

 思わずまじまじと見つめてしまったフルートに、大司祭長は言いました。

「闇の敵がしようとしていることを許すことはできません。特に、世界をすべての生き物ごと破壊しようとするデビルドラゴンは、絶対に許すわけにはいきません。ですが、友になれる闇とは友となり、友となれない闇ともお互い安全な距離で共存することができれば、それが一番良いことのような気がいたします。それぞれに信じるものが違っているのですから──。そうは思いませんか?」

 それは戦闘の結果に思わず悩んでしまったフルートへの、大司祭長からの回答でした。

 フルートは真顔でうなずきました。

「そのためにぼくは全力を尽くします」

 と力を込めて言い切って胸の金の石を見つめます。

 すると、ゼンがフルートの肩に腕を回してきました。

「俺たちみんなで、だ。俺たちを忘れるな」

「そうよそうよ!」

「フルートったら、すぐ自分だけでやるようなこと言うんだからさ!」

 とルルやメールも口々に言います。

 仲間たちに叱られて、フルートはいつものちょっと困ったような顔をしました。照れくさそうに言います。

「うん、わかってる。みんなでやろう」

 それを聞いてポポロがほほえみ、ポチが尻尾を振ります。

 彼らは、種族も宗教も、光と闇の区別さえも乗り越えた、ひとつながりの陣営でした。これまでで最も多様な同盟軍なのです。

「みんなに神竜の加護がありますように」

 とリンメイがユラサイの神に祈ってつぶやきました。

2021年4月26日
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