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第28巻「闇の竜の戦い」

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2.砂浜

 「で、ぼくたちが呼ばれたというわけか。闇に強い仲間ってことで」

 そう話しながら空から降りてきたのは、長い黒髪を後ろで束ねた、甘い顔立ちの青年でした。白い服に青いマントをはおり、大きな黒いグリフィンに乗っています。その後ろには長い黒髪に憂いを秘めた瞳の美少女も乗っていました。キースとアリアンがグーリーに乗ってハルマスへやって来たのです。

 美しく優しげな二人ですが、彼らは闇の民でした。特にキースは先の闇王の十九番目の王子です。グーリーもライオンの体に鷲(わし)の頭と翼の闇の怪物でした。彼らは悪意に充ちた闇の国を逃げ出して、ディーラにあるロムド城に身を寄せているのです。

「みんなの正体について知らない司令官もいたから、詳しくは話さなかったけれどね。とにかく闇の敵に詳しい仲間だと言っておいたよ」

 とフルートは話しながら、グーリーと並んで空から舞い降りました。変身したポチと一緒に、キースたちを出迎えていたのです。

 キースはちょっと肩をすくめました。

「悪かったね。それだけ気をつかってもらったのに、結局ハルマスの中に入れなくて──。闇王の軍勢を防ぐために、ずいぶん強力に防御したんだな。それでもぼくは平気なんだけれど、アリアンとグーリーはそういうわけにはいかない。光の魔法で怪我をしてしまうからね」

「ヒムカシから来た妖怪たちが、光の防壁でハルマスを囲んでくれたんだ。ハルマスの大地は青さんやミコンの魔法使いたちが光の魔法で固めて、敵が地中から侵入できないようにした。確かにアリアンたちには厳しかったね。配慮が足りなくてごめん」

 フルートが謝ったところで、彼らは地上に着きました。リーリス湖の岸辺の砂浜で、ハルマスの砦からは少し離れています。

 

 そこではゼンとメールとポポロとルルが待っていました。後ろにはオリバンとセシルも立っています。

「やあ、久しぶり。元気そうだったね」

 とキースは友人たちに挨拶しました。

「キースたちも息災でなによりだ。城に変わりはないか?」

 とオリバンが尋ねます。

「ないね。陛下も王妃様たちもみんなお元気だ。城の修理もだいぶ進んだよ」

「そうか。それはなによりだ」

 オリバンたちがしかつめらしくそんな話をするので、メールやゼンがあきれました。

「なんでそんな堅い話してんのさ。ここにはあたいたちだけしかいないんだよ?」

「毎日連絡が入ってるんだから、あっちが無事なのはわかってるだろうが。んなことより、ゾとヨはどうしたんだ? 一緒じゃなかったのか」

 ゾとヨというのは、キースたちと一緒に闇の国を逃げ出してきた双子のゴブリンでした。赤毛の小猿に化けてロムド城で暮らしています。

「意外なことに、仕事なんだよ。ハルマスが襲撃されたせいで、城でも緊張が高まっていてね。みんなの気持ちを和らげるのに、トウガリと毎日芸をしてみせているのさ。けっこう人気なんだよ」

 キースの話に勇者の一行は、へぇと感心しました。双子の小猿と道化のトウガリが人々を笑わせている場面を想像して、ほのぼのした気分になります。

 すると、セシルが言いました。

「こんなところで立ち話もなんだから、お茶を飲みながら話すことにしよう。久しぶりにゼンが腕をふるってくれたぞ」

 湖畔の狭い砂浜に敷物が広げられて、お茶の道具と軽食が準備されていたのです。焚き火の上では、やかんが湯気を立てています。

 ゼンは頭をかきました。

「ゾとヨも来ると思って、あいつらの分の菓子も焼いたんだ。無駄になっちまったな」

「預かっていくよ。きっと喜ぶ」

 とキースが答えました。本当に、闇の国の王子とはとても思えない、もの柔らかな彼です。

 

 一同は敷物に腰を下ろすと、配られた熱い黒茶をすすり、木の盆に並べられたパンや焼き菓子、果物などに手を伸ばしました。厚切りにしたパンには、油で煮込んだ肉や魚、野菜などの具材がたっぷりと載っています。

「うん、うまい。こういう場所で食べるには最高だね」

「相変わらず、ゼンは料理上手ね」

 キースやアリアンに褒められて、ゼンは機嫌を良くました。猟師の彼は野外料理が得意なのです。

 砂浜の先には青く輝くリーリス湖が広がり、その向こうにデセラール山がそびえていました。すでに三月も下旬になったので、山は雪が大分溶けて黒い山肌をのぞかせています。風はまだ少し冷たいのですが、日射しが暖かいので寒くはありません。このままのんびりピクニックを楽しみたいような天気です──が、そういうわけにはいきませんでした。

 キースはほおばっていたパンを呑み込むと、話し出しました。

「だいたいの話はさっき聞かせてもらったけどね。要するに、闇の軍勢が攻めてきたら、撃退してどこへ引き上げていくか確かめたい、ってことなんだな? 光の魔法使いたちには不可能だから、闇の民のぼくたちに協力してほしい、と。そういうことでいいんだろう?」

 フルートはうなずきました。

「敵は闇王の軍勢だから、光の魔法で追跡してもまかれてしまう。でも、同じ闇の民のアリアンなら、敵に気がつかれずに鏡で後を追えるんじゃないかと思うんだ」

 それを聞いて、アリアンはドレスのかくしから鏡を取り出しました。手に収まるくらいの小さな楕円形の鏡ですが、魔法でできているので、本格的にのぞくときには大きくなります。彼女はこれを使って遠い場所を透視することができるのです。

 けれどもキースは首を振りました。

「アリアンにはやらせられないな。本陣には闇王のイベンセがいるはずだ。鏡で追いかければ、必ず気づいてこちらに手を伸ばしてくるだろう。ぼくたちまで連中の手先にされかねないよ」

 オリバンは、ふむと唸りました。

「そういえばアリアンはユギルにも敵を探ってはいかんと言われていたな。セイロスに捕まる可能性があるからと。新しい闇王のイベンセも、セイロスに匹敵するような魔力を持っているということか。油断ならん男がまた増えた」

 ユギルというのは大陸随一と名高い、ロムド城の一番占者です。

「なにしろ闇王だからね。魔力は半端じゃないさ──。ただ、誤解しているようだから言うけれど、イベンセは男じゃないよ。女だ」

「女!!?」

 これにはオリバンだけでなく、セシルも勇者の一行も、アリアンまでもがびっくりしました。グーリーも驚いて黒い翼をばたつかせます。

「うっそ。前の闇王が男だったから、今度もてっきり男だと思い込んでたよ」

「闇王と言っても、闇の女王だったのね」

 とメールやルルが言うと、アリアンも意外そうに言いました。

「私も新しい闇王は男なのだと思っていたわ。歴代の闇王の中で女王は珍しいもの」

 キースは肩をすくめました。

「王位継承権がある王子や王女は、みんな魔力がとても強いし、誰もが闇王の座を狙っている。闇王が代替わりするときには、王座を巡って殺し合いが始まるんだが、魔力的に拮抗しているから、最終的に肉弾戦になることが多い。そうなれば、どうしたって男のほうが有利だからな」

「だが、イベンセは女なのに兄弟たちに勝利した。そんなに強靱(きょうじん)なのか」

 とセシルが言ったので、一同はなんとなく見上げるような大女を想像してしまいました。筋骨隆々とした腕で武器を振り回して、男でも怪物でも片端から殴り飛ばしていくような人物です。

 キースはまた肩をすくめました。

「そこはわからない。ぼくは先の闇王の子どもだけれど、王位継承権があるきょうだいたちは、生まれてすぐに幽閉の獄に閉じ込められるから、一度も会ったことがないんだ。アリアンたちがイベンセを知らなかったのもそのせいさ。イベンセが他のきょうだいに勝利したのは、力が強かったからかもしれないが、魔力がずば抜けて強かったからとも考えられる。まだ現役だった先王を倒したんだから、そういうことなのかもしれないな」

 自分のきょうだいや父親の話をしているのに、キースの口調は乾いていました。まるで他人事です。彼は自分の中に流れる闇王の血を嫌っていました。闇の王族など、興味もなければ関わり合いにもなりたくなかったのです。

 フルートは考え込んでしまいました。

「だとしたら、敵の本陣を隠す闇王の魔法は、滅多なことでは破れないだろうな。やっぱり天狗さんが言う方法であぶり出したいけれど、そのためには大まかにでも本陣のあるエリアを見つけなくちゃいけないんだ……」

 アリアンの鏡が使えないとすると、他にどんな方法があるだろう、と考えますが、名案はなかなか浮かびません。

 

 すると、砂浜に腹ばいになってリンゴを食べていたグーリーが、グェン、と鳴きました。グーリーのことばが理解できるキースとポチが、えっ!? と驚きます。

「馬鹿なことを言うんじゃない! そんなことできるわけがないだろう!」

「ワン、そうですよ! すぐ見つかって捕まっちゃいますよ!」

 メールは二人に尋ねました。

「なにさ? まさかグーリーが敵を追いかけるって言ってるのかい?」

「そりゃ無理だろう。こんな目立つ図体なんだから、一発でばれらぁ」

 とゼンもあきれると、グェグェエ、とグーリーは訴え続けました。

「変身するから大丈夫だって? 無理だ!」

 キースは大反対でしたが、フルートは身を乗り出しました。他に良い案は見つかりません。もし可能性があるなら、グーリーに賭けてみても良いと思ったのです。

「何に変身するつもりなんだい?」

 と尋ねると、グーリーは得意げに、グェン、と頭をそらしました。

「ワン、絶対に怪しまれないものになるって言ってますよ。なんだろう?」

 とポチは通訳すると、仲間たちと一緒にグリフィンに注目しました──。

2021年4月14日
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