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第27巻「絆たちの戦い」

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74.防御・2

 リーリス湖の船着き場では激しい戦闘が続いていました。

 砦に侵入したジブたちが、フルートとオリバンへ押し寄せていたのです。

 ポチは何度も空から舞い降りては敵を吹き飛ばしましたが、それをかわしたり抜けたりした敵が、フルートたちに向かっていました。

 ジブたちの狙いは金の石の勇者の首でした。それが自分の昇進に直結するので、目の色を変えて突進してくるのですが、相変わらず、ほとんどの敵はフルートではなくオリバンを狙っていました。フルートは金色の防具を身につけていますが、見るからに威風堂々としたオリバンのほうが、ずっと勇者らしく見えていたのです。

 オリバンは聖なる剣で、フルートは光炎の剣で、敵を片端から切り倒していきました。鈴を振るような音がひっきりなしに鳴り響き、光と炎が数え切れないほど湧き上がりますが、それでも敵は襲いかかってきます。

 ひときわ大柄なジブが剣を振り下ろしてきたので、オリバンは剣で受け止めました。敵の力が強いのでよろめきそうになって、必死に踏ん張ります。

 大柄なジブはにやりと笑いました。

「無駄だ。人間に俺の剣が止められるもんか。俺は将来ドルガになる強者だぞ。貴様の首を切り落として、新しい闇王様に提供してやる。闇王様はお喜びになって、俺を二階級昇進させてくれるはずだ。そうすれば、俺はドルガだ」

「闇の兵のくせによくしゃべる奴だな」

 とオリバンは言いました。剣を押し返したいのですが、敵の力が強すぎて、受け止めた剣を支えているのがやっとでした。

 すると、それをチャンスと見て、他のジブが襲いかかってきました。オリバンを槍で貫こうとします。

 そこへフルートが飛び込んできました。槍の穂先を切り落とし、燃え上がった槍の柄を敵が放り出した隙に、間合いに飛び込んで切りつけます。

 仲間が燃えていくのを見て、大柄なジブは笑いました。

「俺の獲物を横取りしようとした罰だぞ! いい気味だ!」

 闇王の親衛隊は仲間の死を悼んだりはしません。そんなジブの背中へ、フルートは振り向きざま剣を振り下ろしました。大柄なジブもたちまち光と炎に包まれ、絶叫しながら消えていきます──。

 オリバンは、ほっと息をついて、流れ出た汗を拭いました。敵と力任せの押し合いをしたので、剣を握る腕がまだ少し震えています。

 フルートはオリバンと背中合わせに立って剣を構えました。オリバンの背後を守りながら言います。

「ゼンたちが無事に防御の網を張り終えました。湖から侵入される心配はなくなりました」

「それは良かった──が、おまえは何故金の石を使わん? これだけ敵が群がっているなら、金の石で一網打尽にできるだろう」

 フルートが先ほどからペンダントを使わずに剣でばかり戦っているので、オリバンは不思議に思っていたのです。

 フルートは一瞬真顔になってから、苦笑して答えました。

「使えないんです。空で使い過ぎました」

「そうか」

 オリバンはすぐに納得しました。あとは二人で互いの背中を守りながら、襲ってくる敵を倒し続けます。

 

 ところが、そんな二人のすぐ横の地面にいきなり穴が空きました。新しいトンネルが、ハルマスの中央に近い場所まで掘られていたのです。中からモグラのような怪物とジブたちが飛び出してきて、二人に襲いかかります。

「ワン、フルート! オリバン!」

 ポチが気づいて駆けつけようとすると、風の尾に何かが噛みつきました。ポチが驚いて振り向くと、空の中に大きな黒い犬が浮いていました。頭が二つあって、ライオンのようなたてがみに囲まれています。たてがみの一本一本は蛇になっていました。体の後ろに伸びる尾も太い蛇です。

「オルトロス──!」

 とポチは言いました。地獄の番犬ケルベロスの弟分と言われている、双頭の犬の怪物です。

 オルトロスは頭の一つでポチの尻尾をがっちりくわえていました。ポチは風の犬に変身していますが、同じ犬の怪物には捕まってしまうのです。振り切ろうともがきますが、逆にオルトロスに振り回されて、遠くへ投げ飛ばされてしまいます。

 すると、ポチに阻まれていたジブたちが、いっせいにオリバンやフルートへ殺到し始めました。穴からは新たな敵が飛び出し続けているので、あっという間に二人は大量の敵に取り囲まれました。突いても切っても、とても倒しきれません──。

「やだ! フルートとオリバンの周りに大群よ!」

 上空に到着したルルが言いました。船着き場の二人の周りには、餌に集まった蟻(あり)のように、敵が真っ黒に群がっていたのです。

 ゼンはすぐさま光の矢を放って、オリバンに襲いかかったモグラの怪物を消滅させました。が、敵はごまんといました。ゼンにもとても倒しきれません。

 メールが花鳥を船着き場に急行させようとすると、ポポロが叫びました。

「危ない、メール! 止まって!」

 とたんに花鳥の目の前にまたオルトロスが姿を現しました。二つの頭で同時に噛みついてきますが、メールがとっさに花鳥を停止させていたので、二組の牙は空を噛んだだけでした。さらに食いついてこようとしたので、メールが花鳥を白く変えて弾き飛ばします。

 すると、オルトロスはまた姿を消しました。どこにいるのかわからなくなってしまいます。

「キャン!」

 突然悲鳴を上げたのはポチでした。飛び戻ってフルートの元へ駆けつけようとしたところに、双頭の犬が現れて噛みついたのです。空中にばっと青い霧のような血が飛び散ります。

「ポチ!!」

 仲間たちはすぐに助けに向かいましたが、黒犬はまた姿を消してしまいました。

「大丈夫かい?」

 とメールに聞かれてポチは答えました。

「ワン、かすり傷です。でも、降りようとすると邪魔されます」

 そのことばの通り、花鳥が降りていこうとすると、またその前にオルトロスが現れました。花鳥が身をかわして引き返すと消えてしまいます。

「ちっくしょう! フルートたちに近づかせねえつもりだな!」

 とゼンは歯ぎしりしました。捕まえて二つの首を締め上げてやりたいところでしたが、オルトロスはゼンの怪力を承知しているのか、ゼンの前には現れませんでした。その間にも地上の敵は増えていきます。

 メールの後ろからポポロが身を乗り出しました。

「あたしが──! あたしの魔法はあとひとつあるから、それでこのあたりの敵を消すわ! 地上のジブも空の怪物も!」

 ところが、ポポロは呪文を唱えようとして、急にびくりと身をすくませました。驚いたように地上を見ます。

 船着き場ではフルートが戦いながらこちらを見上げていました。ポポロに向かって呼びかけてきたのです。

「魔法を使うな──! その怪物は明らかに今までのと動きが違う! きっとイベンセから命令されて出てきたんだ! 君の魔法が切れるのを狙ってる──!」

 ポポロは青ざめて周囲を見回しました。新しい闇王のイベンセが潜んでいる場所を見極めようとしますが、いくらあたりを探っても、それらしい気配は感じられません。

 その間にも地上の戦闘はますます激しくなっていきました。フルートももうポポロに呼びかけることはできませんでした。霧散する敵、光って燃えていく敵、その消滅の渦の中心にフルートとオリバンがいます。真っ黒に群がる敵の中で、その場所だけが小さな空間を作っています。

「きゃぁ!」

 今度はルルが急に悲鳴を上げました。フルートたちのところへ駆けつけようとして、現れたオルトロスに腹を噛まれそうになったのです。ゼンが光の矢をお見舞いしようとすると、あっという間に消えていってしまいます。フルートたちを助けに行くことができません──。

 

 すると、彼らの頭上から羽ばたきの音が聞こえてきました。何かが上空から近づいてきます。

 彼らは振り仰ぎ、一頭の飛竜が舞い降りてくるのを見て、ぎょっとしました。

「セイロス!?」

 けれども、飛竜から聞こえてきたのは別人の声でした。

「派手にやらかしてるな。すごい敵の数じゃないか」

 飛竜の上から精悍な青年の顔がのぞいていました。その右の頬には大きな傷跡があります。ロムド城にいるはずの食魔払いのロウガでした。

「どうしてここにいるんだよ、ロウガ!?」

 とゼンが尋ねると、飛竜がすぐ横まで下りて来ました。飛竜には鞍も手綱もありませんが、ロウガは腕組みしたまま竜の背中に無造作に立っていました。その後ろには青い長衣の大男が乗っていて、ゼンたちと目が合うと、いかつい顔をほころばせました。

「どうやら間に合いましたな、皆様方。ディーラから直接ここへ空間移動できないので、ロウガ殿にここまで運んでもらったのです」

 これもロムド城に残っていたはずの青の魔法使いでした。

「占神に言われて助けに来たんだ。困ってるんだろう? 任せろ」

 とロウガが胸を張ったので、ポチは急いで言いました。

「ワン、フルートたちを助けに行こうとすると、怪物のオルトロスに邪魔されるんです! いくらフルートとオリバンでも、あれだけの敵はとても無理なのに!」

「はて、あれぐらいの敵なら、勇者殿の金の石で一掃できるのではありませんか?」

 と首をひねった青の魔法使いには、ポポロが答えました。

「それができないんです! さっき敵を大量に倒すのに無理をしたから──!」

 泣き顔になっている彼女を見て、武僧の魔法使いは、なるほど、とうなずきました。

「では、私は一足先に勇者殿たちのところへ参りましょう。ロウガ殿、後は頼みましたぞ」

「あ? そんなこと言われても、俺は食魔専門だぞ! 任せろって言ったのは、あんたがいたからで──!」

 とロウガは慌てましたが、その時にはもう青の魔法使いは飛竜から姿を消していました。次の瞬間には船着き場のフルートとオリバンの元に現れ、手にした杖で地面をたたきます。

 そのとたん魔法使いの周囲に青い光の輪ができました。たちまち広がっていって、光に触れた敵を消滅させていきます──。

 ロウガは頭を掻くと、ゼンたちに言いました。

「犬の怪物が出たり消えたりするのは見えてた。俺にあいつを倒すことはできないが、足止めならできるだろう。それでなんとかなるか?」

「おう、あいつが消えないように止めてくれればいいぞ」

 とゼンが答えたので、それなら、とロウガは飛竜と降下を始めました。案の定、すぐにまたオルトロスが姿を現して、飛竜に食いつこうとします。

 飛竜はひらりとそれをかわしました。ロウガが両足の位置と体の重心の移動だけで指示したのです。すぐにまた降下しようとすると、オルトロスが追いかけてきて襲いかかります。

 すると、ロウガが小さなランプを突き出しました。つまみを回すと、ランプの中の白い石が強く光り出します。食魔を退治するのに使う太陽の石です。

 オルトロスは光を浴びても消滅するようなことはありませんでしたが、いきなり強烈な光を浴びて目がくらみました。二つの頭が同時に目をつぶり、たじろいだように空中で立ち止まります。

「よし、上出来!」

 ゼンは即座にルルと飛び出しました。オルトロスが逃げないように前足を捕まえると、横っ腹に光の矢を突き立てます。

 とたんに矢は光に変わりました。双頭の犬がたちまち光の中でちぎれて消えていきます。アォーン……と犬の遠吠えのような悲鳴が遠ざかって聞こえなくなります。

「ワン、やった、消滅した!」

「ありがと、ロウガ!」

 ポチとメールはすぐさま降下を始めました。ゼンはルルと一緒に先に船着き場へ向かっています。

 

 そこではフルートとオリバンに守られながら、青の魔法使いが杖を地面に突き立てていました。杖の周りに青い光の輪が次々湧き上がっては、地面の上に広がっていきます。ところが、周囲の敵は消滅しませんでした。先ほどは青い光が触れたとたん消えていったのに、今は平気で光の輪を踏みつけ、フルートたちへ殺到しています。

「青さんの魔法が効かねえのか!?」

 とゼンが驚くと、ポポロが追いついて言いました。

「青さんは敵に魔法を繰り出していないわ。地面に魔法をかけているのよ」

「地面に? どうしてよ?」

 とルルも驚いて聞き返します。

 すると、フルートとオリバンが彼らを呼びました。

「早く! 一緒にこの敵を追い払ってくれ!」

「敵を青の魔法使いに近づけるな!」

 何がどうなっているのかわかりませんでしたが、青の魔法使いが特殊な魔法を使っているらしい、と察して、彼らもすぐに参戦しました。ポチが青の魔法使いの周囲から敵を吹き飛ばし、ゼンはルルと一緒に飛び回って光の矢を放ちます。

「ん、これくらい敵がいたらできるかもしんない」

 とメールはつぶやくと、ぽんと青い花鳥の首をたたきました。鳥の色は青いままでしたが、花の羽根におおわれた翼の端が急に鋭くなって、研ぎ澄まされた刃のようになります。

 花鳥は敵の中に飛び込むと、身を翻しながら低く飛び回り始めました。鋭い翼が敵に触れると、敵は真っ二つになります。

「あら、私の風の刃みたいね」

 とルルが飛んできて言ったので、メールはにやっと笑いました。

「うん、風の刃は無理だから、こっちは花の刃さ」

「星の花だから、闇の敵が消えるわよ」

 とポポロも言いました。花鳥に切り裂かれた敵は、倒れてそのまま消滅していったのです。

「よし、その調子だ! がんばれ!」

 とフルートは仲間たちに言いました。目の前にいるジブを切り捨て、さらに後ろの敵を突き刺し、さらに身を沈めて横からの敵をかわして切り払います。オリバンも猛然と戦っていますが、フルートの戦いぶりはそれに劣りません。

 

 すると、突然青の魔法使いが声を上げました。

「よし、できましたぞ!」

 地面に突き立てていた太い杖を一度持ち上げ、どん、と強くまた地面を打ちます。

 とたんに、地面が真っ青に光り出しました。青の魔法使いやフルートたちがいる場所だけではありません。その先の地面もずっと青く光っています。空にいるゼンたちには、防塁と湖に囲まれたハルマス中の地面が輝いているのが見えました。それと同時に、砦の中のあちこちで新たな騒ぎが起こります。

 ルルとポポロが驚いたように言いました。

「敵が作った穴が消えたわよ」

「魔法で地面を塞いだんですね? ハルマス中の」

「左様。大がかりだったので、少々時間がかかりましたが、皆様方のおかげで無事にできました」

 と魔法使いは汗を拭いながら答えました。

 足元の青い光はまもなく消えて、普通の地面に戻っていきましたが、敵の穴はもう復活しませんでした。穴から出てきた敵はまだたくさんいますが、新たな敵は現れなくなったのです。

「敵はこれ以上は増えん! 徹底的にハルマスから駆除するのだ!」

 とオリバンが力を込めて言います──。

 

 すると、すぐそばからまた別の人物の声がしました。

「では、その役目は私たちにお任せいただきましょう」

 穏やかですが底力のある声です。淡い光と共に姿を現したのは、赤い髪に浅黒い肌の、中年の男性でした。純白の長衣に神の象徴を下げて、細い銀の肩掛けをまとっています。

「大司祭長!!」

 とオリバンとフルートたちは声を上げました。神の都ミコンの頂点に立つ大司祭長だったのです。

「ということは、武僧軍団も到着しましたな」

 と青の魔法使いが、ほっとしたように言いました。それを裏付けるように、体格の良い男たちが次々と姿を現していました。ミコンの武僧たちです。

 彼らは闇の敵に駆け寄ると、敵を捕まえ、拳や蹴りを繰り出して戦い始めました。攻撃が命中すると、敵は吹き飛んで消滅していきます。ミコンの武僧たちは光の魔法を使う戦士軍団なのです。

「助かりました。砦に入り込んだ敵が多すぎて、まだまだかかりそうだったんです」

 とフルートは大司祭長に感謝しました。あっという間に周囲から敵がいなくなったので、剣を下ろして流れる汗を拭きます。

 空からゼンやメールたちも下りて来たので、大司祭長は穏やかに話し続けました。

「遅くなって申し訳ありませんでした。私と武僧軍団だけであれば、魔法でここまでひと飛びだったのですが、聖騎士団と医療部隊も一緒だったので時間がかかりました。聖騎士団は砦の外で敵と戦っています」

「あれ、聖騎士団も魔法が使えるのかい?」

 とメールが聞き返すと、大司祭長は首を振りました。

「聖騎士団のほとんどは普通の人間です。ただ、ミコンの宝庫から聖なる武器を装備してまいりました。ロムドの皇太子殿下と同じくらいには戦うことができます」

 そこへ上空からロウガも下りて来ました。飛竜から飛び降りながら報告します。

「砦の門の外に新しい援軍が到着して、えらい勢いで敵を倒し始めたぞ! 北と西の門からは敵が逃げ出している! 東の門の敵も、もうじき総崩れになりそうだ!」

 ひゅぅ、とゼンは口笛を吹きました。まったく頼もしい援軍の到着です。

 これでひと安心──と一同が安心しかけると、フルートが言いました。

「行くぞ! ハルマスにはまだ敵がいる! これ以上被害が出ないように、一刻も早く退治するんだ!」

「その通りだ! 私は先に行くぞ!」

 とオリバンも言うと、離れた場所に逃げていた馬を呼んで飛び乗りました。まだ戦闘が起きている場所へ駆けていきます。

 犬に戻っていたポチは、風の犬に変身してフルートを乗せました。やはり戦闘が続いている場所へ飛んでいきます。

「おっと、待てって!」

「あたいたちも行くよ!」

 ゼンとルル、メールとポポロも後を追って飛び立ちます。

 

 後に残されたロウガは、あきれたようにそれを見送りました。

「やれやれ、真面目な連中だなぁ」

 すると、同じく後に残っていた大司祭長が言いました。

「そういう方たちだから、多くの人が手助けに駆けつけるのです。あなたもそのひとりではないのですか?」

 ロウガは照れたように頭を掻きました。

「ん、まぁ、そんなところかな。あの連中にはいろいろと世話になったし……。しょうがない。目くらまし程度しかできないが、俺も手伝うか」

 そう言って、ロウガも飛竜に乗って飛び立っていきます。

 微笑してそれを見送った大司祭長に、砦の外で戦う聖騎士団から次々と報告が入っていました。

「大司祭長、西にいた敵が逃げ出しました!」

「北側にいた敵も遁走しました! 追いかけますか!?」

 大司祭長自身が強力な魔法使いなので、離れた場所にいる部下の声も聞くことができるのです。

 司祭長は答えました。

「深追いは無用です。私たちの目的はハルマスの砦を敵から守ることと、敵がロムドの王都を襲撃しないようにすること。敵が王都に向かうようでなければ、追撃はせずに東の戦場の支援に向かいなさい。一気に敵を追い払うのです」

「承知しました!!」

 聖騎士団とのやりとりが終わります。

 大司祭長は砦の中を見渡しました。戦闘は続いていますが、敵は徐々に減っていました。かなわないと見て逃げ出した敵を武僧軍団が追いかけて倒しています。

 遠くではフルートたち勇者の一行が戦っていました。逃げ場を失い追い詰められた闇の敵が、破れかぶれで兵士たちに襲いかかるので、それを守って剣をふるい、矢を放ち、花鳥で攻撃しています。

 大司祭長はその目を砦全体へ向け、かなり長い間あたりを見渡してからつぶやきました。

「勇者殿たちは間もなくこの戦いに勝利するでしょう。だが、あの男がここにいない。ということは、この戦いは前哨戦ということです」

 勝利の先にさらに激しい戦闘を予想して、大司祭長は目を閉じて考え込んでしまいました──。

2021年1月5日
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