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第27巻「絆たちの戦い」

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69.闇の軍勢・2

 押し寄せてくるドルガの集団に、勇者の一行は思わず後ずさりました。

 さすがに二十体ものドルガを相手にするのは厳しいので、空の一カ所に集まります。

 すると、ポポロが身を乗り出しました。

「あたしが魔法で撃退するわ! あたし、今日はまだ魔法を使ってないから!」

 フルートは首を振りました。

「それはぎりぎりまで残しておくんだ! でないと、また魔法切れを狙われて誘拐される!」

 ポポロはことばに詰まりました。魔法は二回使えるのよ、と言いたかったのですが、フルートの声が厳しすぎて反論することができなかったのです。思わず涙ぐんでしまいます。

 すると、メールが言いました。

「ポポロのことなら心配いらないよ。あたいもいるんだからさ。フルートは自分のことを考えな」

 話しながら鳥の首元をたたくと、鳥を形作っていた花が音を立てて動き出しました。青い色が消えて白くなり、さらに形が変わって丸くなっていきます。たくさんの白い花でできた球体になったのです。

 フルートたちが驚いていると、球体の中からメールの声がしました。

「星の花の繭(まゆ)だよ。白い花は防御力が強いからね。とりあえず、敵が減るまでこれでポポロを守ってるから、安心して戦いな」

 白い繭には白鳥のような大きな翼もあって、羽ばたきを繰り返していました。そうやって空に浮いているのです。

「へっ、さすが花使いの鬼姫だぜ」

 とゼンが笑います。

 その間にもドルガたちは接近していました。ゼンが光の矢を放って先頭のドルガを射落とします。

 フルートはその隣で光炎の剣を構えました。背後には白い花の繭があります。

 ドルガたちは光の矢に恐れる様子もなく突進してきました。またひとりが矢に落ちていきますが、他のドルガが武器を振り上げて襲いかかってきます。

 それを充分惹きつけてから、フルートは叫びました。

「光れ、金の石!」

 たちまち聖なる光が輝いて、ドルガたちを悲鳴もろとも溶かしていきます──。

 

 ところが、光が収まってみると、消えたドルガは半分足らずでした。残りの十人あまりは盾を前に構えて空に浮いています。

「ワン、また金の石が効かない!?」

 とポチは驚きました。先のトアは人間でしたが、今目の前に群がるドルガたちは、黒髪に赤い目、角も牙もあるれっきとした闇の民です。

 フルートはまた言いました。

「もう一度だ!」

 金の石が先ほどよりさらに強く輝いて、ドルガたちを照らします。

 すると、ドルガが構える盾の表面が広がってうごめき始めました。金の光は盾を溶かしていきますが、その奥から渦巻きながら盾が再生していくのです。光は盾に遮られてドルガたちに届きません。

「なによ、あの盾!? 金の石で溶かせないの!?」

 とルルも驚きました。渦巻く盾の表面は、湧き上がる黒い霧か泥のようにも見えます。

 すると、フルートたちの横に金の石の精霊が姿を現しました。金色の瞳でドルガの盾を見据えて言います。

「あれは表面におどろを据えた盾だ。だから際限なく再生してくる──。先の光と闇の戦いでも闇の軍勢が使った武器だ」

 そこへ光が湧き起こって、願い石の精霊も姿を現しました。炎のようなドレスと髪を揺らしながら、敵の盾をにらみつけます。

「道理で先程から不愉快な気配がしていたはずだ。おどろの盾だと? 趣味が悪い」

 普段ほとんど感情を表さない彼女が、はっきりと嫌悪の表情を浮かべていました。そのくらいおどろが大嫌いなのです。

 金の石の精霊が冷ややかに言いました。

「どうする、願いの? 先日ハルマスをおどろが襲ったときのように、おどろを怖がって引きこもるか?」

 精霊の女性の瞳に炎のようなものがひらめきました。精霊の少年をにらみ返して言います。

「私はおどろを恐れてはいない。ただ関わりたくないだけだ」

「でも、連中はフルートを狙っている。嫌でも関わることになるだろう」

 少年の声はあくまでも冷静です。

 ふん、と女性は鼻を鳴らしました。横目で少年を見ながら言います。

「そなたの力が不足しているから、おどろの盾を破壊できないのだ。あのおどろは小さい。呑みきれないほどの光を与えればよかろう」

 金の石の精霊も、むっとした顔になりましたが、願い石の精霊はかまわずフルートの肩をつかみました。

「そら、さっさと連中を消滅させるがいい」

 とフルートをせかします。

 フルートは思わず苦笑をして、すぐに言いました。

「光れ、金の石! 全開だ!」

 フルートの胸でペンダントが輝きました。先ほどの何十倍、何百倍もの輝きで周囲を金色に照らします──。

 

 光が収まったとき、おどろの盾を構えていたドルガは元より、そこからずっと離れた場所にいた闇の軍勢も、半数以上が姿を消していました。願い石の支援を受けた金の石が強烈に照らして、ごっそり消し去ったのです。

 将軍は後方でまだ生き残っていましたが、フルートの両脇にまだ二人の精霊がいるのを見て、作戦を変更しました。

「娘を捕らえるのは後回しだ! まず敵の砦を占拠する! 行け!」

 と眼下のハルマスを示します。

 空に残っていた軍勢は、フルートには近づきたくなかったので、すぐに降下を始めました。ハルマスは周囲を魔法の防壁で囲まれていますが、空はがらあきになっていました。砦の中へ次々舞い降りていきます。

「あ、この野郎!」

「メール、ポポロ、追うぞ!」

 ゼンとフルートの声に白い花の繭がほどけて花鳥に戻りました。敵を追ってハルマスへ降りていくフルートたちの後を追いかけます。

 すると、花鳥の背後に将軍がいきなり姿を現しました。空間移動してきたのです。

「やはり出てきたな。そら、天空の娘をよこせ!」

 とポポロへ腕を伸ばし、同時にメールへ太い槍を繰り出します。メールはかわそうとしましたが、間に合いません。

 とたんに、ざざっと鳥の体からまた白い花が離れました。花の壁を作って立ちはだかります。将軍の槍は花の壁に当たって砕けました。ポポロを捕まえようとした手も壁に跳ね返されます。

「この──!」

 将軍が大剣を振り下ろすと、花の壁が切り裂かれて隙間ができました。そこからまたポポロを捕らえようとしたので、メールが花で防ごうとします。

 すると、将軍は急に動きを止めました。手はポポロへ伸ばしたままですが、のけぞるような姿勢になって背後をにらみます。

 そこにはポチに乗ったフルートがいました。気がついて飛び戻ってきたのです。将軍の喉元に光炎の剣を突きつけて言います。

「ポポロに手を出すな。彼女は渡さない」

 将軍は顔を歪めて牙をむきました。握っていた大剣ともう一本の剣と槍とで、いっせいにフルートに攻撃します。武器の切っ先はすべてフルートの顔を狙っています。

「光れ!」

 とフルートがまた叫ぶと、金の石が輝いて、将軍の武器を腕ごと溶かしました。さらに将軍の翼も溶かしたので、将軍は墜落していきました。大きな石のように地面に激突して見えなくなります。

 ふぅ、とフルートは息を吐きました。ポポロとメールが無事なのを確かめると、すぐに言います。

「ハルマスが空から襲撃される。守るぞ!」

「ええ!」

「あいよ!」

 ハルマスへ舞い降りていく闇の軍勢を追って、フルートたちは急降下していきました──。

2020年12月11日
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