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第27巻「絆たちの戦い」

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67.防衛

 フルートたちが空に舞い上がると、東から押し寄せてくる敵が見えました。空と地上に分かれていますが、カラス天狗が言っていたとおり、敵がいる場所が真っ黒に見えます。大勢いるだけでなく、その大半が黒い姿をしていたからです。

「ほとんどが闇の民だ。ところどころに闇の怪物もいるけどな」

 とゼンが目をこらして言いました。ポポロの魔法使いの目に闇の敵は映らないので、敵まで距離がある今は、ゼンの視力が頼りでした。

「カラス天狗は闇の民も怪物だと思ったのかぁ。まあ、似たような感じだもんね」

 とメールが言いました。闇の民は黒髪に血のような赤い目、頭には角があって牙や長い爪があるのが標準の姿です。背中に黒い翼を持つ者もいて、それらが空を飛んでやってくるのでした。

 ハルマスからディーラへ避難する宙船も、迫ってくる敵に気がつきました。甲板にいた人々が東を指さして大騒ぎを始めます。

 空飛ぶ敵が進路を変えたので、ポチとルルが言いました。

「ワン、敵が船に向かい始めましたよ!」

「船を襲うつもりだわ!」

「船へ全速力! 守るんだ!」

 フルートの指示に犬たちと花鳥は速度を上げました。ポチにはフルートが、ルルにはゼンが、星の花でできた花鳥にはメールとポポロが乗っています。

 

 接近していくと、フルートたちにも空飛ぶ敵の姿がはっきり見えてきました。角と翼がある闇の民の集団です。翼は人によって鳥のようだったりコウモリのようだったりするのですが、全員が黒い服に黒い胸当てを装備し、黒い象徴を鎖で体に巻き付けています。

「あれって闇王の親衛隊だよね。なんていうヤツらだっけ?」

 とメールが言ったので、フルートが答えました。

「トアだな。親衛隊の上から三番目の地位の連中だ。上から二番目のドルガもいるぞ」

 ドルガと呼ばれる親衛隊員は、全身に黒い鎧をつけて、トアより強力な装備をしていました。腕が四本もあって、それぞれに剣や槍などを握っています。象徴を鎖で体に巻き付けているのはトアと同じです。

「親衛隊は闇王に忠誠を誓う代わりに、強い力や魔力を得ている。あの象徴は忠誠の証で、闇王を裏切ると爆死させられるんだ」

 とフルートは話し続けました。以前、闇の国へ行ったときに得た知識です。

「だから闇王は親衛隊を思い通りに動かせるんだよね。あの中に闇王もいるかい?」

 とメールが言うと、ゼンは空の敵を見回して言いました。

「それらしい奴はいねえな。地上のほうにいるんじゃねえのか?」

 地上では、ハルマスの東の森から次々黒い敵が出てくるのが見えていました。本当に湧いてくるような数です。ただ、ここからでは距離がありすぎて、さすがのゼンにも見極めることはできませんでした。地上の敵は黒い川のようにハルマスへ押し寄せていきます。

 すると、ハルマスの東の防塁の上に、ぼうっと白い光が湧き上がりました。光が横に移動して連なっていきます。防塁の上の防壁が光り出したのです。

「聖なる魔法の光! 天狗さんたちよ!」

 とポポロが言いました。防塁の上で天狗やカラス天狗が防壁に手をかけていたのです。妖怪たちが完成させた防壁には、闇の敵を防ぐ力が備わっているのでした

「あっちは彼らに任せて、ぼくたちはこっちだ!」

 とフルートはポチと一緒に船へ飛び続けました。ゼンとルル、メールとポポロと花鳥がそれに続きます。

 ところが、彼らが到着するより早く、敵が宙船に追いつきました。甲板の人々は悲鳴を上げましたが、船は満杯で逃げる場所がありません。

 立ちすくむ人々へトアが槍を投げつけました。闇魔法で作られた槍は、飛びながら何十本もの槍に分かれて甲板に降り注ぎます──。

 

 そこへフルートたちが飛び込んできました。ポチとルルが船の上で渦を巻いて槍を吹き飛ばします。

 メールは花鳥を船の上ぎりぎりまで降下させると、ぽん、と鳥の首をたたきました。ざざっと音がして、水色だった鳥の体が防御力の高い白い色に変わります。メールがもう一度たたくと、鳥が今度は二回りも小さな青い姿に変わりました。鳥の表面からいっせいに白い花が離れたのです。メールとポポロは小さくなった青い鳥に乗っています。

「お行き、花たち! 船のみんなを守るんだよ!」

 メールが命じると、白い花はさらに降下して広がり、船の上に白い花の天井を作りました。そこへトアの槍がまた降り注いできましたが、花天井にぶつかると砕けてしまいました。

「よし、攻撃だ!」

 とフルートはトアの集団へ向かっていきました。背中から光炎の剣を抜きます。

 ゼンは弓に光の矢をつがえていました。突進してきたトアをかわすと、振り向きざま矢を放ちます。矢は光りながら飛んで敵の翼に命中しました。燃えるように光って翼を消滅させます。

 敵は真っ逆さまに落ちていきましたが、それを助けようとするものはいませんでした。そんな仲間意識は闇の民にはないのです。墜落したトアが地面に激突して土煙を上げます。

 ゼンは舌打ちしました。

「あれでもたぶん死なねえんだよな。ったく、丈夫な連中だぜ」

「降りてとどめを刺す?」

 とルルが尋ねましたが、ゼンは首を振りました。

「んな暇はねえ。お次さんがどんどん来るからな」

 ゼンの言うとおり、敵の大軍が彼らへ押し寄せていました。フルートはすでに数体のトアと剣や槍を交えて戦っています。

 ゼンは次の矢をつがえて、向かってくるトアへ放ちました。矢がまた命中して、トアが墜落していきます。

「このまま距離をとれ、ルル! 連中には光の武器しか効かねえし、俺にはこの光の矢しかねえからな!」

 とゼンが言ったので、ルルは敵から遠すぎず近すぎない距離を飛び回りました。ゼンが狙いを定めては矢を放ちます。

「あたいたちも攻撃だよ!」

 とメールが言うと、花鳥は上昇を始めました。敵の集団の真上に行くと、翼をすぼめて降下して、くちばしで敵を突き刺します。青い星の花は聖なる攻撃力に優れているので、串刺しにされたトアが燃えるように光りながら落ちていきます。

 

 すると、ポポロが急に叫びました。

「危ない、フルート!」

 戦うフルートの背後から、四本腕のドルガが迫っていたのです。手に持っていた剣や棍棒をフルートへ振り下ろします。

 ポポロの声を聞いたポチは、とっさに急降下しました。ドルガの武器がフルートと戦っていたトアたちに命中して、たたき落としてしまいます。

 ドルガがすぐに向きを変えて襲ってきたので、フルートは剣を振り上げました。降ってきた大剣をがっちり受け止めますが、その横腹にドルガの棍棒が命中しました。強烈な一撃に吹き飛ばされて、フルートがポチから飛び出してしまいます。

「ワン、フルート!」

 ポチはあわてて後を追いましたが、それより早くドルガが急降下していきました。空中でフルートを捕まえると、剣を顔に突き立てようとします。

 すると、フルートの胸で金の光が広がりました。墜落した拍子にペンダントが胸当てから飛び出していたのです。

 光を浴びてドルガは悲鳴を上げました。フルートを放り出して顔を押さえます。

 その間にポチが追いついてフルートを背中に拾いました。棍棒に直撃されたフルートですが、金の鎧に守られているので怪我はありません。

「もう一度ドルガへ!」

 フルートの指示にポチはドルガへ飛びました。聖なる光に焼かれたドルガは、まだ顔を押さえて苦しんでいました。フルートがペンダントを突きつけて叫びます。

「光れ、金の石!」

 再び魔石が輝き、ドルガの全身を照らしました。ドルガの体がたちまち溶け出します。翼も消滅して、ドルガは墜落していきました。地上に落ちる前に完全に消滅してしまいます。

 フルートは自分自身のことのように顔を歪めてそれを見送っていましたが、すぐにまた別の敵が襲ってきたので、戦いに引き戻されました。数人のトアと二人のドルガに取り囲まれてしまいます。

「船が!」

 とポポロがまた叫びました。

 どんなに懸命に戦っても、彼らは四人と二匹しかいません。大部分のトアやドルガは、彼らを無視して宙船を追っていたのです。その先頭が船に追いつこうとしていました。船の上は星の花で守られているので、花と船の隙間から甲板の人間に襲いかかろうとします。

「んなろ!」

 ゼンは立て続けに矢を放ちましたが、距離がありすぎました。光の矢は敵に届く前に失速して落ちてしまいます。

「花鳥!」

 メールは急いで助けに飛んでいこうとしましたが、行く手をトアの集団に塞がれました。何十という槍が襲ってきたので、あわてて上昇して避けます。

 フルートも敵と激しく戦っていて、船を助けに行けません。

 こうなったらあたしが、とポポロが魔法を繰り出そうとします──。

 

 すると、いきなりドンと轟音が響いて、船に群がっていた敵が吹き飛びました。ばらばらになって地上へ落ちていきます。

 宙船の船体を包んでいた霧の一部が消えて、太い筒のようなものが突き出ていました。筒からは青白い光が薄い煙のように立ち上っています。

「なにさ、あれ!?」

 と驚くメールに、ポポロがもっと驚いた顔で答えました。

「魔大砲だわ……。増強した魔法を撃ち出して、敵の集団を打ち砕くの。まさか地上にあるなんて」

 ヒムカシの帝妃のカグヤが送り出した宙船は、天空の国の武器を搭載していたのです。

「ったく。あんなすげえ武器があるんなら、最初からそいつをぶっぱなしゃよかったじゃねえか」

 とゼンが文句を言うと、ルルが反論しました。

「そうはいかないわよ! あの手の武器は一定量まで魔力を溜めなくちゃいけないから、使えるようになるまで時間がかかるんだもの!」

 宙船がまた魔法の大砲を発射しました。

 青白い弾は敵の集団に飛び込むと、そこで炸裂して敵を吹き飛ばしました。光の魔法の弾なのですから、闇の者たちには効果絶大です。トアもドルガもばらばらに吹き飛ぶと、黒いゴミのように地上へ落ちながら消滅していきます。

 敵が大きく退いたので、宙船は北へ向かって進んでいきました。その先に目ざすディーラがあります。

 敵が船を追いかけなくなったので、メールは呼びかけました。

「お戻り、花たち!」

 甲板の人々を守っていた白い花が船を離れて飛び戻り、青い花鳥と一緒になって水色に変わります。

 一方フルートとポチは敵と戦い続けていました。槍も剣もフルートの防具を貫くことはできませんが、とにかく数が多くて、いくら切っても防いでも敵が減らないのです。

 ついにフルートはまた叫びました。

「光れ!」

 たちまちまた金の石が輝き、闇の敵は光に焼かれて落ちていきました。魔大砲に撃たれた仲間と同じように、墜落しながら消滅していきます。

 ゼンが飛んで来て顔をしかめました。

「あんな奴らに何をためらってやがる。後が山ほど控えてるんだから、とっととやっつけろ」

「ごめん」

 とフルートがいつものように謝ります。

 

 そこへ黒いつむじ風のように地上から駆け上がってきたものがいました。ハルマスへ移動する敵の軍勢から、ひときわ大きな闇の民が飛び上がってきたのです。頭にはねじれた大きな角があり、黒と金の鎧を着込んで親衛隊の象徴を巻いています。背中の翼は巨大なコウモリのようでした。腕はドルガよりも多い六本です。

「ワン、将軍だ!」

 とポチは言いました。六本腕は闇王の親衛隊の頂点に立つ将軍の証拠なのです。

 将軍は宙船を追いかけられなくて右往左往する部下を叱り飛ばしました。

「貴様らは何をしている!? 聖守護石が二度も光ったのに、まだわからんのか!? 貴様らが倒す敵はそこだ! 金の石の勇者を殺して、天空の国の娘を奪い取れ!」

 どなり声と共に、将軍の腕の中の二本がフルートとポポロを指さしました──。

2020年12月4日
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