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第27巻「絆たちの戦い」

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49.心配

 青の魔法使いがユギルの部屋にやってきたのは、フルートたちが部屋を出ていってから三十分ほど後のことでした。

 武僧の魔法使いはハルマスでオリバンに事件について報告してから、フルートたちの後を追ってきたのですが、ディーラは度重なる魔法戦争の影響で空間移動ができなくなっているので、その分時間がかかったのです。

 アマニはメーレーン姫の元へ戻り、ロウガも占神のところへ行ってしまったので、部屋にはユギルとリーンズ宰相と赤の魔法使いだけが残っていました。

 青の魔法使いはユギルと宰相に一礼して、さっそく切り出しました。

「遅くなって申し訳ありません。大まかなところは赤から心話で聞きましたが、ポポロ様をさらった犯人がサータマンではなくルボラスだというのは、確かなのでしょうか? サータマンやルボラス以外にも飛竜を買い入れた国はあったかもしれないし、サータマン王がルボラスのしわざに見せかけている可能性もあるのではありませんか?」

 銀髪の占者はうなずきました。

「もちろん、その可能性はございます。ですが、わたくしの直感は、ポポロ様がルボラスにいることを是としております。占盤にも象徴は現れてまいりませんが、直感がこう知らせてくるとき、それはいつも当たっております」

 聞きようによっては自信過剰にも思えることばでしたが、ユギルの口調は淡々としていました。事実を事実として述べているだけなのです。この直感と占盤を使った正確な読み取りの両方ができるおかげで、ユギルは大陸随一の占者と呼ばれていました。

 武僧は難しい顔になって、ひげの伸びた顎を撫でました。

「勇者殿たちはルボラスに飛んでいこうとしたのではありませんか? ハルマスでサータマン王が怪しいと思いついたとたん、一目散にサータマンへ飛んでいこうとしたので、必死で説得して、ユギル殿の元へ行かせたのですが」

 すると、宰相がうなずいて言いました。

「それは大変賢明な判断でした。サータマンに乗り込んでいっても、ポポロ様はいらっしゃらないのですから、サータマン王はこれ幸いと『言いがかりをつけられた。サータマンに対する宣戦布告だ』と言いだして、我が国へ侵略を始めたことでしょう。危ないところでした」

「ガ、スノ、サ、デ」

 と赤の魔法使いが言ったので、青の魔法使いはますます難しい顔になりました。

「明日の朝までしか待てない、と勇者殿がおっしゃったのですか……。こうと言ったら絶対に譲らない方ですからな。明日になったら、本当にルボラスへ飛んでいってしまうでしょう」

「勇者殿たちはルボラスへおいでになります。それは占盤にもはっきり現れているのです──」

 とユギルは言い、机に載ったままの占盤を見つめて続けました。

「ですが、行くべき場所もわからずに飛んでいけば、皆様方は必ず迷われます。無駄な時間が過ぎて手遅れになる、という予兆が出ているのです。明朝までに、なんとしても行くべき場所を見いださなくてはなりません」

「それは……できそうですかな?」

 と武僧の魔法使いは無礼を承知で尋ねました。もうこれ以上フルートたちを引き止めてはおけないとわかっていたので、聞かずにはいられなかったのです。

「そのために青の魔法使い殿をお待ちしておりました」

 とユギルは答え、不思議そうな顔になった武僧や他の人々に言いました。

「皆様方にご協力いただきたいのです。ロムド城の家臣や魔法軍団の中に、ルボラスの出身者はいらっしゃらないでしょうか? その方の助けが必要なのです」

「やや、ルボラスの出身者ですか?」

 と武僧は聞き返し、宰相も困惑して言いました。

「これはなかなか難しいご注文です……。ルボラスと我が国の間には国交がありません。しかも、向こうは海運を中心とした商業国で、内陸にある我が国と直接関わる部分がないので、ルボラス人はロムド城にはほとんどいないのです。もちろん、城下に行けば、ルボラスからの旅人は見つかるとは思いますが」

 占者は首を振りました。

「流れてきた者はすぐには信用することができません。身元を確認している間に、勇者殿たちは旅立たれてしまいます。信用がおけるルボラス人をご存じありませんか?」

「魔法軍団の魔法使いなら、むろん信用できますが、ルボラスの出身者がいたかどうかは……」

 と青の魔法使いも考え込んでしまいます。

 すると、猫の目の魔法使いが何かを言い、武僧がうなずき返しました。

「そうですな。ハルマスの工事に集まっている中に、ルボラス人がいるかもしれない。ハルマスにいる部下たちに、信用できそうなルボラス人を探すように言ってみましょう」

「私もレイーヌ侍女長に伺ってみましょう。侍女や下女の中にルボラス出身者がいるかもしれません」

 とリーンズ宰相も言って、さっそく部屋を出て行きます。

「よろしくお願いいたします」

 とユギルは頭を下げると、ハルマスの部下と心話で連絡を取り始めた魔法使いたちを見守りました──。

 

 一方、部屋に戻った勇者の一行は、少年たちの部屋に集まっていました。今すぐにでもポポロを助けに飛んでいきたいのですが、ユギルと約束したので、焦る気持ちをこらえて待ち続けます。

 メールはゼンのベッドに寝転がっていました。いつも元気な彼女もさすがに落ち込んで、布団に突っ伏していましたが、やがてちょっと顔を上げて言いました。

「ねえさぁ……明日の朝まで待ってもユギルさんにポポロがいる場所がわかんなかったら、どうするんだい? ルボラスに飛んでいって……その後は?」

 ポチはゼンとフルートのベッドの間でルルをなめていましたが、それを聞いて言いました。

「ワン、ルボラスは広い国なんですよね。南大陸の北の端の三分の二はルボラスだから──。ルボラスに飛んでいっても、その後どこに行けばポポロが見つかるのか、わからないだろうな」

「相変わらずポポロとは連絡がつかねえのか?」

 とゼンが尋ねたので、ルルは泣きながら首を振りました。彼女は部屋に戻ってからずっとポポロを呼び続け、いくら呼んでも返事がないので泣き出していたのです。

 ったく! とゼンはフルートのベッドへ仰向けに倒れました。

「ポポロが南大陸の魔法で捕まってんなら、赤さんの力でなんとかできねえのかな。フルートがマモリワスレの術にはまって、それを解いてもらったみてえによ。ポポロが返事してくれりゃ、どこにいるのかわかるんだぞ」

「ワン、いくら赤さんでも、ポポロの近くに行かなくちゃ術は解けないですよ。やっぱりポポロを見つけるほうが先なんだ」

 とポチは言うと、また激しく泣きだしたルルをせっせとなめてやりました。全員がポポロの心配をしているのですが、どうすることもできないし、どうしたらいいのかもわかりません。

 フルートは窓際の椅子に座って、じっと外の景色を見ていましたが、そのままの姿勢で口を開きました。

「ポポロの居場所がわからなくても、ルボラスには行くよ。マシュア港に行く。あの大陸に行くのには船を使うし、その船はほとんどがマシュア港に入るからな。そこでポポロを見かけた人がいないか聞いてみる」

 するとルルが泣きながら言いました。

「でも、犯人が船じゃなく飛竜でポポロを連れて行ったら──!? 南大陸は魔法を使っても入り込めないから、船で渡るしかないって言われてるけど、私たちなら空を飛んで簡単に行けるのよ! きっと飛竜でも飛んでいけるわ!」

「そのときには、飛竜を見かけた人がいないか聞く」

 とフルートは答えました。外を見つめたまま、あとはもう何も言わなくなってしまいます。午前中まで晴れていた空は、いつの間にか灰色の厚い雲におおわれていました。今にも雨が降り出しそうです。

 もし雨が降リ出してやまなかったら、風の犬にはなれないから、明日は出発できないかもしれない──とポチは考えました。それとも、メールが作った花鳥に全員で乗ればいいかな……?

 けれども、ポチは自分の考えを口には出しませんでした。悲しみ、心配、怒り、混乱。部屋には仲間たちのそんな感情が充満しています。今は何を言っても、みんなの不安をあおるだけです。

 そんな中、誰よりも強い決意の匂いをさせているのはフルートでした。表情も態度も静かですが、その奥に強い怒りの匂いも潜んでいます。何があっても、何に邪魔をされても、必ずポポロを見つけて助け出す! フルートはそう心に決めているのです。

 明日は雨になりませんように。そして、ユギルさんがポポロの居場所を見つけてくれますように。

 ポチは心の中で願って、フルートが見つめている空を一緒に眺めました──。

2020年9月25日
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