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第27巻「絆たちの戦い」

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41.青の魔法使い

 ハルマスの船着き場にやって来た青の魔法使いに、勇者の一行は駆け寄りました。見上げるような彼を取り囲んで、口々に話しかけます。

「ロムド城から派遣されてきたのって、青さんだったんだね!」

「ワン、四大魔法使いの誰かが来てくれるって聞いていたんですよ!」

「いつハルマスに来たんだ? 意外と早かったよな!」

「オリバンたちには会った? 作戦本部にいるのよ」

「もちろんです。まず殿下たちにご挨拶に本部に回ったら、勇者殿たちがつい先ほどまでいたと聞かされたので、急いで後を追ってきたのです」

 と青の魔法使いは答えました。見るからにいかつい人物ですが、顔をほころばせて、にこにこと勇者の一行を見回しています。

「ハルマスが闇の怪物に襲われたから、闇に強い青さんが来てくれたんですね……」

 とポポロも言いました。引っ込み思案の彼女も、青の魔法使いにはあまり抵抗なく話せます。

「その通りです、ポポロ様。セイロスも闇魔法を使うので、私か白のどちらかということで、結局私に決まったのです。都の中と周囲は空間移動ができませんが、都を離れれば飛べますからな。郊外からひとっ飛びでハルマスに来ました」

 と青の魔法使いは言いました。彼と白の魔法使いは、どちらも神に仕える魔法使いなのです。

 フルートが真面目な顔で言いました。

「ぼくと願い石を追いかけていた闇の怪物が、おどろに変わっていたんです。みんなの協力でなんとか倒せたけれど、かなり苦戦しました。青さんが来て下って、本当に良かったです」

 それを聞いて、武僧の魔法使いはいっそう上機嫌になりました。

「お任せください、勇者殿。そのために私が派遣されてきたんですからな。私にできることであれば、なんでも協力いたしますぞ」

 と胸を張ります。

 

 すると、フルートはちょっと考えてから、こんなことを言い出しました。

「実は、本当にお願いしたいことがあるんです……。ぼくの剣の稽古の相手になってもらえませんか?」

 意外な話に青の魔法使いは驚きました。

「剣の稽古ですか? 私は素手と魔法で戦う武僧なのですが、それで相手が務まりますかな?」

「ただの剣ではないんです」

 とフルートは言って、背中の大剣を外して掲げました。銀と黒を組み合わせた柄や鞘に、赤い炎の石がちりばめられています。

 ふぅむ、と武僧は剣を眺めました。

「なるほど。これが炎の剣と光の剣をひとつにしたという魔剣ですか。鞘に収まっていても大変な力を感じますな──。確かに、常人にこの剣の相手は務まらんでしょう」

「直接、剣の手合わせをしてほしいわけじゃないんです。光炎の剣は、かすっただけで相手を燃やしてしまうから、危険すぎます。ただ、青さんなら魔法で稽古ができるんじゃないかと思うんです」

 それを聞いて、ゼンも身を乗り出しました。

「そういうことなら俺も混ぜろよ! 俺もこの光の矢を使うようになったんだけどよ、練習したいのに闇のもの以外は素通りしちまうから、練習にならねえんだ。青さんの魔法なら、なんとかできるんじゃねえか?」

「ほうほう、なるほど。それは面白い提案ですな。確かに、私なら勇者殿たちの稽古相手ができるかもしれません。どれ、ちょっと行って、殿下からご許可をいただいてきましょう。勝手にハルマスで稽古を始めて、お叱りを受けたら大変ですからな」

 すぐに戻ってきます、と青の魔法使いは言い残して姿を消し、本当に、五分とたたないうちにまた戻ってきました。

 その隣に、黄色い頭巾と服を着て、同じ色の口布をつけた術師もいたので、フルートたちは目を丸くしました。

 青の魔法使いが笑いながら言いました。

「殿下のところへご許可をいただきに行ったら、ちょうどラク殿もおいでで、協力していただけることになったのです」

 ユラサイの術師は少年少女の一行に丁寧に頭を下げました。

「青の魔法使い殿おひとりで二人のお相手は大変かと思いまして、及ばずながらわしも手伝いに参りました──。帝とリンメイ様もご一緒だったのですが、ユラサイの属国軍が資材と共に到着したので、帝たちはそちらへおいでになりました。勇者殿たちの稽古が見られないというので、帝は大変残念がっておいででした」

 ラクが使う術も非常に強力だったので、フルートたちは喜びました。さっそく稽古を始めようとすると、青の魔法使いに止められました。

「殿下からのお達しです。稽古をするなら、絶対に人家の近くでやるな。建設現場の近くや、船着き場などの設備からも充分に距離を取れ。おまえたちの稽古で破壊されては大変だからな──とのことです」

 オリバンから危険物のように言われてしまって、フルートは苦笑しましたが、ゼンのほうは納得できなくて口を尖らせました。

「なんだよ、それ。俺たちはただ手加減抜きで実戦の練習をしようってだけだぞ」

「それ、絶対に危険だろ!」

「そうよ! みんなものすごい魔法や武器を使うんですもの!」

 とメールやルルが反論します。

 ポチは湖に沿った岸を眺めて言いました。

「ワン、西のほうに割と広い砂浜がありますよ。あのあたりはまだ工事も進んでないから、あそこがいいんじゃないかな」

「では、そちらへまいりましょう」

 と青の魔法使いが言い、全員はぞろぞろと湖岸を西へ歩き出しました──。

 

 めざす砂浜は船着き場から歩いて十五分ほどの場所にありました。思ったより距離があったのですが、その分ハルマスの町から離れているので、影響は少なくてすみそうでした。

 ただ、砂浜と野原の境目に小さな苗木がずらりと植えられていました。

「風よけにするのに植えたんだな」

 とフルートは言って考え込みました。魔法を使った稽古なので、苗木を傷めてしまうかもしれない、と心配したのです。

「もっと先に行くか?」

 とゼンが言うと、ポポロが遠い目で先を見て首を振りました。

「この先もずっと苗木が植えてあるわ……湖を木で囲んで風を防ごうとしているのね」

 青の魔法使いはうなずきました。

「デセラール山から吹き下ろす風が、湖を渡ってハルマスに吹きつけますからな。冬場には猛吹雪になることもあるのですよ。だが、ここは広さがあって稽古にはいい場所だ。こういたしましょう」

 魔法使いが腕を上げると、手の中に太い杖が現れました。こぶだらけのクルミの杖です。それで、どん、と砂浜を突くと、青い光が湧き上がって、みるみる広がっていきました。中が空洞の巨大な光の半球ができあがります。

 ラクが感心しました。

「障壁の中で稽古しようというのですか。なるほど」

 青の魔法使いは杖の先で半球をたたいてみせました。光でできているように見えますが、杖が当たると、コツコツとガラスをたたくような音がします。

「この中であれば、相当暴れても、外には影響がありません。存分にいきましょう。お嬢様方は外にいてください。巻き込まれて大変ですからな」

 ルルやメールはたちまち不満そうな顔になりました。

「私たちは外なの? 近くで見たいのに。ポポロ、私たちに守りを魔法をかけられない?」

「っていうか、あたいたちも稽古に混ざりたいよね。こんな立派な稽古場なんだからさ」

 それを聞いて、青の魔法使いは慌てたように手を振りました。

「勘弁してください。お嬢様方まで加わったら、私とラク殿ではとてもかないません。城から白たち全員を呼んでこなくては」

 するとポチも言いました。

「ワン、メールたちも混ざったら、こっちが有利すぎて稽古になりませんよ。大丈夫、障壁は透き通ってるから、外からでも見えますよ。でも、ぼくは中に入っていいですよね? フルートはぼくに乗って戦うことが多いんだから、実戦の練習なら、ぼくも参加しなくちゃ」

 ポチが張り切って尻尾を振っていたので、ルルは腹を立てました。

「あなたばかりずるいわ! それなら私も一緒に入るわよ! ゼンは私に乗ることが多いんだもの! いいでしょう!?」

「いや、それはだめだ。ポポロの警護が少なくなってしまうからな」

 とフルートが反対したので、ポポロはとまどって言いました。

「でも、闇の気配はもう全然していないわ……。あたしは今日の魔法をまだ一つも使っていないし、大丈夫よ」

 けれども、ルルはすぐに納得しました。

「そうね、フルートの言う通りだわ。闇の匂いはしないんだけど、万が一ってこともあるものね。我慢するわ」

「あたいもずっとポポロについてるから、あんたたちは安心して稽古に専念しなよ」

 とメールも言います。メールは気持ちが変わりやすいので、もうさばさばした口調になっています。

 ありがとう、とフルートは言うと、ゼンやポチ、青の魔法使いやラクと一緒に半球の前に立ちました。

「どれ、では始めますかな」

 魔法使いがまた杖でたたくと、青い半球の表面にぽっかり入り口が開きました──。

2020年9月7日
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