「勇者フルートの冒険」シリーズのタイトルロゴ

第27巻「絆たちの戦い」

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38.おどろ・2

 フルートがおどろへ自分の正体を明かしたので、仲間たちは顔色を変えました。

「あの馬鹿、また──!」

 とゼンがフルートへ駆けつけようとします。フルートが自分を囮(おとり)に、おどろを惹きつけようとしたのだと思ったのです。

 ところが、すぐにフルートにどなられました。

「そこから動くな、ゼン!」

「ワン、おどろもこっちに来ませんよ!?」

 とポチも驚いていました。フルートが、自分が金の石の勇者だと言っているのに、おどろはやっぱり人夫と花鳥を追いかけていたのです。

「ことばを話すことができても、ことばを理解することはできないのか」

 とフルートは言うと、改めてペンダントをつかんで突き出しました。

「光れ!」

 フルートの声と共に金の光がほとばしり、おどろの腕と体の一部を溶かします。

 けれども、おどろは巨大だったので、金の石は全部を溶かすことができませんでした。石が光を収めると、ひとまわり小さくなったおどろが、たちまちまた元の大きさに戻ってしまいます。

「今のハ──聖ナル金のヒカリ──」

 おどろはさざ波を立てながら言いました。

「金ノ光を出せるノハ金ノ石──デハ、オマエがキンのイシの勇者かァァ──」

 おどろの腕がフルートへ伸び始めました。ポチが逃げ出すと、後を追って伸ばしていきます。

 それを振り向いて眺めて、フルートが言いました。

「やっぱり、奴はあそこから動かない!」

 おどろの本体は空堀の外れにうずくまったまま、一歩も動かなかったのです。

「おどろって動けたわよね……?」

 とポポロが言いました。ポチが全速力で飛んでいるので、吹き飛ばされないようにフルートにしがみついています。

「動けた。ジタンではぼくたちを追いかけ回したからな。ただ、その場所からまったく動かなくなったときもあったんだ」

「ワン、それって──?」

 とポチは尋ねて、あわてて身をかわしました。おどろの腕が追いつきそうになったのです。本体は動かなくても、どこまでも腕を伸ばしてくるのですから、やっかいでした。

 フルートは言いました。

「ポチ、捕まらないように引き返すんだ! ポポロ、ゼンたちに伝えてくれ!」

「な、なんて?」

「おどろの中に誰かが捕まっている──!」

 

「誰かが捕まってるだぁ?」

 ポポロが伝えてきた話に、ゼンはあきれました。おどろは何でも呑み込んで食ってしまう怪物なのですから、それに呑み込まれたらひとたまりもないような気がします。

 けれども、ルルは言いました。

「フルートも私たちも、前におどろに呑まれたじゃない。あのとき確かにおどろは動かなくなったわ。私たちを消化しようとしたのに、金の光が私たちを守っていたから、動くに動けなくなったのよね」

「てぇことは、あそこに呑まれてる奴も、消化されねえように自分の身を守ってるのか?」

「きっと魔法軍団の魔法使いだ!」

 と飛び戻ってきたフルートが言いました。おどろの腕が追いつきそうになったので、光炎の剣で切りつけます。

 光りながら燃えていく腕を見ながら、フルートは言い続けました。

「この剣で本体を切ると、中の人まで燃やしてしまうかもしれないんだ。まず中の人を助けよう。それからおどろを消滅させる──。ルル、風の刃でおどろを切り裂け! ゼンは光の矢でできるだけおどろを消すんだ!」

「フルート、あたしは!?」

 とポポロが尋ねました。

「ポポロは待機だ。奴を消滅させるのに魔力が必要だからな」

「あたいも来たよ──!」

 と飛んできた花鳥からメールが言いました。おどろが人夫を追い回さなくなったので、安全な場所に人夫を下ろして戻ってきたのです。

「メールも青い花鳥でおどろを攻撃してくれ! で、隙を見て中の人を助け出すんだ!」

「あいよ!」

 張り切るメールの後ろで、オーダがわめきました。

「俺を忘れるなと言ってるだろうが! こんな有能で優秀で男前な戦士の力を借りないってのは、いったいどういうつもりだ!?」

「ああもう。まざりたきゃ勝手にまざればいいだろ!」

 メールがうるさそうに言い返します。

 

 おどろがまた腕を伸ばしてきたので、ポチはフルートたちと逃げ出しました。おどろはフルート以外のものには目を向けないので、本体からできるだけ離れようとします。

 その間にルルが急降下して、おどろのすぐ上で身をひるがえしました。長い風の尾を刃に変えておどろを切り裂きます。

「よぉし!」

 おどろにできた深い切れ目へ、ゼンは立て続けに矢を打ち込みました。矢が光に変わり、おどろの泥の体を消していきます。

 が、中に捕らえられている人はまだ姿を現しませんでした。光の矢が消滅させるより早く、黒い泥が再生していきます。

 すると、そこへ花鳥が舞い降りてきました。メールの後ろでオーダが片膝立ちになって大剣を振り下ろします。

「そぉら! 黒妖分散疾風剣!」

 ゴゴゥ、と音を立てて剣から風がわき起こり、おどろに激突しました。再生を始めていた体を吹き飛ばします。

「なにそれ。魔剣の技かい?」

 とメールが驚くと、オーダは得意そうに胸を張りました。

「おう、そうだ。なかなかいいだろう?」

「おどろの中に何かがちょっと見えたわ! オーダ、今の技をもう一度やってよ!」

 とルルが言いました。ゼンはものも言わずに光の矢を射続けています。光と共に消えていく泥の中に、確かに白く光るものが見え隠れしていたのです。

 オーダはまた剣を高く構えると、勢いよく振り下ろしながら言いました。

「そら、もういっちょ行け! 黒妖──えぇと、なんだっけ? とにかく泥んこを吹き飛ばせ剣だ!」

「何さ、その技名?」

「さっきのと全然違うじゃない。でたらめなのね?」

 メールとルルがあきれると、オーダは悪びれることもなく答えました。

「名前なんかどうでも、威力は同じだ」

 オーダの後ろでは、吹雪がどうしようもないという顔をしています。

 

 けれども、オーダが起こした風のおかげで、おどろの体はだいぶ吹き飛ばされました。黒い泥の塊の中に白く光る球体が現れます。光の障壁です。

 また頭上に引き返してきたフルートが仲間たちに言いました。

「メール、救出しろ! ゼン、ルル、メールを援護だ!」

 ポチが円を描いて飛んだので、後を追うおどろの腕も空中で円を描き、とぐろを巻いた蛇のようになっていきました。フルートは光炎の剣を構えて腕を断ち切り、そのままポチと回転してとぐろを切り裂いていきました。とぐろが一瞬輝いてから炎に包まれます。

 メールは花鳥を急降下させて、同時に花鳥をたたきました。ザザッと花が動いて、鳥の全身が青くなります。攻撃力が強い青い花が表面に現れたのです。

「お行き!」

 メールが言うと、花鳥から鞭のように花の蔓が飛びました。先端は剣のように尖っています。それで黒い泥を切り裂き、白い球体を泥から切り離します。

「金のイシの勇者──!」

 とおどろが叫んで球体を取り戻そうとしました。飛び散った泥が戻ってきて球体を包み直そうとします。

 メールはまた花鳥をたたきました。ザッと音がして今度は鳥が白くなります。花の蔓も白く変わって網のように広がりました。光る球体を包み込むと、そのまま空へ持ち上げていきます。

 おどろは追いすがりましたが、花の網に触れると光が広がって、おどろを押し返しました。

「おどろの奴、あれも金の石の勇者だと思ってるのか? フルートはあっちにいるってのに」

 とゼンが矢を射ながら言いました。

「そういえば、フルートを追いかけてた闇の怪物って、みんな頭が良くなかったわよね。おどろになっても、そこは変わらないんだわ」

 とルルが酷評します。

 

 そこへまたポチが戻ってきました。花鳥を追う腕をフルートが断ち切って言います。

「おどろを消すぞ! ポポロ、準備はいいな!?」

「いつでも!」

 とポポロがうなずきます。

 フルートはペンダントを外して、おどろへ突きつけました。

「光れ!」

 たちまちペンダントが輝き出しました。金色の光でおどろを照らして溶かし始めます。

 ポポロはペンダントへ手を伸ばしました。魔石へ強大な自分の魔力を送り込もうとします。

「レツウヨラカーチニ──」

 ところが、金の石が輝き始めたとたん、おどろの動きが変わりました。花鳥を追うのをやめて、振り向くように腕をフルートへ向けたのです。

「コッチだァァ!!」

 奇妙な叫び声と共に、おどろの巨体が宙に飛びました。上空にいたフルートたちと同じ高さまで飛び上がると、崩れるように、どっと襲いかかります。

 その拍子にフルートの手からペンダントが弾き飛ばされました。

 おどろは、ポチに乗ったフルートとポポロと、落ちていくペンダントになだれかかり、そのまま黒い泥の中に呑み込んでしまいました──。

2020年8月29日
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