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第27巻「絆たちの戦い」

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第10章 ハルマス

33.合流

 火の山で巨人クフに光炎の剣を鍛えてもらったフルートは、ゼンやポチとロムド城めざして飛び続けました。

 やがて海の上に出て、眼下に見えていた赤っぽい南大陸が遠ざかり始めると、彼らはいっせいに、あっと声を上げました。全員の耳に泣きながら呼ぶ少女の声が聞こえてきたからです。

「ワン、ポポロだ!」

「やべぇ。めちゃくちゃ泣いてるじゃねえか」

「ポポロ、ぼくたちは無事だよ! 用があって南大陸に行っていたんだよ!」

 フルートが返事をすると、とたんにポチは耳を伏せ、ゼンは、うひゃぁ、と耳を押さえました。返事を聞いたポポロが、安心のあまり大声で泣き出してしまったからです。少年たちの頭の中に泣き声がわんわんと響きます。

 ゼンとポチはフルートに言いました。

「ポ、ポポロはおまえに任せた。なんとか落ち着かせてやれ」

「ワン、連絡したくてもできなかったんだ、って伝えてくださいよ」

「そんな!」

 自分ひとりに責任を押しつけられて、フルートは声を上げました。それでもポポロを放ってはおけなくて、一生懸命事情を説明し始めます。筋道立てて話そうとしても、ポポロが泣きじゃくっているので、なかなか伝わりません。

 ゼンとポチは話し合いました。

「ポポロは泣いてるけどよ、メールとルルは絶対に怒ってやがるよな」

「ワン、まさかこんなに時間がかかるなんて思いませんでしたからね。きっと泣いてるポポロの横で激怒してるんだろうなぁ」

 その場面が目に浮かぶようで、ふたりは溜息をつきました。フルートの説得がメールやルルにも伝わることを、期待するしかありません。

 

 その後もポチはロムドをめざして飛び続け、フルートはポポロの説得を続けました。そのおかげで、ディーラに近づいた頃にはポポロもようやく落ち着いたようでした。フルートが仲間たちに言います。

「みんなで迎えに向かってるってさ。まもなく見えるはずだって」

「げ、こんどは俺たちが怒られる番か?」

「ワン、あまり怒ってないといいなぁ」

 ゼンとポチが戦々恐々としているところへ、本当に空の彼方から出迎えの一行が姿を現しました。風の犬のルルに乗ったポポロと、花鳥に乗ったメールの後ろには、三頭の飛竜もいます。

「ラクと竜子帝とリンメイだぞ。護衛についてきたんだな──ん?」

 目をこらしていたゼンが、不思議そうに首をかしげました。飛竜ではなく、その前を飛ぶ花鳥を眺めます。

 その間にも双方は飛びながら近づいていって、ついに空の中で出会いました。

「フルート!!」

 ポポロがルルの背中から飛び出したので、フルートは焦りました。落ちてきたポポロを両手を広げて受け止めます。

 ポポロはフルートの首に抱きついて泣き出しました。

「心配したのよ、フルート……! 呼びかけても、ずっと返事がないんですもの! すごく心配したわ……!」

「うん、うん。南大陸では声が遮られて伝わらなかったんだよ。本当に、ごめん──」

 フルートはまた説明と謝罪に大忙しになります。

 ルルのほうはフルートの背後に回って、背負っている剣を眺めました。

「ふぅん。これが炎の剣と光の剣をひとつに合成した剣なのね。綺麗な剣じゃない」

 ルルが怒り出さなかったので、ポチはほっとしました。

「ワン、光炎の剣って名前だよ。力も二つの剣を合わせたような感じなんだ」

 すると、ルルは冷ややかにポチをにらみました。

「一週間も音沙汰なしでいたのに、お詫びの一言もないの? ずいぶん図々しくなったわね」

 ポチは首筋の毛を逆立てました。

「ワン、そ、それはフルートが言ったじゃないか。連絡したくてもできなかったんだよ」

「行き先変更したんだから、南大陸に入る前に連絡できたはずよ。図々しい上に怠慢よ、本当に!」

 ルルはやっぱりかなり腹を立てていたのでした。ポチも必死で謝り始めます。

 

 そこへメールもやって来ました。彼女の乗る花鳥が全身水色だったので、ゼンはまた首を傾げました。

「水色の花鳥なんて初めてだな。どうやったんだよ?」

「へぇ、気がついたんだ。ゼンは鈍いから全然気がつかないんじゃないかと思ったのにさ」

 とメールは言いました。憎まれ口ですが、意外にも得意そうな顔をしています。

 ゼンはさらに目をこらして驚きました。

「青と白の花でできてるのかよ──って、それ、星の花じゃねえか! 北の峰で咲いてたのと同じだぞ!」

「あたり。ゼンのお父さんが北の峰から持ってきてくれたから、それを温室で増やしたんだよ。ポポロの魔法とラクの術の合わせ技でね。凍るくらい寒くたって平気で咲いてるし、こんなこともできるんだよ。見てな」

 メールが花鳥の首元をぽんとたたくと、ザザッと音を立てて花鳥の全身がうごめきました。花鳥を作っている花がいっせいに動き出したのです。見る間に水色から白一色の鳥になってしまいます。まるで巨大な白鳥のようです。

 ゼンだけでなくフルートやポチまでが驚いていると、メールは、ふふん、と得意そうに笑って、またぽんと花鳥をたたきました。また、ザザッと音がして、今度は鳥の体が青一色に変わります。

「鳥の表面に白い花が集まったり青い花が集まったりしてるんだね!」

 とフルートが言うと、メールはにやにやして答えました。

「そういうこと。星の花には白いのと青いのがあるけどさ、白い花は敵の攻撃を防ぐ力が強いんだよ。青い花のほうは闇を攻撃する聖なる力を持ってる。両方の花が混ざって水色になってるときは、その中間さ。戦いの状況に合わせて姿を使い分けることができるんだ」

 へぇっと少年たちは感心しました。

「どう? 戦う準備をしてたのは、フルートたちだけじゃないのよ」

 とルルが言いました。こちらも自分のことのように得意そうな声です。

 

 そこへ飛竜に乗った三人がやってきました。青い服の上に毛皮のコートをまとった竜子帝、髪を頭の左右でまるく束ねてフード付きの毛皮のコートを着たリンメイ、それに、こんな寒空でもいつもと同じ黄色い服に頭巾と口布という格好のラクです。

 ラクと竜子帝は挨拶もそこそこに、フルートの新しい剣に注目しました。

「ほほう、これが新しく鍛えた剣ですか。鞘に入った状態でも、かなりの力を感じます。戦闘での威力も相当でしょうな」

「光の剣と炎の剣を合わせたから光炎の剣としたのだろうが、名前が単純すぎるぞ。これだけ立派な刀なのだから、もっと箔(はく)のある名前にしたらどうだ。なんだったら朕が命名してやってもよいぞ」

 竜子帝が余計なお節介を始めそうになったので、リンメイが止めました。

「キョンったら、頼まれもしないことはやらなくていいのよ。それよりフルートたちを早くお城に連れて行かないと。ロムド国王に挨拶させたら、すぐに出発しなくちゃいけないわよ」

「あん? 出発するって、どこに?」

 とゼンが聞き返しました。

「ハルマスよ。オリバンとセシルはそっちに行っていて、あなたたちが戻ったらすぐハルマスに来いと言っているのよ」

 少年たちはたちまち不安そうな顔になりました。

「もしかしてオリバンたちも、ぼくたちがなかなか戻らなかったから、怒ってるのかな……?」

「当たり前でしょう!」

 ルルにどなられて、うわぁ、と少年たちは震え上がりました。

「ワン、オリバンはこの前もすごく怒りましたよ! きっともっと怒ってかんかんになってる!」

「おい、フルート、また説明を頼む!」

「ぼくにばかり押しつけるな! 今度はゼンが説明しろよ!」

 あたふたして言い合いになってしまいます。

 そんなフルートの腕の中で、ポポロはいつの間にか泣き止んで、静かに決意の表情を浮かべていました──。

2020年8月13日
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