「セイロスを倒せない!?」
とゼンとポチは驚きました。
「ワン、デビルドラゴンじゃなくて、セイロスのほうを倒せないって言われたんですか!?」
「どうしてだよ!? 光の剣なら闇のものには最強だろうが!」
「光の剣だからだよ」
とフルートは答えて、手の中の銀色の剣を見つめ続けました。
「この剣は闇のものならばたちどころに消滅させるけど、人間は切ってもまったく傷つけないんだ。光の剣と金の石をうまく使えば、セイロスからデビルドラゴンを追い出すことはできるかもしれない。だけど、セイロスは無傷だから、ぼくたちがデビルドラゴンを消滅させる前に、奴を呼び戻してしまう。逆にセイロスを先に攻撃したら──たとえば炎の剣で切りつけたら、セイロスは倒せるかもしれないけど、デビルドラゴンは健在だから、セイロスを復活させてしまうだろう。どちらを先に攻撃しても、結局は倒すことができないんだよ」
ゼンとポチは思わず黙り込み、フルートの話を頭の中で整理してから、聞き返しました。
「てぇことは、なんだ、セイロスとデビルドラゴンを時間差で攻撃していたら、結局はやっつけられねえって話か?」
「ワン、両方を同時に攻撃しなくちゃいけないんですね。だけど光の剣は人間には効かないから、それができないのか──。でも、セイロスに対しても、やっぱりそうなんですか? あんなに闇に近い体になってるのに」
「奴からデビルドラゴンが離れたら、奴は普通の人間と同じ状態になるんだ、って天空王から言われたよ」
とフルートが答えます。
ゼンはがしがしと頭をかきむしりました。
「ったく! そこでデビルドラゴンを退治できたら一番なのによ!」
「ワン、セイロスは絶対デビルドラゴンを呼び戻しますよね。デビルドラゴンのほうもすぐに逃げ込もうとするだろうし」
とポチも考え込んでしまいます。
フルートはまだ光の剣を見つめていました。静かな口調になって言います。
「だから、考えたんだ。どうやったらセイロスとデビルドラゴンを同時に倒せるだろうって。そして、思いついたんだ──」
ゼンとポチはまた驚きました。それは!? と聞き返します。
フルートは自分の背中から別の剣を引き抜きました。黒い柄に赤い石がはめ込まれた炎の剣です。それを光の剣と並べながら話し続けます。
「光の剣はデビルドラゴンを倒せてもセイロスは倒せない。炎の剣はセイロスを倒せるけれどデビルドラゴンは倒せない。それなら、二つの剣を一緒にしたら奴らを同時に倒せるんじゃないか、ってね」
ゼンとポチは本当にびっくりしました。
「光の剣と炎の剣を一緒にするだと!?」
「ワン、どうやるんですか!? 右手と左手に一本ずつ持つんですか!?」
「阿呆、そんなんで戦えるか! フルートは両刀遣いじゃねえぞ!」
「ワン、じゃあどうするんです!?」
すると、フルートは二本の剣をかざして見せました。
「これをひとつの剣にするんだよ。そのために剣たちとずっと話し合って、説得したんだ」
仲間たちは目をぱちくりさせました。ずっと? とポチがフルートのことばを聞きとがめます。
「剣たちにだってプライドがあるから、最初は全然承知してもらえなかったんだよ。三日三晩説得して、やっと協力を取りつけたんだ」
彼らはまた驚きました。光の武器を持ってすぐに戻ってきたように見えたフルートですが、門の向こうでは時間の流れが違っていたのです。
ゼンが腕組みして考えてから言いました。
「剣たちが承知したとしてもよ、いったいそれを誰がやるってんだ? 光の剣も炎の剣も伝説の魔剣だぞ。砥石(といし)さえ受けつけねえってのに、どうやって一本にするんだ。ドワーフだってノームだって、鍛冶屋の長のピランじっちゃんだって無理だぞ、絶対に」
「それは炎の剣から教えてもらったよ。自分を作った者なら、自分を他の剣とひとつにすることができる、って」
「ワン、自分を作った者って──」
とポチは言いました。あまりに意外なことばかり聞かされるので、フルートのことばを繰り返すことしかできません。
ゼンは腕組みしたまま、思い出すように視線を横に向けました。
「クフか。火の山の巨人の」
フルートがうなずきます。
けれども、ポチはまだ完全に納得できませんでした。心配しながら尋ねます。
「ワン、本当に光の剣と炎の剣を一緒にしちゃっていいんですか? 光の剣は天空の国の守り刀なのに。天空王は許可してくれたんですか?」
「光の剣は自分の意思で天空の国を守っているんだから、剣が自分で承知したら、天空王でもそれは止められないんだ。天空王自身がそう言ってたよ──。それに、まもなく地上も空も海も巻き込んで、光と闇の大戦争が起きる。デビルドラゴンが勝てば天空の国も破壊されるんだから、光の剣だって戦わないわけにはいかないんだ」
「だから炎の剣と一緒になるのを承知したわけか。思い切ったよな、どっちの剣も」
とゼンは言いました。何故か溜息が出ます。
フルートは炎の剣を背中に戻すと、ポチの背中をたたきました。
「そういうわけだ。このまままっすぐ南大陸に向かう。火の山の巨人のクフに会って、剣をひとつにしてもらうんだ」
「ワン、わかりました……」
ポチは場所を確認するように周囲を見回すと、方向を見定めて飛び始めました。火の山がある南大陸はそちらにあったのです。
フルートは光の剣を握りしめたまま、行く手を見つめていました。ごうごうと風が吹きつけてきても、目をそらそうとはしません。
そんなフルートをゼンとポチは黙って見守りました。本当にいいんだろうか、という不安と、でもこれが正解なんだ、という気持ちが入り交じって、ことばにならなかったのです。
前だけを見つめるフルートと、とまどいながらそれを見守るゼンとポチ。二人と一匹は南大陸に向かって空を飛んでいきました──。