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第27巻「絆たちの戦い」

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22.歓迎

 ハルマス、と会議室の人々は、ユギルが告げた場所の名前を繰り返しました。

 他国の王や重臣たちは、それはどこだろう? という顔をしますが、勇者の一行はたちまち歓声のような声を上げました。

「ハルマスだってさ! 懐かしいね!」

「覚えてるわ! 黄泉の門の前に行っちゃったゼンを、夜の魔女のレィミ・ノワールから守って戦った場所よ!」

「俺はリーリス湖でアルバの奴と決闘もしたぞ!」

「でも、あそこはあたしたちとレィミ・ノワールの戦いで、一面焼け野原になっちゃったはず……」

 とポポロが不安そうな顔になると、フルートが穏やかに答えました。

「ハルマスは陛下の指示で再建中だよ。貴族たちの別荘が建っていた土地を買い上げて、港や街を作り直しているんだ」

「ワン、しかも、病気の人が治療を受けたり療養したりすることができる、医療の街にする計画なんですよね」

 とポチが尻尾を振ります。

「ははぁ、その街の話は聞いたことがある。医療専門の街の建設とは大胆な、と思うておった」

 とアキリー女王が言うと、大司祭長がロムド王に尋ねました。

「街はどのくらい建設が進んでいますか? ロムド王が計画されているのは、ミコンの療養院や修道院を集めた場所のようですが、人員が不足しているというのであれば、ミコンからさらに応援を呼びましょう」

「それはありがたい。病や怪我を治療するための病院は八割以上完成しているし、医者や魔法医たちも集まりつつあるのだが、治療の経験が浅い者も多いので、彼らの研修が課題だったのだ。ミコンの先達から彼らに医療を直接教えてもらえたら、本当に助かる」

 とロムド王は答えました。戦闘が始まれば、必ず怪我人が出てきます。それを治療する場所と医者が早急に必要だったのです。

「援軍の駐屯する場所は? 相当な大軍になりそうですが、収容しきれますか?」

 シオン近衛大隊長の質問には、ワルラ将軍が答えました。

「それは充分にある。なにしろ、一度本当にすっかり破壊された場所だからな。このディーラからそう遠くないから、食料や物資の運搬も簡単だ」

「我が国では一昨年、冷害に備えて蓄えた麦や牧草が、今もまだ残っております。それを買い上げて、砦の食料に当てればよろしいのではないでしょうか」

 とリーンズ宰相も提案して、王や重臣たちはハルマスを新たな砦にする相談を始めました。建設や準備を進めるための役割分担や、各国が拠出する軍資金の話も出てきます。

 こういう内容になると、勇者の一行にはほとんど出番がなくなりました。まだ幼いトーマ王子さえ、父のアイル王と一緒にザカラスから支援物資をロムドに運ぶ方法など話し合っているのですが、フルートたちは加わることができません。盛んに相談する人々を、なんとなく所在なく眺めてしまいます──。

 

 すると、いつの間にかオリバンとセシルが席の後ろやってきて、話しかけてきました。

「おまえたちはここまでいれば十分だろう。私たちと一緒に来い」

「私たちも、とりあえず出番はなさそうだからな」

 そこでフルートたちはオリバンたちと一緒に会議室を抜け出しました。リーンズ宰相がそれに気がついて、うなずいて見送ってくれます。

 彼らが出て行ったのは、城の中庭でした。先日、オリバンたちが話し合った東屋や剣の稽古をした広場があります。あの頃より季節が進んだので、庭の雪もだいぶ溶けていましたが、それでも木や草はまだ雪をかぶっています。

 その中庭の真ん中あたりに、三人の男女と動物たちがいました。白い服に青いマントの青年、長い黒髪の絶世の美女、一目見たら絶対に忘れられない奇抜な化粧の道化、それに二匹の赤毛の猿と黒い鷹です。

「これはこれは勇者の皆様方──」

 と道化は大袈裟なお辞儀をして口上を始めようとしましたが、すぐに身を起こすと、急にぶっきらぼうな口調に変わりました。

「やめた。誰も見ていないんだ。面倒な挨拶なんぞ、やってられるか」

「相変わらずだな、トウガリ」

 とゼンが苦笑いしながら言いました。

「キース! アリアン!」

「ゾとヨ、グーリーも!」

 フルートたちは青年や美女だけでなく、小猿や鷹にも口々に声をかけました。全員が彼らの親しい友人たちです。

「鏡で君たちを見ていたら、会議室を抜け出すのが見えたから、先回りしたのさ」

 とキースは片目をつぶり、アリアンはほほえんで言いました。

「私たちは会議に混ざれなかったから、出てきてくれて良かったわ」

「おかえりだゾ、みんな!」

「オレたち、ずっとみんなが戻ってくるのを待ってたんだヨ!」

 と小猿たちが言うと、ピィィ、と鷹も声高く鳴きました。彼らの正体は双子のゴブリンと闇のグリフィンです。

「俺は、キースたちがぞろぞろ中庭に出て行くのを見かけて、後を追いかけてきたというわけだ。後でメーレーン様やメノア王妃様にもご挨拶に行けよ。おまえたちをずっと心配してくださっていたんだからな」

 とトウガリが言いました。彼はロムド王妃付の道化間者です。

 再会をまたひとしきり喜び合った後、セシルとオリバンがキースたちに言いました。

「ここで会えて良かった。あなたたちを呼びに行こうと思っていたんだ」

「私の部屋に来い。準備は命じてある。久しぶりでこうして揃ったのだから、一緒に食事をしようではないか」

「食事!!」

 と勇者の一行は目を輝かせました。ゼンなどは、やった! と拳を握ります。

「城に着いたら休む間もなく会議だったからよ! もう腹が減って腹が減って!」

「彼らの帰りを歓迎するなら、たしかに食事が一番だね」

 とキースは笑いました。

「食事、食事、嬉しいゾ!」

「オレたちやグーリーも行っていいヨな!?」

「もちろんだ。トウガリもどうぞ」

 とセシルが言ったので小猿や鷹は歓声を上げ、道化も嬉しそうに笑いました。

「それじゃあ俺は新しい芸を披露することにいたしましょう。それなら同席しても怪しまれないですからな」

「よし、では私の部屋に来い」

 オリバンに言われて、一同は中庭の向こうの建物にあるオリバンの部屋へと歩き出しました──。

2020年7月15日
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