「勇者フルートの冒険」シリーズのタイトルロゴ

第27巻「絆たちの戦い」

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11.目覚め

 「じゃあ、行ってくるからな」

「ポポロのこと、頼むからね」

 ゼンとメールはそう言って、扉の取っ手に手をかけました。

 ここは渦王の城の一室です。

 ベッドの上でポポロに寄り添ったルルが、二人を見送って言いました。

「大丈夫よ。任せて」

 ポポロは白い毛布に包まれて眠り続けています。

 

 ところが、扉を開けたとたん外にフルートが立っていたので、ゼンとメールはびっくり仰天しました。フルートの足元にはポチもいます。

「フルート!?」

「ポチも! いつの間に戻ってきたのよ!?」

 とルルもベッドから飛び降りてきます。

 フルートとポチはゼンたちを押しのけるようにして部屋に入りました。ベッドを見ながら尋ねます。

「ポポロは?」

「ワン、変わりないですよね?」

「ええ、ずっと眠ってるわ。お父さんには会えたの?」

 とルルに尋ねられて、フルートとポチは黙ってしまいました。その様子にゼンとメールが顔色を変えます。

「おい、なんかあったのか?」

「まさか、ポポロのお父さんに会えなかったのかい?」

「ワン、会えましたよ。ポポロのお母さんにも会いました。だけど……」

 ポチはその先をなんと続けていいのかわからなくなって、口ごもってしまいました。ルルが駆け寄ってきて体を押しつけます。

「どうしたのよ、ポチ!? お父さんとお母さんがどうかしたの!? ねえ!?」

 ゼンたちもフルートに尋ねていました。

「なんでポポロを眠らせたりしたのか、わかったのか!?」

「ポポロは起こしてもらえそうかい!?」

「カイから鍵をもらった」

 とフルートは短く答えました。鍵? と聞き返す仲間たちには答えずに、まっすぐベッドへ歩み寄ります。

 ポポロはフルートたちが出発したときと変わらず、静かに眠り続けていました。かわいらしい顔、結わずに解いたままになった赤い髪、薔薇色の頬には長いまつげが影を落としています。

 フルートは枕元に両手をつき、おおいかぶさるように身を乗り出しました。そのまま寝顔に顔を近づけます。

 仲間たちは目を丸くしました。フルートがポポロにまたキスをするのではないかと思ったのです。思わず二人を見守ってしまいます。

 けれども、フルートが唇を寄せたのは、ポポロの唇ではなく耳元でした。そっと何かをささやきます。ごく低い声だったので、なんと言ったのか仲間たちには聞きとれません──。

 

 すると、ポポロが身動きをしました。ずっと何も言わなかった唇が動いて、ん……と声を上げ、ぱっちりと目を開きます。宝石のような緑の瞳が、すぐ目の前にいたフルートを見上げます。

「ポポロ!!!」

 仲間たちはいっせいに叫んでベッドに殺到しました。

 メールがフルートを押しのけるようにしてのぞき込みます。

「ポポロ! ポポロ! あたいたちがわかるかい!?」

「おい、ポポロ! 大丈夫か!? どこか具合の悪いところはねえか!?」

 とゼンもフルートとメールの間に割り込んで尋ねます。

 ポポロは驚いたように彼らを見つめ、すぐに周囲を見回しました。

「ここは……?」

 話す声も以前と変わりません。

 ポチとルルはベッドに前足をかけて伸び上がりました。

「ワン、ここは渦王の城ですよ」

「あなたは一ヶ月も眠り続けていたのよ」

 ポポロはまた驚いた顔になると、少しの間、何も言わなくなりました。記憶をたどったのです。すぐに顔色が青ざめ、みるみる目に涙が溜まり始めます。

「あたし……セイロスの魔法を解いて、エスタ王を元に戻したわ。アーペン城で……。あたしは……あたしの正体は……」

 仲間たちはことばに詰まりました。ポポロはセイロスの魔法を打ち破ることで、自分に隠されていた真実を知ってしまったのです。なんと答えたら良いのか、とっさにはわからなくなります。

 ポポロはますます青ざめ、自分を見つめていたフルートをまた見上げました。

「フルート……あたし、本当は……」

 せっかく目覚めた顔が、今にも大泣きしそうに歪んでいます。

 すると、フルートがいきなりポポロをベッドから抱き取りました。ベッドに片膝をかけた格好で、両腕の中に彼女を抱きしめます。

 ポポロの目からついに涙がこぼれました。顔を歪め、目を閉じて繰り返します。

「フルート、あたし、あたし……」

 ことばにすることを恐れるように、声が震えました。涙はこぼれ続けます。

 フルートはそんな彼女を抱きしめました。いっそう力を込めて、強く強く──。

 ポポロは驚いてまた目を開けました。フルートの抱擁は強すぎて痛いくらいでした。鎧の胸当てと籠手の間に挟まれて、息が詰まってしまいそうです。それなのに、フルートはまだ抱きしめる腕に力を込めていくのです。

 フルートの様子がただ事でなく感じられて、ポポロは自分の涙を忘れてしまいました。フルートの腕からは強い怒りが伝わってきます。同時に深い悲しみも。

 ポポロは苦労しながら振り向こうとしました。どんなに首をねじっても、フルートの顔を見ることはできません。

「フルート──」

 どうしたの? と尋ねようとすると、それより先にフルートが言いました。

「ごめん、ポポロ……。本当にごめん……」

 うめくような声です。

 何故謝られるのかわからなくて、ポポロは目を見張りました。

 仲間たちも驚いて見つめてしまいます。

 フルートはポポロを抱いたまま、体を震わせてむせび泣き始めました──。

2020年6月26日
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