「勇者フルートの冒険」シリーズのタイトルロゴ

第27巻「絆たちの戦い」

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10.変化

 「なんで……こんな……?」

 部屋の中に突然出現した白い岩を前に、フルートは立ちすくんでいました。何が起きたのかわかりません。消えていこうとしていたカイが、突然実体化して岩に変わってしまったのです。

 すると、隣の部屋から急にレオンたちの叫び声が聞こえました。ワンワンワン! とポチがものすごい勢いで飛び込んできます。

「大変です、フルート!! おばさんが──!!」

 そこまで言ってポチは目を見張りました。部屋の真ん中の岩を見たのです。

「ワン、まさかおじさんも……?」

 それを聞いてフルートは部屋を飛び出しました。隣の居間に飛び込み、立ちすくんで呆然としているレオンとビーラーに出くわします。彼らの前には、同じような白い岩が天井までそそり立っていました。テーブルの向こう、先ほどまでフレアが座っていた場所です。

 ポチが駆け戻ってきてレオンたちに言いました。

「ワン、隣の部屋でも同じことが起きてる! おじさんも岩になってしまってますよ!」

「やっぱり、これはフレアなのか……でも、どうして……?」

 フルートはそそり立つ岩に触れてみました。ごつごつした手触りの白い結晶は、カイが変わった岩とうりふたつでした。

 ようやく我に返ったレオンが言いました。

「彼女はぼくたちと闇大陸での出来事を話していたんだ。あの時どうしていたのかとか、あれからどうなったのかとか。そのうちに、いきなり彼女が椅子から倒れそうになったから、あわてて支えようとしたら、こうなったんだ──。巨大な魔法が動いたのは感じたんだが、呪文は聞こえなかった。たぶん、何かをきっかけに発動するように仕掛けられていたんだ」

「きっかけってなんだ? ぼくたちはただ話し合っていただけだろう!?」

 とビーラーが聞き返します。

 フルートは思わず両手で顔をおおいました。うめくように言います。

「消えかけたんだよ、カイもフレアも。闇大陸での真実を口に出して話したから、呪いが発動したんだ……。そして、それをきっかけに、二人とも岩になってしまったんだ……」

 仲間たちはまた驚きました。

 ポチが背中の毛を逆立てて言います。

「ワン、竜の呪いだったんですか? でも、岩になるなんて呪い、どうして──?」

「わからない……どうしてかなんて、ぼくにもわからないよ……」

 とフルートは繰り返しました。すっかり混乱していましたが、それでもカイに送り込まれた目覚めのことばは、確かにまだフルートの頭の中にありました。「あの子たちをよろしく頼むよ」と言ったカイの声が耳の底に響いています──。

 

 すると、部屋の中に突然まぶしい光があふれました。澄んだ銀の光が、フルートたちと岩になったフレアを照らします。

 光が収まっていった後に立っていたのは、白銀の髪とひげの背の高い男性でした。黒い長衣の上で星のような光がきらめき、頭上では金の冠が輝いています。

「天空王!」

「天空王様!?」

 フルートたちはいっせいに言いました。天空の国の王が部屋の中に現れたのです。レオンとビーラーは、謹慎の塔から黙って抜け出したことを思い出して、後ずさってしまいます。

 けれども、天空王はレオンたちには目を向けませんでした。フレアが変わった岩を見上げ、見透かすように隣の部屋のほうへ目を向けると、溜息をついてフルートに向き直ります。

「私の魔法が発動したのを感じて、やってきたのだ。彼らは過去の真実を語ったのだな?」

 フルートはまた驚いて聞き返しました。

「カイとフレアを岩にしたのは天空王なんですか!? どうしてです!?」

「彼らを消滅させないためだ」

 と天空王は答えて、ちょっと手を振りました。とたんにフルートからもレオンや犬たちからも、驚き混乱する気持ちが消えていきました。天空王が魔法を使ったのです。

 落ち着いた表情になった一行に、天空王は話し続けました。

「カイとフレアは闇大陸で過去の真実を見てきてしまったために、闇の竜の呪いに捕らえられた。おまえたちも知っての通り、真実を語ろうとすればたちまちこの世から消滅してしまう呪いだ。彼らはこれまで真実を語ることはなかった。闇大陸で何があったか、ポポロの正体が何であるか、私には察しがついていたが、彼らにそれを確かめることはしなかった。だが、いつの日か、彼らがそれを語ろうとすることがあるかもしれないと思って、彼らに魔法をかけておいたのだ──。石像にするのでは間に合わない。かの呪いは石像になった彼らを破壊してしまう。獣や木に変えることもできない。それでも呪いは彼らを殺すだろう。呪いから彼らを守るためには、元の姿とはまったく違う、生き物でさえもないものに変えるしかなかったのだ」

 一行は唖然としました。カイがポポロに眠りの魔法をかけたように、天空王はカイとフレアに岩に変わる魔法をかけていたのです。

「ワン、おじさんとおばさんは、ずっとこのままなんですか? ずっと?」

 とポチが尋ねました。それも、つい先ほどフルートがカイに尋ねたのと同じ質問でした。

 天空王は答えました。

「私がかけた魔法だ。私には解くことができる。だが、今はできない。元に戻したとたん、彼らはまた呪いに捕まって消滅してしまうのだ」

 一行は困惑しました。天空王のことばは、カイとフレアは永遠にこのままなのだと言っているようです。

 

 けれども、フルートだけは強い声になって言いました。

「ひとつだけ方法がある。セイロスをデビルドラゴンごと倒すんだ。そうすれば呪いも消滅するはずだ」

 確かめるようにフルートに見上げられて、天空王はうなずきました。

「それが唯一の正解だ。だが、最も困難な方法でもある」

「やります。元々ぼくたちはそのために戦っているんですから──。戻ろう、ポチ。渦王の島に帰ってポポロを起こすんだ」

 天空王から落ち着かせてもらったはずの仲間たちは、また仰天してしまいました。

「ワン、眠りの魔法を解く方法がわかったんですか!?」

「魔法をかけたカイは岩になってしまったのに!?」

「いったいどうやって!?」

 すると、天空王はのぞき込むようにフルートの目を見てから言いました。

「カイから目覚めの鍵を託されたのだな──。レオン、ビーラー、彼らをポポロの元まで送り届けなさい。それが終わったら、すぐに戻ってくるのだ。おまえたちの謹慎はもう解かれた。三度目の光と闇の戦いはすでに始まっている。天の軍勢が理に呼ばれて地上へ下る日も近いだろう」

 レオンとビーラーは目を見張り、すぐに緊張した表情になりました。レオンがうなずき返して言います。

「わかりました。彼らを送り届けたら、すぐに戻って出撃に備えます」

 ビーラーもレオンの横に立って、シュッシュッと白い尾を振りました。レオンを地上の戦場へ運ぶのは、風の犬になった彼なのです。部屋の空気が一瞬で張り詰めた雰囲気に変わります。

 フルートはもう一度確かめるように天空王を見ました。

「ぼくたちがデビルドラゴンを倒すまで、カイとフレアは無事でいますね? 誰からも傷つけられたり──壊されたりしませんね?」

「ここはその日まで誰も立ち入れない聖域にしておく。安心しなさい」

 と天空王が答えました。

「よし、それじゃ渦王の島へ君たちを送るぞ」

 とレオンは言うと、さっそく目の前に光の通り道の入り口を開けました──。

2020年6月25日
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