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第27巻「絆たちの戦い」

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第1章 七王会議

1.七王会議

 「彼らはいったいどこにいるのじゃ!? まだ見つからぬというのか!?」

 もう我慢できない、と言うように声を上げたのは、テト国のアキリー女王でした。ふくよかな体に豪華な刺繍の服を着て、冠のような帽子をかぶった中年の女性です。円卓に頬杖をつき、もう一方の手でいらいらとテーブルの表面をたたいています。

「朕(ちん)に同行してきた占神が占っているが、やはり彼らは見つからん。占神が見つけられないのだから、他の占い師に彼らを探し出せるはずはないぞ」

 と隣から言ったのは銀の刺繍を施した青い服の若者でした。背は高いのですが、少年からやっと青年になったばかりの年頃なので、顔にはまだ少し幼さが残っています。それでいて話すことばや態度はかなり尊大です。彼は東の大国ユラサイの皇帝の竜子帝でした。

 すると、アキリー女王の反対側の隣から、アイル王が言いました。

「か、彼らはきっと、魔法の力で自分たちを、か、隠しているのだ。だ、だが、このロムド国には大陸随一と名高い、せ、占者のユギル殿がいる。ユ、ユギル殿なら、か、彼らの行方を見つけ出してくれるかもしれない」

 アイル王は豪華な服を着て金の冠をかぶっていましたが、そんな衣装も貧相な体格を隠しきることはできませんでした。表情もなんとなく頼りなげでおどおどしているし、話すことばもつまずき気味です。それが西の大国と呼ばれるザカラスの国王でした。このロムド国の王妃の兄でもあります。

「彼らは石にされたわしを元に戻してくれた後、姿を消してしまったのだ。彼らは我が国の内乱も未然に防いでくれたし、わしの弟も改心させてくれた。わしはなんとしても彼らを見つけ出したいのだ」

 と竜子帝の隣から言ったのはエスタ国王でした。元々は非常に恰幅の良い体格の人物なのですが、今はだいぶ痩せて少しスタイルが良くなっていました。エスタ王は二ヶ月間ほど敵に捕らえられたあげく、石像に変えられていたのです。

「私も神官たちに彼らを探させておりますし、神殿にてユリスナイに神託を伺っております。けれども、まだ彼らが見つかったという知らせは入ってまいりません」

 と神の都ミコンの大司祭長が言いました。短い赤い髪に南方系の浅黒い肌をした男性で、純白の長衣に神の象徴を首から下げ、大司祭長のしるしの細い銀の肩掛けをつけています。王たちが居並ぶ部屋の中、彼は国王というわけではありませんでしたが、神に仕える信者や魔法使いたちが暮らすミコンは一国に等しい力を持っているので、事実上の王と言える人物でした。今はエスタ王の隣で円卓を囲んでいます。

 大司祭長の隣から、この国と城の主であるロムド王が口を開きました。

「彼らを案じてこうして駆けつけてくれた諸君に、心から感謝する。つい先ほど、メイ女王が城に着いたと知らせが入った。これで同盟の王が全員揃ったことになる。メイ女王が到着次第、会議を始めるとしよう」

 ロムド王は銀の髪とひげの初老の人物で、この部屋の王たちの中では一番年上でしたが、実際の年齢よりずっと若々しく見えていました。話す声も張りがあってよく響きます。

 

 すると、そこへ当のメイ女王が入ってきました。テトのアキリー女王ほどではありませんが、ふくよかな体つきの中年の女性で、やはりとても豪華な服を着ています。

「遅うなってすまなんだ」

 と王たちに挨拶すると、いきなりロムド王に食ってかかります。

「それで!? フルートたちはどこにいるのじゃ!? ここに来るまでの道中、世間は彼らについてのとんでもない噂で持ちきりになっておったぞ! 何故、あんな噂を野放しにしているのじゃ!?」

 責めたてる厳しい口調です。

 すると、アキリー女王が、ほう、と言いました。

「メイ女王は昨年の会議で、フルートはやがてデビルドラゴンになるから信用できない、と力説して席を立ったではないか。それなのに、今は彼らを案じているわけか。てっきり、それ見たことか、と自慢するのかと思うておったぞ」

 からかうように言われて、メイ女王はアキリー女王をにらみつけました。

「わらわも彼らに国と命を救われたのじゃ。今はもう彼らの潔白を疑ってはおらぬ」

 と言い返しますが、さすがにばつが悪くなったのか、怒りの勢いはそがれてしまいました。

 その隙を逃さずロムド王は言いました。

「我々も勇者たちの潔白を信じている。だが、ことは単純ではないのだ。そのために諸君に集まっていただいた。さっそく話し合いを始めよう」

 これが後に七王会議と呼ばれるようになる会議の始まりでした。前年同じ場所で開催された六王会議の顔ぶれにユラサイの竜子帝が加わって、王がひとり増えています。

 

「か、彼らが姿を消してから、も、もう一ヵ月が過ぎた。皆が探し続けているのだが、いっこうにみ、見つからないのだ」

 とアイル王は隣に座ったメイ女王に言いました。

「正体を暴露されてしまったために、セイロスとの戦闘をやめて逃げ出したのだ、と口さがない者たちがしきりに噂しておった。まったく馬鹿げた噂じゃ」

 とメイ女王は顔をしかめました。また怒り出しそうな気配が漂います。

 ロムド王が重々しく答えました。

「いや、それが本当にその通りなのだ。少なくとも、傍目にはそのように見える行動を彼らはとった。あのとき、このディーラはセイロスと飛竜部隊に激しく攻撃されていた。彼らは竜の怪物から都を守り、フルートはセイロスと一騎討ちをしていたのだが、突然侵入してきたカラスの声を聞いたとたん、一騎討ちも都を守ることも放棄して退却してしまった。そして、それきり戻ってこないのだ──」

「馬鹿げておる! 彼らがそのような逃亡をするはずがないであろう!」

 メイ女王が反論すると、アキリー女王も今度はそれに賛同しました。

「その通りじゃ。それに、そのカラスとやらは魔物だったと聞いている。なにしろ、その声はディーラだけでなく、遠くエスタ国やザカラス国、南西諸国の住人も聞いたというからな。空からいきなり声が響いてきたから、人々は何事かと思ったようじゃ。そんな大がかりな闇魔法が使える者は、デビルドラゴンが人となったセイロスしかおらぬ。皆がセイロスの策略にはまっているのじゃ」

 ところが、大司祭長が首を振って言いました。

「くだんのカラスはセイロスが呼び出したものではないようです──。私はあのとき、ミコンの大神殿でディーラの戦闘の様子を見ておりました。ミコンの武僧軍団を応援に送りたいと思ったのですが、ディーラはセイロスの妨害のために魔法で飛ぶことができなくなっていて、ただ見守ることしかできなかったのです。あのカラスは闇の魔物の霊のようでした。だから、その声も遠く離れた大陸のあちこちに届いたのです。そして、他ならないセイロスが、カラスの言った内容に驚いておりました。勇者殿たちは確かに戦闘を放棄して退却しましたが、その後、セイロスがいくらも戦わないうちに退却していったのは、やはり話の内容に衝撃を受けたからだろうと思われるのです」

「ありえない! あの話が本当のことだとでも言うのか!? あんな──あんな侮辱的な話が!」

 と竜子帝が憤慨してテーブルを拳でたたきました。もしも、そばに婚約者のリンメイがいたら、「失礼よ、キョン!」と叱られたところです。

 すると、エスタ王が考え込むように言いました。

「ポポロの正体はセイロスの婚約者、セイロスの女だ。勇者の一行は敵の大将とぐるになっていたのだ、か」

 闇のカラスが大陸中に吹聴したことばでした。メイ女王、アキリー女王、竜子帝の三人がたちまち顔色を変えて立ち上がります。

 けれども、エスタ王は手にした錫(しゃく)を見つめながら話し続けました。

「もちろん、これはとんでもない中傷だ。フルートたちはもちろんのこと、ポポロもそんな者ではない。我々はそれをよく知っているし、仮に我々がだまされていたとしても、この錫をだますことはできない。だが、わしを石像の呪いから救ってくれたとき、彼らの様子は尋常ではなかった。ポポロに至っては、気を失っていたのか、意識のない状態でフルートに抱きかかえられていた。あのような一行をわしは初めて見た。だからこそ、この噂を単なる誹謗中傷ではないとにらんだのだ……」

 王が持っているのは、天空王から授けられた真実の錫でした。心に偽りを持つ者が触れれば、たちどころに罰を受けて姿が変わる、魔法の道具です。

 

 ロムド王はまた重々しく話し出しました。

「先に到着していた諸君には話していたことだが、メイ女王が到着したので、もう一度話すことにしよう──。半年ほど前、フルートたち勇者の一行は闇大陸という、別の空間に閉じられた場所に向かった。そこは二千年前にデビルドラゴンとの最終決戦が行われた場所なのだが、奴が力を分け与えた竜の宝が今も隠されているというので、見つけ出して破壊しようとしたのだ。レオンという天空の国の魔法使いの少年が、彼らに力を貸していた。だが、一回目は途中で挫折して引き返してしまった。闇大陸は、彼らの力でも一筋縄ではいかない、非常に困難な場所だったのだ。その後、今度は少年たちだけが再び闇大陸に向かい、ついに竜の宝があった場所までたどりついた。だが、その時にはもう竜の宝は寿命が尽きて消滅していた。自分たちは竜の宝を破壊できなかったが、セイロスも竜の宝と力を手に入れることはできなくなったのだ、と彼らは言っていた──。ところが、二度目の闇大陸から帰ってきてから、フルートの態度が微妙に変化した。元々口数の多い少年ではなかったが、ますますことば少なくなって、考え込むことが増え、それと同時に守ろうとする気持ちをいっそう強くしていったのだ──。結局、あのカラスは真実を言っていたのだろう、と我々は考えている。大陸中に響き渡ったのは、ポポロを卑しめ勇者の一行を裏切り者呼ばわりする讒言(ざんげん)だったが、その前、カラスはこのディーラで、ポポロはエリーテというセイロスの婚約者の生まれ変わりだ、と話していたのだ。エリーテはセイロスとの婚約を破棄しようとして、逆にセイロスに捕らえられ、無理矢理にデビルドラゴンの力の一部を与えられて、竜の宝とされてしまったらしい。それでも光の軍勢に協力して、セイロスを地の果てに幽閉することに成功したのだが、彼女はセイロスの呪いで塔に貼り付けられてしまった。おそらく二千年もの長きに渡って……。どういう方法でそこから解放されたのか我々にはわからないが、彼女はその後、ポポロという少女になって天空の国に生まれ変わった。そして、フルートたちと巡り会い、自分の正体を知らないままに、因縁の相手であるセイロスやデビルドラゴンと戦ってきたのだ。フルートたちは闇大陸でその真実を知ったのだろう。だからこそ、ポポロを守らなくてはいけないという気持ちを強め、カラスがセイロスに真実を告げたために、彼女をセイロスから守ろうとして姿を隠した──我々はそう考えているのだ」

 

 メイ女王はロムド王の話を黙って聞いていましたが、次第に意外そうな顔になっていきました。話し終えたロムド王に聞き返そうとします。

 ところが、それより早く竜子帝が声を上げました。

「我々とロムド王は言うが、朕はその話に納得しているわけではないぞ! 何度も言うが、ポポロがエリーテとかいう女性の生まれ変わりというのは、どうしても信じがたい! 人が死んで生まれ変わるなどありえないことだ!」

 すると、ミコンの大司祭長も言いました。

「我々としても、人間の生まれ変わりというものは信じておりません。死者の世界はユリスナイによって守られている光の世界です。闇のものの魂は、黄泉の門をくぐって死者の国に行くことができないために、再びこの世に生まれ変わってくると言われておりますが、我々人間は死んでユリスナイの元へ行くことができます。昔からそう信じられております──が」

 厳かだった大司祭長の声が、急に調子を変えました。考え込むような口調になって、話し続けます。

「ポポロ様は天空の国に生まれてこられた。それはつまり、天空の国の魔法使いが関わったということです。かの国には偉大なる魔法使いの天空王もおいでになる。かの国ならば、あり得ないようなことも可能なのかもしれません」

 それを聞いて、竜子帝は口を尖らせて黙りました。天空の国の力だと言われて、不承ぶしょう納得したのです。

 ようやく話す順番が回ってきたメイ女王が、ロムド王に言いました。

「つまり、フルートたちやポポロが我々を裏切っているというのは、とんでもない偽りじゃが、ポポロがかつてセイロスの許嫁(いいなずけ)で、生まれ変わってポポロになったというのは真実だ、と言うのじゃな? 信じがたいようなことではあるが、筋は通っておる。ポポロの魔力は、回数に制限こそあるが、あり得ないほど強大じゃ。デビルドラゴンの力を身の内に持っているというのであれば、納得もいく」

「そうだとしたら、メイ女王はどうするおつもりじゃ? フルートが潔白であったのは信じられただろうが、今度はポポロを排除せよと言い出すのではなかろうな?」

 と言ったのはアキリー女王でした。皮肉と非難が入り交じった口調です。

 メイ女王はまたアキリー女王をにらみ返しました。

「わらわはもう彼らの潔白を信じておると言うたはずじゃ。彼らの中にはポポロも含まれておる」

 女王同士の喧嘩が始まるのではないかとひやひやしていた王たちは、密かに、ほっと胸を撫で下ろしました。アキリー女王も、ふん、と笑うと、あとはもう皮肉を言わなくなりました。

 

 メイ女王はロムド王へ話し続けました。

「真相はわかった。ロムド王が世間の悪評をなかなか取り締まれない理由も、ようわかった。半分は真実なのだから、なかなか否定もしにくいじゃろう」

「広がっていく悪評を取り締まっていないわけではないのだ。ロムドの国民には、勇者を疑うことはならない、と強く言い渡してあるから、表だって彼らを疑う者は少なくなっている。だが、人の心にまで規制や命令をすることは難しい。口には出さなくても、心の中で疑念をくすぶらせている者はいることだろう」

 とロムド王は答えました。

「そ、そういう想いこそ、と、統制することは困難なのだ」

 とアイル王も言いました。勇者たちの悪評はザカラス国にも広がっていたので、なんとか打ち消そうとしたのですが、やはりうまくいかなかったのです。

「どうにかして彼らの名誉を回復しなくてはならない。なんとしても彼ら見つけなくては」

 とエスタ王が言いました。そのために王たちは占者や神官に勇者の一行の行方を占わせているのです。ポポロの故郷の天空の国へ行ったのではないか、とも言われていましたが、それも定かではありません。

 すると、大司祭長がまた考えながら言いました。

「問題はもう一つあります。事の真相をあのセイロスも知ったと言うことです。ポポロ様が婚約者の生まれ変わりと知ったセイロスは、きっとポポロ様を奪い返そうとすることでしょう。そうなれば、分け与えられたというデビルドラゴンの力は、またセイロスに戻って行くことになる。それは絶対に実現させてはいけないことです」

 王や女王たちはうなずき、そのまま黙り込んでしまいました。なすべきことは決まっていても、そのためにどうすれば良いかがわからなかったのです。

 会議の間が沈黙で充たされました──。

2020年6月6日
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