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第26巻「飛竜部隊の戦い」

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109.王たち

 ユラサイからの飛竜でやってきた一行は、ロムド城の大ホールでロムド王たちと面会しました。ユラサイの側は竜子帝をはじめとする五十人ほどの集団。対するロムド側は、ロムド王とリーンズ宰相とゴーリスとユギル、それにオリバンとセシルという顔ぶれです。

 竜子帝はまだ年若い皇帝でしたが、青と銀の立派な服に身を包み、両手を合わせて礼をしてから言いました。

「朕(ちん)がユラサイの皇帝の竜子帝である。そなたがロムド王か。こたびの敵の襲撃と戦闘の被害、誠に気の毒であったな」

 歳の割にはいささか偉そうな物言いでしたが、ロムド王は丁寧に頭を下げて答えました。

「遠路はるばる救援に駆けつけてくださったことに、心から感謝します。敵の大将はディーラから撤退しましたが、どこかに潜んで次の機会を狙っています。ユラサイの応援は誠に心強い限りです」

 竜子帝は鷹揚(おうよう)にうなずきました。ロムド王の孫と言っても良いほどの年齢なのですが、大陸随一の大国の皇帝だけあってか、やはり態度が偉そうです。

 すると、隣に控えていた娘がいきなり竜子帝に肘鉄を食らわせました。不意を突かれて思わずうめいた帝に、きつい口調で言います。

「何をそんなに威張っているのよ、キョン! 私たちは戦闘に間に合わなかったのよ!? 私たちが間に合ったら、被害はもっと少なかったかもしれないんだから、もっとすまなそうな態度を取らなくちゃだめじゃない! まったく!」

「そ、そんな、リンメイ。朕は別に──」

 皇帝がいきなり婚約者から叱り飛ばされて、しどろもどろになったので、ロムドの人々は目を丸くしました。皇帝たちの後ろでは、居並ぶ家臣たちが、やれやれ、まただ、という顔をしています。

 オリバンとセシルが笑いながら進み出ました。

「久しぶりだが変わらないな、竜子帝、リンメイ」

「二人とも相変わらず仲がいい」

 皇帝と婚約者もすぐに笑顔になりました。

「オリバン、セシル。久しぶりだ」

「また会えて嬉しいわ。ユギルも元気そうで何よりね」

「恐れ入ります、リンメイ様」

 と銀髪の占者もうやうやしく答えます。

 

 すると、黄色い頭巾をかぶり同じ色の布で口元を隠した男が、竜子帝の後ろから進み出ました。ユラサイの術師のラクです。遠慮しながらもロムド側へ言います。

「ここで口を挟むご無礼をお許しください──。我々に同行してきた占神が体調を崩しております。どうにかここまで持ちこたえてきましたが、私の術ではもう限界です。優秀な医者に今すぐ診ていただけますでしょうか」

「占神も一緒だったのか!」

「あの体でユラサイから!?」

 とオリバンとセシルは驚きました。占神は生まれつき障害があって一歩も歩くことができなかったのです。

 ラクが言いました。

「先代の占神が同行して付き添っております。飛竜に乗れば占神でも長距離を移動できますが、元々体が丈夫ではない方なので、途中から高熱を出されて、ずっと意識のない状態が続いているのです。お願いです。一刻も早く占神の治療をお願いします」

 リーンズ宰相はうなずきました。

「承知しました。我が国には優秀な魔法医のチームがあります。ただちに占神の元へ派遣いたしましょう」

「ありがとうございます」

 ラクは手を合わせて感謝すると、宰相と共にホールを出て行きました。

 ユラサイの一行が安堵の顔になります。

 

「飛竜は寒さに弱いので、朕たちは南方の属国を通り、テト国とエスタ国を通過して、ここまでやって来た」

 と竜子帝はまた話し出しました。

「そのために到着に時間がかかったのだが、テト国はともかく、エスタ国は敵の飛竜部隊に攻撃されて、非常に動揺していた。朕たちを敵と勘違いして攻撃してきた町があったほどだ。ロムド国に入ってからも、人々は動揺していたのだが、不安の理由が違っていた。ロムドの住人が恐れていたのは飛竜部隊ではなかった。もっと別の──ある噂だ」

 ロムド側の人々は、はっとしました。返答に迷っていると、竜子帝は話し続けました。

「人々は、金の石の勇者たちが裏切っていたらしい、と噂し合っていた。あろうことか、ポポロは闇の手先の魔女で、正体がばれたからロムドから逃げ出したのだ、と。実に馬鹿げた噂だ。敵はずいぶん下手な噂を流したものだ、と朕たちは思っていた──。だが、ここに来てみたらフルートたちがいない。何故だ? そなたたちは噂を信じ込んで、彼らを本当に追放したのか? フルートたちはそなたたちと共に戦っていたはずだぞ! 彼らはそなたたちの身内ではなかったのか!?」

 竜子帝の声は厳しくなっていました。先ほどの偉そうな言い方とは違う口調です。リンメイも今度は竜子帝をとがめません。

 それは……とオリバンやセシルは口ごもりました。一言ではとても説明できない事情です。

 

 すると、竜子帝はロムドの人々をにらむように見回しました。何故否定しない? と目で彼らを批難しながら言い続けます。

「実を言えば、朕たちはここに到着する前に、エスタ国でフルートたちを見かけたのだ。遠目だったが、あれは彼らだったと思う」

 ロムド王たちは驚きました。

「勇者の一行を見かけたのか!?」

「エスタ国のどこで!?」

 竜子帝は口をとがらせました。怒った口調で答えます。

「彼らは空を飛んでいた。遠くてよくわからなかったが、花鳥とポチに乗っていたのだと思う。後を追ったが、彼らはすぐに見えなくなってしまった。空の高みに向かっていって、雲の間に消えていったのだ」

「空の高みに……」

 とオリバンとセシルは顔を見合わせました。

 ロムド王がユギルに尋ねます。

「彼らはどこへ向かったのだ?」

 占者は占盤に目を落としました。

「勇者殿たちの象徴はいまだに隠されたままです。ですが、おそらく天空の国に向かったのではないかと存じます」

 天空の国はポポロの故郷です。ポポロの庇護を求めて向かうには妥当な場所でした。

 

 けれども、竜子帝はまだ腹を立てていました。

「天空の国!? 何故フルートたちはそこへ行ったのだ!? 悪い噂から身を隠したのか!? そなたたちが彼らを守ってやらなかったから──!」

 ロムド王は首を振って言いました。

「帝が立腹されるのは当然だ。だが、我々にも事情があったのだ。彼らを守りたいと思っても、それがかなわなかった。まずは話を聞いてもらいたい」

「無論だ!」

 と竜子帝が答えたところへ、リーンズ宰相が戻ってきました。ホールの中の異様な雰囲気を気にかけながら、ロムド王へ報告します。

「陛下、ただいまエスタ国から早鳥の知らせが入りました。エスタ国王が勇者の一行によって元の姿に戻ることができたそうです。ただ、勇者殿たちのその後の所在は不明。エスタ王は、勇者殿たちの名誉を守るためにただちにこちらへ向かう、とおっしゃっておいでです」

 エスタ王がフルートたちに救われたと知って、一同はまた驚きました。誰もが詳細を知りたがりましたが、リーンズ宰相は次の報告に移りました。

「ザカラス城からも伝声鳥を通じて連絡がございました。ザカラス王がトーマ王子と共にこちらへ出発されたそうです。例の噂はとても容認できない。陛下とぜひ話し合いたい、とおっしゃっておいでだそうです」

「皆が彼らを心配している」

 とロムド王はつぶやき、改めて竜子帝に言いました。

「我々は勇者たちを疑ったわけでも見捨てたわけでもない。だが、簡単には説明できない深い事情があるのだ。各国の王たちもここに集まってくるようだ。皆で話し合い、どうしたらよいか一緒に考えてもらいたい」

「承知した」

 いったいどんな事情があるのだろう、といぶかりながら、竜子帝が答えます。

 

 この後、ロムド、ユラサイ、エスタ、ザカラスだけでなく、メイ、テト、神の都ミコンからも王や女王、大司祭長がロムド城に集まり、勇者の一行について話し合いを行いました。

 七つの国の王たちが一堂に会したために、前年の六王会議にちなんで、七王会議と呼ばれるようになる集まりなのですが、それはもうしばらく先の話でした──。

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